任務と責任
「あのー……これは一体どういうことでしょうか?」
殿下達はこうなることをわかっていたようだった。
私だけがついていけていないこの状況に助けを求めるようにそう聞くと、殿下ではなくブラウンさんが口を開いた。
「はい、私はずっと貴方に会えるのを待ち焦がれていたのです。」
「……それは、私のことを知っていたということですか?」
私の問いに首を縦に振ったブラウンさん。
「一目で贋作だと見分けたその洞察力、感服いたしました。」
手を伸ばしてお芝居がかった動作をするブラウンさんにあははと乾いた笑みがこぼれる。
「たまたまですよ。それに私は視力が良いだけで、絵画にはあまり詳しくないんです。」
だから買い被らないで欲しいと続けようとすると、「素晴らしい!」と叫んだブラウンさんによって遮られてしまった。
「専門的な知識がないのに、あれを見分けたなんて驚きました。是非とも……」
「ブラウン殿。」
殿下の低い声がブラウンさんの勢いを止める。
振り返るとそこには笑顔なのにどこか冷たさを感じさせる殿下が腕を組んでいた。
「そこまでにしてもらおうか。」
殿下とブラウンさんが睨み合うように見つめ合って数秒。
先に口を開いたのはブラウンさんだった。
「……では、叙爵の件お受けします。これなら、構いませんよね?」
「ここでその話を持ってくるなんて、君も中々のやり手だね。」
はぁとため息を吐いた殿下は諦めたように頷いた。
「わかった。父に伝えておくよ。」
どうやら話がまとまったらしい。ということはわかった。
「……と、いつまでもご令嬢を立たせておくわけにはいかないね。スミス嬢、こちらに腰掛けると良い。」
「あ、ありがとうございます。」
椅子を引いて座るように言われた私は、言われるがまま腰を下ろした。
続けてクラーク様を除いた男性陣も座る。
それを確認した殿下は、その顔に笑みを貼り付けた。
今日は快晴。
大きな窓から差し込む光は室内をより明るく照らす。
相手の表情がこれでもかというほど見えるので、私も神経を尖らせていた。
「今日はとある商人から絵画を買う予定だ。このことは皆わかっているね?」
殿下の問いかけに私とブラウンさんはほとんど同時に頷いた。
「最近、偽物を貴族に売りつける事件が起きている。ブラウン殿は鑑定士として優秀な腕を持っている。同行させたのは偽物じゃないかをしっかり判断して欲しいからだ。……そして、スミス嬢。」
「はい」
名前を呼ばれた私は緊張しながら返事をする。
「君にはその視力を持って、絵画を見分けて欲しい。二重でチェックをすれば確実だろうから。でも、あくまでメインは専門家のブラウン殿だ。そこは心配しなくても良いよ。」
「わかりました。」
自分の役割を再認識した私は現状を知ってふと疑問が湧いた。
「……あの、殿下。どうしてこの時期に絵画を買うんでしょうか?」
偽物が出回っている今買う意味はあるのだろうか。
絵画が急に必要になったわけでもあるまいし、どうしてリスクを冒してまで……。
私の質問に殿下はニッコリと笑った。
多分、それが全てを物語っている。
そっか、これは囮捜査なんだ。
そうだよね、よくよく考えてみたら、殿下が意味のないことをするはずもないんだから。
あれ、ということは私はこれからその犯人と対峙するってこと……?
急に重くなった責任に、頭が痛くなる。
私はこの任務を上手くやり遂げられるのだろうか。
外では入道雲ができ始め、明るかった室内に影を落としていた。
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