視力が良いだけ?
「……なるほど、本物を見せた後で偽物とすり替えていたわけか。」
背筋が凍るような笑顔を浮かべた殿下の目には鋭い光が浮かんでいる。
その目で睨まれた商人達はひぃっと声を上げた。
「何か申し開きはある?」
最後の慈悲だと言わんばかりの言葉に商人達は縋るように殿下にすり寄った。
「本物をお渡しするので、どうかこのことはご内密に!」
「そうです。よろしければこちらの絵を手がけた技術者を紹介いたしましょう。」
甘い蜜を吸わせるから見逃して欲しいとのことなのだろう。
殿下は笑顔のまま口を開く。
「ここまで性根が腐っているのなら、情けは必要無さそうだね。」
その言葉を聞いた途端、商人達はまるで死の宣告を告げられたように絶望した表情を浮かべた。
それを横目で見ながら息をついていると、「お疲れ様です。」とクラーク様が労ってくれる。
その言葉でようやく終わったのだと自覚した私は胸を撫で下ろしたのだった。
* * *
「スミス様、少しお時間よろしいですか?」
商人達が騎士に連れて行かれたのを見守った後、ブラウンさんから声をかけられた私は振り返った。
「はい、大丈夫ですよ。」
今日は予定を空けてきたので、この後は時間が有り余っている。
ニッコリと笑顔で返事をするとブラウンさんの頬が赤く染まった。
「貴方の一瞬で偽物を見分けるその目、我が家で活かしませんか?」
我が家……?
キョトンと首を傾げると、それに気づいた殿下が補足で説明を加えてくれる。
「彼の家は美術館を経営しているんだよ。」
「そうなのです!是非我が家に嫁入りして、その能力を存分に活かしてください!」
ぎゅっと両手を握られて、勧誘された私は苦笑いを浮かべた。
こんなプロポーズ、初めてだ。
「貴方のその目は特別なんです。魔眼を持っている人なんて、滅多に……」
「ちょっと待って、魔眼が何だって?」
ブラウンさんの言葉に聞き捨てならないと割って入った殿下は珍しく焦ったような顔をしている。
「はい、スミス様は魔眼を持っていらっしゃいます。絵画を一目で見分けられたのもそのためですよ。」
「そうだったの?」と殿下に聞かれた私はさらに首の角度を傾けた。
「魔眼?というのは……?」
初めて聞く単語に説明を求めるように二人を見ると、どちらにも目を見開かれてしまった。
「魔眼というのは、魔力を帯びた瞳を持つ人のことです。授業で習いませんでしたか?」
「魔法の授業は二年生からなんです。……って、魔力なら全身に帯びているものなんじゃないですか?」
魔力は全ての人が持っているエネルギーのようなものだ。
魔法が使えるわけではないが、魔道具を作る時に魔力を流して扱うために必要な力。
それは誰しも持っているもののはずだ。
「ええ、本来なら全身に纏うようにして層ができます。でも稀に特定の場所にだけ魔力が集まり、それ故に優れた感覚を持つことがあります。」
「えっと、つまり……?」
「スミス様はその魔力が瞳に集まって人よりも優れた視力を有しているのです。」
驚愕の事実だった。
ただ視力が良いだけ。今までそう思ってきたのに、覆されるなんて……。
驚きを隠せないままブラウンさんを見ると、とても良い笑顔を向けられた。
「その力は鑑定士にとって喉から手が出るほど欲しいものです。それを持っている貴方も同じくらい、ね。」
ゾクリと鳥肌が立つほど低く色気のある声に当てられて、一歩後ろに下がる。
「そこまでだよ。貴族のご令嬢に迫るには君はまだ資格を持っていない。そうだろう?」
私が困っていたのを察したのか間に入ってくれた殿下は冷静にそう告げた。
「わかってますよ。だから今日は私をアピールするに留まるつもりです。まあ、気が焦って嫁、などと口にしたのは寛大な殿下は気にもしませんよね?」
「……今回だけだからね。」
どうやら二人の間で話がまとまったようで、殿下はこちらに振り返った。
「今日は疲れているだろうから、早めに解散しようか。馬車まで送るよ。」
その有無を言わせぬ笑顔に私は頷くことしかできなかったのだった。
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