鑑定士さんとの初顔合わせ
「紹介するよ。彼が今日お世話になる鑑定士のゼイン・ブラウン。」
長い廊下を潜った先で客室らしい場所に連れてこられた私は、その部屋で先にくつろいでいた人物を紹介された。
「初めまして、エリーナ・スミスです。」
スカートを摘みカーテシーをすると、その男性は興味のなさそうにこちらを一目見てから軽く頭を下げた。
「これはご丁寧に、今日はよろしくお願いしますね。」
スーツは質の良いものなのに、長い前髪が顔を覆っていて寝癖までついている格好に口調と相まってアンバランスな印象を受ける。
顔は笑っているが、私に向ける目は冷たいものだった。殿下の前だから仕方なく挨拶しているような、形式的なもの。
研究者って、みんなこんな感じなのかな。
どこか既視感を感じるその姿に苦笑いを浮かべると殿下も困ったような笑顔を浮かべていた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
笑顔を作って返すと、その瞳はさらに鋭さを増す。
あれ、私何かしたかな。
不安に駆られていると、殿下が私の前に割って入ってくれた。
「ブラウン殿、スミス嬢に対しての態度をもう少し緩和できないかな?」
「殿下はこれ以上をお求めで?」
殿下に直接注意を受けても気にすることもなく流す姿にどんな心臓をしているのだろうともはや尊敬の念を抱きながら成り行きを見守る。
まあ、言葉に自体は丁寧だし、目の件だって殿下も似たようなものなんじゃ……という考えは早々に捨てた。
考えたら負けな気がするからだ。
「誰だって自分の領域に知らない人が入り込んだら警戒するものです。殿下、私は気にしていないので大丈夫ですよ。」
別に私は冷たい態度を取られようと気にしないし……嘘だ。普段だったら何かしてしまったのだろうかと物凄く心配する。
でも、最初からこの態度なので、こういうものなのだという言い訳が立つので気にしないというのは嘘ではない。
だって私達は初対面なのだから。
「いやスミス嬢、そうはいかないよ。」
殿下は一歩ブラウンさんに近づく。
「彼女は協力してくれる為に来たんだ。無理やりついてきたわけでも、我儘でここにいるわけでもない。だから無礼な態度は見過ごせない。……改めてくれるね?」
最後の言葉は低音で、それだけで圧があった。
ブラウンさんの笑顔が崩れる。
表情は一切変えていないのに声だけでここまで相手を威圧できるなんてすごいとしか言いようがないと思っていると、ブラウンさんが私の方に体を向けた。
「貴方は、殿下の愛人だったのでは……?」
その顔には戸惑いが浮かんでいる。……って
「そんなわけないじゃないですか! どうしてそんな発想になったんですか!」
そもそもそうだったとしても直接確かめるなんて勇気があり過ぎる。
私が勢いのまま反論すると、なぜかクラーク様は吹き出した。だけど、そんなことを気にしている余裕はない。
今は誤解を解かなくてはと、ブラウンさんをしっかり見る。
「そうだったんですね。それは失礼致しました。」
あまりにも完全な否定に、ブラウンさんは本当に違うと信じてくれたようで謝ってくれた。
「いえ。ちゃんとこちらも伝えていませんでした。勘違いさせてしまい、すみません。」
私からも謝罪すると、ブラウンさんの視線は柔らかくなってくれた。
「私は最近、たまたま贋作を見分ける機会がありまして、殿下が万が一に備えて今日同行して欲しいとお願いされたのでここにいます。」
『花姫』のことは濁しながらそう言うと、ブラウンさんの目が見開かれる。
「生徒……贋作……最近……、ということはまさか貴方が!?」
ずいっと身を乗り出されて聞かれた私はあれ、と不思議に思って殿下達を見るとやったくれたね、と言うような視線を向けられた。
「まさか自ら明かすとは思ってなかった。……うん、君が思っている通り彼は『花姫』を鑑定した鑑定士だよ。」
そうだったんだと改めてブラウンさんを見ると、何故か跪かれた。
「貴方に最上級の敬意を。」
そう言ってから顔を上げたブラウンさんの瞳には先程とは全く違った感情が浮かんでいたのだった。
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