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花姫と密会

「率直に言うと、君の言った通り『花姫』は偽物だった。」

 

 その言葉に私のことを信じてもらえたと言う安堵と、偽物だったから喜ぶべきではないと言う反対の気持ちが同時に押し寄せて、曖昧な表情を浮かべる。

 

 そんな私に学園長先生は優しく微笑んで、

 

「ここは素直に自分の功績を誇っていいところだよ。」

 

 と諭してくれた。

 

「では、その報告の為に呼んでくださったのですか?」

 

 学園長先生は多忙なはずだ。

 

 それなのに私に直接教えるため為だけに呼び出したとは考えにくい。

 

 だからきっとここからが本題なのだろう。そう思っての言葉だった。

 

「あぁ。君には失礼な態度を取ってしまったからそのお詫びも兼ねて、直接言いたかったんだ。」

 

 よし、今度は婉曲に伝えられたと内心自分の成長を褒めているとあっさり肯定されてしまい一瞬固まった。

 

「えっと、その……私は気にしていませんし、学園長先生の反応は当然と言いますか、むしろ正しいものだったと思います。」

 

 気にしていないことを伝えると、学園長先生はほっとしたのかニコリとその顔に笑顔を浮かべる。

 

「それを聞けて安心したよ。……ところで君は、この事を誰かに話したりはしたのかね?」

 

 すっと目からハイライトが無くなったような感覚を覚えて、机の下で手に力を込めた。

 

 これが、話したかったことなんだ。

 

 そう思わせられて、私は負けじと笑顔を作る。

 

「これは学園の信頼に関わることですから、誰にも言っていません。」

 

 こんなこと、話せるわけもない。

 

 学園長先生が偽物の絵を学内に飾ろうとしていたなんて、どこで悪く言われるのか想像しただけで眩暈がする。

 

「……そうか。」

 

 私の答えを聞いて目を伏せた学園長先生は安堵しているようだった。

 

「すまないね、私が不甲斐なかったばかりに君に気を使わせてしまって。」

 

「いえ、そんな……生徒として、当然の振る舞いだと思っています。」

 

 私の言葉に「頼もしい限りだよ」と学園長先生は力無く笑った。

 

「それで、あの絵はどうするのでしょうか?」

 

 何となく空気が柔らかくなったのを察した私は気になっていた質問を投げかけた。

 

「あぁ、今寄贈した人を探しているところなんだが、中々見つからなくてね。絵に罪はないから処分するのも気が引けて、悩んでいるところなんだ。」

 

 そっか、犯人は見つかってないんだ。

 

 こんな目立つようなことをした人の考えがまるで読めずに、眉間に皺を寄せると、学園長先生は苦笑する。

 

「この件は我々が調査するからスミスくんが気に病むことはないよ。」

 

「……そう、ですよね。」

 

 あははと笑って見せたが、ここまで関わって知らんぷりなんてできる気がしない。

 

 わざわざ偽物を提供した犯人。

 

 一体何の目的でこんなことをしたのだろうか。

 

 わからないことだらけだ。

 

「……と、昼食はまだだったよね?そろそろ向かわないと次の授業に間に合わなくなってしまいそうだ。」

 

 学園長先生は腰を上げて扉のある方へと向かう。

 

「時間を取ってくれてありがとう。」

 

 言いながらドアを開けてくれる。

 

「いえ、こちらこそ教えてくださって少しスッキリしました。」

 

 お礼を言ってから部屋を出ると、閉まるドアの隙間から手を振る学園長先生が見えてお辞儀をする。

 

 完全にドアが閉まった私はそっと息を吐いた。

 

 よかったぁ、今度は失敗しなかった!

 

 その場にいても仕方がないので、私はルーナが待つ食堂へと足を向けたのだった。

 

 * * *

 

「失礼するよ。」

 

 エリーナと入れ違いに応接室を訪れたのは、太陽のような金色の髪に海のように深い青い瞳を持つ青年。

 

 威厳のあるその姿はただの学生にはとても見えなかった。

 

 学園長はその人物の姿を目にすると、少し驚いた様子を見せた後すぐに笑顔を浮かべた。

 

「貴方が私に用事なんて珍しいこともあるんですね。」

 

 青年にソファに腰掛けるようにうなうながしながら、敬語で話す学園長はどこか緊張の色を浮かべていた。

 

「ええ、まあ。少し話したいことがあったので。」

 

 ソファに腰掛けて足を組む。そんな動作さえ絵になる青年は終始一貫して笑顔をその顔に貼り付けている。

 

「……それで、話とはなんですか?」

 

 後に続くように座った学園長は厄介ごとでないことを心の中で願いながら目の前の青年に問いかける。

 

「『花姫』の件、私に任せてはもらえないかな?」

 

 予想外の言葉に、いやどこかで予想していた嫌な言葉に学園長は笑顔のまま顔を引き攣らせた。

 

 彼は一体どこからその情報を仕入れたのか。

 

 最初に浮かんだのは先ほどまでここにいた少女の姿。

 

 だが、話していないと告げるあの顔は嘘をついているようには見えなかった。

 

 冷や汗を額に浮かべながらどう誤魔化そうかと思考を巡らせている最中、

 

「スミス嬢は関係ないよ。私が独自に手に入れた話だからね。……それで、任せてもらえるのかな?」

 

 まるで心を見透かされたような発言に学園長は白旗を上げた。

 

「殿下の御心のままに。」

 

『殿下』……そう呼ばれた青年は、学園長の言葉に綺麗な笑顔を浮かべたのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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