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証拠を確保します

 その日のうちに覚悟を決めた私は、本を無事に届けた後で職員室を訪れた。

 

 名前を名乗り入室の許可をもらって扉を開けた先には横に長い机が5つほど規則正しく並んでいる光景が広がっている。

 

 横長の区切られた机の三番目。

 

 そこに人の背中を確認した私はその人物の名前を口にした。

 

「オーバン先生」

 

 緑色の癖毛に縁の分厚い眼鏡をかけた二十歳半ばの男性。

 

 オーバン先生と呼ばれたその男はゆっくりと上半身を動かして首を傾げた。

 

「僕に何か用?」

 

 のんびりとした口調にタレ目が相まってとても優しそうな印象の先生。

 

 私は軽くお辞儀をしてから口を開いた。

 

「はい。防犯カメラの確認をしたいのですが……」

 

 そこまで言うとあぁと頷いて引き出しから鍵を取り出した。

 

 チラッと見えたその中は物が無造作に詰められていた。どうやら整理整頓は苦手らしい。

 

「一応確認ね。何に使うの?」

 

 はいと金色にタグがつけられた鍵を差し出しながらオーバン先生は事務的に問いかけた。

 

 声色は優しいが、その口調から興味がないことが伝わってくる。

 

 管理者として最低限聞いているだけなのだろう。

 

「規律を破っている方を見かけたので、それを確かめたくて。」

 

 私は鍵を受け取ろうと伸ばした手を止めて素直に答えた。

 

 すると先生は楽しそうに目を細める。

 

「それなら大人が居た方がいいんじゃない?」

 

 のんびりとした声とは裏腹に瞳には鋭い光が浮かんでいた。

 

 まるで獲物に狙われたかのように動けなくなった私はゴクンと唾を飲み込んだ。

 

「その、確信が持てないので確かめてからと思ったのですが……」

 

「そうかな。人目が多い方が確実でしょ?」

 

 どうやら譲る気はないようで、正論を言われてしまった私はどうしようかと視線を泳がせた。

 

 いつの間にか先生は椅子を半回転させて、こちらに体を向けている。

 

 それだけで多分なんて言い訳しても誤魔化せないだろうと観念した私は諦めて頷くことにした。

 

「そう、ですね。それではお願いします。」

 

「うんうん、任せて。」

 

 椅子から立ち上がった先生は思っていたよりも身長が高く、見下ろされる形になった私はあははと苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 

 * * *

 

 先生と共に向かった先は『管理室』と書かれた建物の端にある部屋。

 

 オーバン先生は自然な動作で鍵を開け、横開きのドアをスライドさせる。

 

 他の教室とは違って机の置かれていない室内を新鮮に思いながら、スタスタと迷いのない足取りの先生の後に続くと、水晶型の魔道具の前で足を止めた。

 

 ひょこっと先生の後ろからそのことを確認していると、先生は私へと体を向ける。

 

 慌てて姿勢を正した私は何を言われるのだろうと緊張しながら言葉を待った。

 

「君が確認したいのはどのカメラ?」

 

 ずらっと並ぶ水晶を手で示されて聞かれた私はすごい量だと感心しながら口を開く。

 

「薔薇園の一番中央に近いカメラです。」

 

「なら、これかな。」

 

 先生は指で指した九つほどまとめられた真ん中にある水晶を手に取ると、使い方がわかるかどうか尋ねる。

 

「はい、一応。家にも同じ物がありますから。」

 

 その答えを聞くと満足そうに頷いて私に水晶を手渡してくれた。

 

 おずおずとそれを受け取った私は、水晶のずっしりとした重さに落とさないように細心の注意を払いながら両掌に乗せる。

 

「六月十日 四時二十五分 再生」

 

 日付と時間、そして最後の開始の合図を唱えると水晶から光が溢れ、やがて天井にまるで絵のように切り取られた場面が映し出される。

 

「……」

 

 先ほど見た光景がそのまましかもさらに近くで映し出されたことで、先生は眉をひくひくさせながら固まった。

 

 これを先生と見るなんてこの上なく気まずくなると思っていたからだから一人で確認したかったのよね。

 

 なんて遠い目をして今更考えたところで時すでに遅し。

 

 先生は私から水晶を奪うようにサッと取り返した後、「停止」と唱えて電源を切った。

 

「……これって、証拠としてお借りすることはできますか?」

 

 なんとなく無言が流れた後で、私がそう聞くと水晶を抱えた先生に憐れむような目線を向けられた。

 

「君も災難だったね。もちろん可能だよ。」

 

 先生に持ち出し許可証なるものを渡された私はお礼を言ってから、その紙に必要事項を記入していく。

 

 自分の名前と日付。それから使用目的……これはなんて書けばいいのかわからず手が止まると、それに気づいた先生が紙を覗き込んで苦笑いを浮かべる。

 

「そこは僕が誤魔化しておくよ。本来私用目的で使うのは御法度だからね。空欄にしておいて。」

 

「わかりました。ありがとうございます。」

 

 ペコっと頭を下げるとなんでもないと言うようにひらひらと手を振られた。

 

「君の未来が明るいことを願っているよ。」

 

 帰り際にそんなことを言われた私は苦笑しながら手を振った。

 

 反対の手には水晶が握られている。

 

 やけに重いそれを恨めしく見た後で、これを睨んでもしょうがないかと足を進め始める。

 

 これからのことを思うと外まで続く廊下は暗く長く感じてしまうのだった。

新しく登場したオーバン先生は癖がありそうですね。

ちなみに主人公の魔道具基礎の授業を担当をしているので顔見知りだったりします。

若くして管理を任されているのは、魔道具の専門家だからとか。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

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