第五話 それぞれの部活動
第五話 それぞれの部活動
ある日の昼休み。何時ものように飛鳥は紗綾や遥と昼食をとっていた。
「そういえばさ。遥の部活ってどう。茶道部ってハッキリ言って中身が見えないんだよね。」
紗綾は箸で遥を指した。遥がその手を丁寧に下ろさせる。
「こういう事をしてはいけないと身を持って学ぶ場所です。色々作法があるので面倒ですが、傍から見ると凄く綺麗ですよ。」
遥は最後に「傍から見れば」と再度繰り返した。慣れないうちは見たままを行うのも難しいらしい。
「ううむ。やっぱり中身が見えない。お菓子を食べてお茶を飲むっていうのはわかるんだけどなな。」
「その中にも色々と作法があるんです。」
遥の返答に紗綾は自分には無理だと言って関係ない話に切り替えようとした。しかし、それは許されない。
「紗綾は部活動どうなの。走るのが好きって言ってたよね。短距離とか長距離だったりして。」
飛鳥は遥の部活動に絡めて紗綾の部活動についても聞く。入学して一ヶ月もたてば何かしているだろう。飛鳥自身も小説を一本仕上げているのだから。
「やっぱり聞きますか。まぁいいけど。やっているのは長距離だよ。短距離は一瞬で終わって力が出しづらいから嫌なんだよね。それで、飛鳥はどうなんだっけ。」
紗綾はお返しと言わんばかりの嫌な笑みで飛鳥を見ている。これはもう諦めてバトンタッチを受けるしか無い。
「この間言ったように実力テスト中に書いた分が冊子になったよ。今新しい話しを考えているけどどうするか。前の話の続きを書こうかどうしようか悩んでる。期末テスト後だからまだ時間がかなりあるけど。その前に合唱コンクールとか文化祭があるんだよねぇ。」
期末テストの前に文化祭、文化祭の前に合唱コンクールがある。合唱コンクールは舞ヶ丘市民会館を使って行われるとか。中学では中学の体育館を使っていたのでなんとなく豪華になるのではと密かに期待している。
文化祭についても中学とは比べものにならないほど楽しいだろう。いや、中学の時が色々な要因が絡んで楽しくなかったからだろう。三年間で学年全体の空気はだんだん汚れていった。今は義務教育だから色々あるんだなと思うことにしよう。だから、高校の文化祭は楽しまないといけないなと思う。
「そういえば、もうすぐ中間試験がありますよね。」
遥の言葉にその場の空気が固まる。いや、世界が止まったのかもしれない。飛鳥も紗綾も何も言えず動けない。
再び世界が動き出したとき、二人とも取り乱していた。合唱コンクールの前に中間試験がある。今日から一番近いのは中間試験だ。どうして忘れていたのだろうか。
「うあ、中間試験じゃん。どうしよどうしよ。真面目に授業受けてないからノートとってないよ。飛鳥は。」
飛鳥は紗綾に聞かれてなんとかノートはとっていると言った。飛鳥自身は授業を真面目に受けている方だ。頭に授業内容が入っているかどうかはまた別問題である。
飛鳥と紗綾は揃って頭を抱える。こんな状態で大丈夫なのだろうか。実力テストを除けば高校入学以来初の試験だ。
「大丈夫ですよ。今から頑張れば間に合いますって。」
飛鳥と紗綾は同時に遥を睨む。なぜそんなに落ち着いていられるのだ。その落ち着き方に嫉妬する。
遥は一瞬だじろいだが、微笑みながら取り乱す二人を交互に見た。
「大丈夫ですって。」
本当は大丈夫じゃないと思う。