三つのシルエット
描き直しました!
翌日の朝。
私は緊張しながら職員室を訪れていた。
学園長先生ともう一度話をすると決めたわけだけど、前のように偶然廊下で会うなんてことは本来なら滅多にないことだ。
だからこちらからアクションを起こさないといけないと気づき、担任の先生に繋いでもらうことにした。
「婚約破棄の件で直接学園長先生にお話したいです。」
『花姫』の件は誰にどこまで話して良いのかわからないのが現状なので、別の用事でアポを取ろうと思いついたのがこれだった。
まさか婚約破棄されたことが役にたつとは思わなかったなと乾いた笑みを浮かべると、先生に同情するような目を向けられる。
「直接は難しいかもしれないが、一応連絡は入れて置く。」
一生徒がいきなり学園長先生に会いたいなんてお願い普通なら通るはずもない。
だけど、先生も理不尽だと感じていたのかあっさりとそう言って引き受けてくれた。
「ありがとうございます。」
「いつもスミスには助けられているからな。」
ニカっと爽やかな笑顔を浮かべた先生が今日だけはとても頼もしく見えた。
去り際に「気を強く持てよ。」と励ましの言葉を頂いた私は軽やかな足取りで教室へと向かった。
学園長先生は私の意図に気づいてくれるのかは半信半疑だったけど、昼休みに先生から許可が降りたと伝えられて、私はルーナと顔を見合わせた。
「やったね、ギャフンと言わせてやってよ!」
「う、頑張ります。」
流石に『婚約破棄』で通しているのでルーナと一緒に行くことはできない。
その代わりという様に元気な言葉をもらった私は頑張ろうと心に決める。
別に状況を変えたいわけではない。
今日の目標は自分の意見をきっちり伝えること。
それが通ったら万々歳といったところだろう。
放課後に学園長室に来る様に言われた私は、どう自分の気持ちを伝えようかギリギリまで考えることにしたのだった。
* * *
コンコンと豪華な装飾の扉をノックする。
「エリーナ・スミスです。」
名乗りを告げると、中からどうぞと許可を出す声が聞こえたことで、私は緊張を滲ませながら重量のある扉を開く。
逆光で浮かび上がったシルエットは何故か三つあった。
目が慣れてきて、真ん中に居た学園長先生とは明らかに違うその人物の正体が分かるや否や、私はほとんど反射的に最上級の礼を取った。
ど、どうしてこの人がここに!?
もう頭の中は混乱でいっぱいで、このまま下げた頭を上げたくないという気持ちに駆られる。
まあ、そんなことが許されないことはわかりきっているのだけれど。
「そんなに堅苦しくならなくて良いよ。ここは非公式の場なんだから。」
優しい声色が聞こえて、私はゆっくりと顔を上げた。
ソファに腰掛けたその姿を改めて目にし、ものすごい威厳だなと思いながらお辞儀をする。
「寛大なお心感謝いたします、殿下。お目に掛かれて光栄です。」
ニコリと笑みを貼り付けて何とか動揺を胸の内に隠して挨拶をすると、殿下——リアム・ロバート様はにこやかに笑いかけてくれた。
「私も同席させてもらっても構わないかな?」
「えっと……」
おかしい。名目は婚約破棄の話のはずだ。
そんな私情たっぷりの話し合いに殿下が参加を望むとは考えにくい。
どうゆうことかと学園長先生に目配せをすると、逸らされてしまった。どうやら私は裏切られたらしい。
学園長先生を恨めしく思いながら、こんなの断れるはずがないと、「もちろんです」と答えると殿下はニッコリと笑みを浮かべた。
その顔が悪魔の微笑みに見えたのは私の目の錯覚だろうか。
同じく笑顔を返すとソファに座る様に促され、言われるがまま下座に腰掛ける。
「あぁ、スミス嬢は彼には初めて会うよね。」
私が座ったのを確認すると後ろに控えていた護衛らしき人物に目を向けて確かめる様にそう問われたので首を縦に振った。
「彼はエドワード・クラーク。私の側近だよ。」
彼がルーナが言ってた噂の……!
じっと見るのも失礼かと思い、私も自己紹介をするとぺこりと軽く頭を下げられた。
「初めまして、レディ・スミス。」
ニコリと柔らかい笑顔を浮かべるクラーク様は物腰柔らかな印象を与える。
赤色の髪がよく映えている爽やかそうな男性。
この人が殿下の側近に決まった人なんだと尊敬にも似た気持ちを抱きながら綺麗な顔を見つめると、ごほんと咳払いをされてしまった。
どうやら見すぎてしまったらしいと慌てて殿下に視線を戻すと、金色の瞳と視線がぶつかる。
「彼は私の護衛騎士でもあるんだ。後ろで控えているのはその為だよ。」
私がクラーク様を見ていたのは立っているのを不思議に思ったからだと考えたようで、殿下は目が合うとそう教えてくれた。
「そうなんですね。」
ただイケメンだったので目を奪われていたんですなんて口が裂けても言えない私は曖昧に笑って頷いた。
それにしても……と目線だけを動かす。
殿下は言わずもがな容姿端麗で、クラーク様も顔立ちが整っている。学園長先生はダンディな雰囲気の大人の男性!という感じでみんなレベルが高い。
私はこの中に混じっても良いのだろうかと少し不安に思いながら、口を開いた。
「……それで、今回殿下が同席を希望した理由は何なのでしょうか。」
私は緊張を誤魔化す為に声を作って話しかける。
すると殿下はその綺麗な口元に弧を描いた。
「そんなに警戒しなくても、取って食ったりはしないよ。ただ、個人的に興味があっただけなんだ。」
そう言った殿下の瞳には探るような光が浮かんでいた。
まだ誰も『今日の目的』について触れていない。
ここから先どう動くのかが、殿下に認められることにつながる試験なのだろうと何となく察した私は唾を飲み込んで次の言葉を探したのだった。
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