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報告書を書きます

 校舎から徒歩五分。そこに学生寮がある。

 

 王都から離れた場所に住んでいる人も国境付近から通わないといけない人もいるので学生はみんな平等に寮に入ることになっている。

 

 校舎は白を基調とした清潔感のある建物だけど、こちらは茶色とオレンジの木造でできたレトロな雰囲気の建物だ。

 

 生徒に少しでも実家みたいにくつろいで欲しいという意味が込められてこのような外装になったらしい。

 

 いつ見てもどこか懐かしい気持ちにさせられるその建物の玄関を潜った私は入ってすぐの二階へ続く階段を登る。

 

 私の家は伯爵家。建物は身分順に上から公爵家のご令嬢、下は平民まで幅広い学生が生活を共にしている。

 

 伯爵という真ん中の位の私は三階建ての建物の二階。つまりちょうど真ん中の部屋で生活している。

 

 部屋に着いた私は鞄を机のそばに置いてそこからペンを引き出しから便箋を取り出した。

 

 さて、書きますか。

 

 腕まくりをしてペンを握った私は今日あった出来事を出来るだけオブラートに包んで手紙に書いていく。

 

 拝啓から始まる手紙の最後に自分の名前を記してから、ふぅと息を吐いた。

 

 読み直して不備が無さそうなので、封筒にお父様の名前を書いて封を閉じる。

 

 これでもう後戻りはできないなと思うと指先に力が入ってしまう。

 

 クシャッと少しだけ線の入った封筒を慌てて伸ばした後、そばに控えていたメイドに手紙を渡した。

 

「この手紙、お父様宛にお願い。出来るだけ早くね。」

 

 そう伝えると「かしこまりました」とお辞儀をしてから部屋を出ていく。

 

 その後ろ姿を見送ってから私はドサッとベッドに腰を下ろした。

 

 ようやく落ち着いて一息を吐く。

 

 考えてみればこの一時間で婚約者の浮気を目撃して、その証拠を集めるために先生に鍵を貸してもらって。そしたら何故か先生も着いてきて、気まずいあの録画を見たんだよね。

 

 うん、いろんなことがあった。

 

 そのまま倒れ込むとベッドがポフっと音を立てる。

 

 横を見ると、ルビーのような瞳と目が合った。私は近くにあったクマのぬいぐるみを抱き寄せて、ぎゅっと握りしめる。

 

 私、頑張ったよね……?

 

 一人でしんっと静まり返った広い部屋にいると、孤独感からか気持ちが不安定になる。

 

 ……浮気、浮気かぁ。

 

 今日見た光景を思い出すと、ブルっと身震いしてしまう。

 

 気持ち悪い。

 

 一番最初に出てきたのはそんな言葉だった。

 

 私と婚約者との関係は良好とは言えなかった。

 

 裕福な伯爵家の長女と侯爵家の次男。伯爵家は良家との婚姻を求めて。侯爵家は跡を継げない次男の婿入り先を探して。よくあるお話。

 

 そんな親同士の決めた政略結婚だった。

 

 でも、貴族ではよくあることで。そこに不満なんてなかった。

 

 ……私が悪かったのかな。

 

『浮気された』その言葉がずしりとのしかかってきて私はぬいぐるみを握りしめる手に力を入れた。

 

 肌触りの良いふわふわの感覚に少しだけ癒される。

 

 だけどそれはほんの束の間で、すぐにモヤモヤとした気持ちが溢れ出してきた。

 

 ぼんやりと天井を眺めるとライトの眩しさに目を細めた。

 

 するとじんわりと視界が滲んだ。

 

 あれ、おかしいな。そんなに眩しかったかな。

 

 目を擦ると、その手には雫がつく。

 

 なんで?どうして……?

 

 それしか言葉が出てこなくなる。

 

 悲しくなんてなかった。だって、婚約者に恋心なんて抱いてなかったから。

 

 なら、どうして泣いているんだろう。

 

 自分の気持ちがわからなくなって、ただただ自問自答を繰り返す。

 

 悲しい?

 

 ううん、悲しくない。

 

 辛い?

 

 ……うん、辛い。

 

 それはどうして?

 

 どうしてだろう。悔しいから?

 

 悔しい。その言葉にハッとする。……そっか、私は悔しいのかもしれない。

 

 婚約している身。それなのに浮気する婚約者に侮辱されていると感じて悔しかったのかも。

 

 そう結論づけると少しだけ心の重しが軽くなった。

 

『婚約破棄』その言葉が頭に浮かんできて、ため息が漏れる。

 

 浮気されて婚約を破棄した女。次の婚約者探しが難航することは目に見えていた。

 

 だから、怖かったのかもしれない。

 

 婚約を解消することが。

 

 でも……と、上にあげた手をぎゅっと握った。

 

 あんな人と婚約を続けるよりはずっと良い未来かもしれない。

 

 そう自分に言い聞かせて私は目を閉じた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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