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知らなければ良かったなんて

 ザァザァと規則正しい雨音が聞こえる。

 

 教室では傘を忘れた人が暇つぶしに使っていて、いつもより賑やかだ。

 

 かくいう私もその一人だったりする。

 

 私は窓の外を眺めた後、こっそりとため息をついた。

 

 今日は朝から囲み取材で、ようやく解放されたところだった。

 

 机から取り出した教科書を手に、集中もできないままパラパラとめくっていく。

 

 目の前に座るルーナも同じようでノートに落書きをし始めていた。

 

 それを横目で見ながら今日やった授業のページを開いてみたけど、数行読んでパタンと閉じた。

 

 やっぱりダメだ。頭に入ってこない。

 

 諦めて図書館にでも行こうかなと荷物をまとめて、ルーナに声をかけようとしたその時、やけに甲高い声が耳に届く。

 

「エリーナ様って婚約破棄したんですって。次の相手は絶望的よねぇ。」

 

 バサっと扇子を開いて口元を覆った金髪のクラスメイトは嫌味ったらしくこちらを見た後でクスッと笑った。

 

 確か私と同じ伯爵家のイザベラ様だ。

 

「本当よ。せっかく侯爵家との婚約だったのに反故にするなんて、勿体無いわ。」

 

 黒髪にボブの彼女はイザベラ様の言葉に大きく頷きながらチラッと私を見た。

 

「浮気の一つも見過ごせないなんて、なんて心が狭いのかしら。」

 

 オホホと教室内に響く笑い声に私は耳を塞ぎたい衝動に駆られる。

 

 それでも実行しなかったのは、負けたくなかったからだと思う。

 

「つまらない嫉妬ほど醜いものなんてないわね。あーあ、嫌になっちゃう。」

 

 私の前に座っていたルーナはダンっと立ってからニヤッと笑ってイザベラ様の方を見た。

 

「なっ……!どうゆう意味よ!?」

 

 イザベラ様はぷるぷると怒りに震えている。

 

「だってそうでしょう? 同じ伯爵家なのに侯爵様と婚約できなくて妬んでたのが解消になったんだもん。それで自分が上にでもなったとでも思ってるんでしょ。そんな薄っぺらいプライドなんて捨てちゃえば?」

 

 イザベラ様はバンっと怒りのままに扇子をたたむ。そしてそれをルーナへと向けた。

 

「黙って聞いてればなんたる侮辱! お父様に報告しますわよ!?」

 

「えー? 言い返されたら親に告げ口? こっちだって黙ってるわけないでしょ。先に私の親友を侮辱したのはそっちなんだから!」

 

「……っ」

 

 ルーナのあまりの迫力にイザベラ様はパクパクと真っ赤になったまま固まってしまった。

 

「行きますわよ!」

 

 だけど睨み合いの末にルーナが勝ったようで、イザベラ様は悔しそうに鞄を持ってドタドタと教室から出ていった。

 

 私は呆然とその光景を見た後ハッと我に帰ってルーナの方を見た。

 

「ありがとう、ルーナ。」

 

「いいよ。私も聞いてて気分良くなかったし。」

 

 ルーナは腰を下ろして、ブスッと頬杖をついた。

 

「やっぱりルーナはかっこいいね。」

 

 その横顔を見た私がそう告げるとルーナの耳がぶわっと赤くなる。

 

「そ、そんなことないよ? まぁ、でも褒め言葉として受け取っとく。」

 

 ふふっとルーナの照れ隠しに笑ってしまう。

 

 だけどすぐに私は何をしていたんだろうと自己嫌悪に陥った。

 

 ルーナが助けてくれなかったら、泣き寝入りするところだったのかな。

 

 そう思うと、気分が沈む。

 

 何もできないなんて嫌だ。

 

 自分のことは自分でどうにかできるようになりたいと思ってルーナを見ると、ちょうど目があった。

 

「私もルーナみたいになりたいな。」

 

「えー? エリーナが私みたいに反論するの? それはそれで見てみたいけど、エリーナにできるかなぁ?」

 

「そこは頑張るよ!」

 

「ふーん? 優しいエリーナにはあそこまで非難するのは難しいかもしれないけど、応援はしとく。」

 

 悪戯っぽく笑うルーナに私も釣られて笑顔になった。

 

 雨音が強くなる。

 

 外の様子を確かめようと窓を見るとまだ夕方なのに真っ暗な空が目に入った。

 

 まるで夜の学校みたいだなと思いながらぼんやりと景色を眺めていると、元婚約者の姿が見えてしまいつい目で追ってしまう。

 

 未練なんてないはずなんだけどな。

 

 そう思っていると、元婚約者が楽しそうに女性と相合傘をしているのを見てしまい、ズキンと胸が痛んだ。

 

 あんな笑顔、私には向けられたことがなかった。

 

 そっか。私は婚約破棄して噂に苦しめられて落ち込んでるけど、あの人は今幸せなんだ。

 

 そう思うだけで無性に苦しくて、切ない気持ちになる。

 

 ……知らない方が幸せだったのかな。

 

 そんな考えが頭をよぎって自分が思っていた以上に傷ついていたことに気がついた。

 

 浮気されててもバレないなら良い。

 

 自分が知って傷つきさえしないのなら、浮気を許せると昔そう言っている友達が居た。

 

 私も、知らなかった方が今頃上手く笑えていたのかもしれない。

 

 視力さえ良くなければ、婚約者の浮気に気付かずに、苦しまずに済んだのかもしれない。

 

 目さえ良くなければ。何度そう思ったことか。

 

 それでも。

 

 気づかなかったその幸せは作り物で、そんなの虚しいだけ。

 

 少なくとも今はナイーブな気持ちだけど、きっとここを乗りこえたら強くなれる気がする。

 

 今だけ。今だけ落ち込むのを許してね。

 

 誰にでもなく心の中で呟いた言葉は簡単に雨音に溶けていった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

もし続きが気になる!と思ってくださったらブックマークで教えてくれると励みになります。

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