生徒会室
翌日の放課後。
殿下から呼び出された私は生徒会室に向かっていた。
殿下は生徒会長なので内密の話をするのに生徒が自由に出入りできない生徒会室は最適だったのだろう。
初めて入る生徒会室に少し胸を躍らせながら扉を開ける。
するとそこには殿下とクラーク様の姿が。
「失礼します。」と言いながらも、他のメンバーはどこかと視線を動かすと、それに気づいた殿下に苦笑されてしまった。
「流石にまだ話せないからね。今日は帰ってもらったよ。」
事情を説明された私は納得して顔を上げ、にっこりと笑顔を作った。
「……それで早速なんだけど例の件の話を進めても良いかな?」
テーブルの上で腕を組み直した殿下にそう問いかけられて、こくりと頷いた。
「はい、もちろんです。」
私の返事を聞いた殿下は頷いてから口を開く。
「君のおかげで証拠を掴むことができた。……感謝してもしきれないよ。」
そう言って微笑む殿下は逆光を背負って少しだけ輝いて見えた。
「いえ、実際に鑑定したのはブラウンさんですから。」
「……謙遜も過ぎれば嫌味だよ。」
ブラウンさんの名前を出した瞬間笑顔が曇った殿下にそう諭されて、礼を取る。
「失礼いたしました。」
次期トップの機嫌を損ねるなんてスミス家の名を背負った私がして許されることではないので、すぐに謝罪の言葉を告げると、殿下の笑みが感情の読めないものに変わった。
後ろにいるクラーク様はどこか楽しそうだ。
「……それで、本日はどのようなご用件で私は呼ばれたのでしょうか。」
本題が別にありそうな雰囲気を感じていた私がそう聞くと殿下の瞳が少しだけ見開かれる。
「本当に感謝を伝えたかっただけだよ。廊下で話すわけにもいかないし、こうして呼び出した次第だ。」
だけどすぐに仮面を被った殿下にそう言われた私はこれ以上追求なんてできなかった。
殿下の言った通り感謝の言葉を伝えてくれることに留まるのならこれで話は終わりかなと緊張を解くと、
「あぁ、それから、」
そう付け足しの言葉を放ってニッコリと笑った殿下と目が合った。
「頑張った君にご褒美を上げないといけないと思ってね。」
「……ご褒美、ですか?」
殿下は謙遜しなくて良いと言ってくれた。
それでも、私は自分が何かに貢献できたとは思えなくて、眉を下げた。
「謹んで辞退いたします。」
「……さっきも言ったけど、謙遜と自分の働きに対価を貰うのは別だ。」
その言葉を聞いて、ブラウンさんの言葉を思い出した。
彼に取っては喉から手が出るほど欲しい能力。
それを持っている私が自分の能力を認めないことは失礼に当たるのではないか。と、そう思った。
「……では、婚約者を……」
脳裏を掠めたのはこれから先一番の不安の要因だった。
咄嗟に出てしまった言葉に口を押さえると、殿下の笑顔を視線がぶつかる。
「私なんてどうかな?」
「そんな、恐れ多いです……!」
ほとんど反射で答えた私に、殿下は苦笑する。
「盛大に振られてしまったね。」
「いえ、決して振ったとかではなくてですね……」
でもこれ以上口にして殿下の悪ノリに巻き込まれる可能性を考えてしまい、そこで言葉が止まった。
「……冗談だよ。なら、彼なんてどうかな?」
殿下の視線の先にはクラーク様がいた。
「クラーク様、ですか?」
殿下の側近になれるくらいの人だ。
きっと私よりも身分が高いだろうし、爵位を継ぐ可能性だってある。
婿入りしてもらうという条件には当てはまりそうもなかった。
もちろん、結婚相手としては物凄く良いとは思うけど。
そう思った私は殿下にそのまま伝えることに決める。
「その、実は婿入りできる方を探していまして、クラーク様は……」
「彼は次男だから今の所爵位を継ぐ予定はないよ。」
あっさりとそう言われた私は突然決まってしまいそうになる縁談について行けなさそうになる。
いや、きっといつも通り怖気付いているだけだ。
「まあ、でも二人は会ったばかりだし、まずはお互いを知るところから始めると良いんじゃないかな。」
そんな私の心情を知ってか知らずか殿下がそう提案してくれたものに乗らないはずもなく、私達は出かける約束をしたのだった。
* * *
「よろしかったのですか?彼女が婚約者候補の一人だったことをお伝えしなくても。」
パタンとしまったドアを確認した騎士は王子に話しかけた。
「うん、もう八年以上前のことだからね。」
そう口では言っているものの、その顔は渋いものだった。
その表情からは悔しさが読み取れる。
「……本当、スミス前伯爵は余計なことをしてくれたよ。」
恨めしく口にする王子は息を吐いた。
伯爵令嬢と侯爵令息の婚約には前伯爵が大きく関わっていた。
前伯爵に大きな借りがあった侯爵は前伯爵の「ご縁があったら是非親戚になりたいものですな」という冗談を間に受け、その孫と自分の息子の歳が近いと知るや否やすぐに縁談を申し込んだ。
伯爵令嬢は家の利益のために結ばれたものだと思っていたが、実際は侯爵側からの願い。
それを反故にした侯爵令息の罪は彼女が思っていた以上に重いものだった。
今は学園に通えているが、それは最後の慈悲。
卒業したら家を追い出されるということを彼女はまだ知らない。
その所以あって結ばれた婚約を王族と言えど介入することはできなかった。
その時のことを思い出した王子は眉を寄せる。
「ですが、殿下は彼女のことを……」
「内々とはいえ婚約者は四人に絞られている。無理を通せば彼女をその中に入れることは不可能じゃない。」
そこで言葉を切った王子は椅子の背もたれに身を任せた。
「でも、そんなことをしたら彼女にとって良くない噂が流れてしまうだろう。今でこそ婚約破棄で傷心中なのに、これ以上苦しめることはしたくないんだ。……王妃の座は大変なものだからね。」
王の座の方がよっぽど多忙を極めるはずだ。
それでも好きな人に辛い思いをさせたくないという気持ちが伝わった騎士は敵わないなと思わせられる。
「……では、貴方の分まで私が彼女を幸せにして見せます。」
「ふーん?知らなかったな、君がそこまで彼女に心酔しているなんて。」
つい意地悪をしたくなった王子の心情を察した騎士は、真剣な顔を浮かべた。
「普段は大人しく可愛らしいのに、商人に啖呵を切ったあの凛々しい姿にやられてしまったのです。」
正直に報告する部下に王子は困ったように笑った。
でもその顔はどことなしか嬉しそうだ。
「……君は昔の私と同じことを言うんだね。」
その声は独り言のように小さく騎士の耳に届くことはなかった。
「それを聞けて安心したよ。」
そう言って笑う王子は無理をしているようには見えなかった。
騎士は王子の思い人を奪ってしまった身。
それでもこのお方の隣に並ぶ人が心休まる人であって欲しいと願わずにはいられなかった。
実はこの場面が描きたくて描き始めた物語だったりします。
大分終盤に差し掛かってきましたが、楽しんでいただけてると嬉しいです!
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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【追記】
次回の更新は10月14日になります。




