第四話 初作品集
第四話 初作品集
放課後の教室。飛鳥はぐったりと机にうつ伏せで寝ていた。
「大丈夫。なんか元気無いみたいだけど。」
遥が飛鳥の変化に気が付く。紗綾がなになにと言ってちょっかい出してくる。飛鳥はゆっくりと起き上がって二人を見た。
「やっと小説書けたの。実力テストの合間に書くのは厳しいわ。」
飛鳥は先程文芸部の先輩に自分の小説を渡してきた。実力テストの中でどうにか書くことが出来た。
「そっか。飛鳥の文芸部ってなんか作品出さなきゃいけないんだよね。面倒そうだなぁ。やっぱり私には陸上部が合っていそう。」
紗綾は遥を見て続けた。
「遥は茶道部だし。飛鳥だけなんか違う部活動だよね。創造するというか。」
「そうぞう……妄想。」
遥がふとつぶやく。そこへ紗綾は素早く手の甲でツッコミを入れる。
「違う。新しいものを始めてつくりだす創造よ。まぁ、妄想だと思うけどね、ねぇ。」
飛鳥は紗綾の視線で固まる。小説を書いてみようと考えて、だけど書くことが無いとわかると自分のしたいように話を創ってみようと考える。だけどそれって自分の妄想を形にしているだけじゃないかと。
「妄想は書・き・ま・せ・ん。」
飛鳥はわざと区切ってハッキリと言った。小説を書く事は自分の妄想を形にしているようだ。しかし、それは二次創作の類で十分である。妄想ばかり、都合の良いことばかりを書けばご都合主義が見えてくる。
「飛鳥は実力テストが終わって小説の作品が書けたみたいだけど。月末は中間試験よ。」
飛鳥は紗綾を見上げるとすぐにうつぶせになった。好きでしているのだからと納得するしか無い。
「定期的に作品を出さなきゃいけないんだよ。どうしよう。こんな状態でこの先やっていけるのかな。」
飛鳥は肩を叩かれて起き上がる。叩いたのは遥だった。
「私は自分から小説を書いたことが無いのでわからないのですが、何かを創りだすことは何かを消費するよりも難しいことだと私は思います。書く事が好きならもう少し続けてみてはどうでしょうか。」
紗綾が遥の横から覗き込んできた。
「まぁ、小説を書くだけならどこかの部に所属する必要もないと思うんだけど。他の部活と同じで同じ志を持った人たちと一緒に成長出来るというか。まぁ、そういう事。」
紗綾は微笑ながら飛鳥から離れた。
「そろそろ部活行くね。じゃあ。」
紗綾は教室を出て行った。運動部は毎日部活がある。練習の積み重ねが重要だからだ。
「今日部活ありますか。」
飛鳥が帰り支度をゆっくりと始めたとき、背後から遥が言った。「無い」と答えたら一緒に帰ろうということになった。遥のほうも無いらしい。
校庭から運動部の声が聞こえる中、飛鳥たちは校舎を出た。太陽は傾き始めていたがまだまだ明るい。夏が近づいているためだろうか。
「今回書いた作品ってどこかに掲載されるんですよね。ちょっと読んでみたいなぁ。」
飛鳥の書いた作品はもうすぐ刊行される。飛鳥の高校最初の作品。恥ずかしいけど、楽しみだった。
文芸部集合日。部室に行くと出来上がった冊子が机の上に何冊も載っていた。
「一冊ずつ持っていって。」
部長が集まったみんなに出来上がった配っていく。飛鳥は手に取って気がついた。残念な事に冊子が薄っぺらい。人数が人数なので仕方がないとは思った。
「今年度最初の作品集となりました。今年入った久留生さんの作品も加わってちょっとボリュームアップしました。はい拍手。」
部長の先導で拍手が起きる。始めて載ったという事は祝うべきだろう。
「久留生さんの読んでみたけどなかなか面白いと思うよ。特に……。」
飛鳥は恥ずかしくなってその場に小さくなった。初めて人前で自分が書いたものについて言われたからだ。これまでは、眼に見えない人からの言葉だけだった。
「これから残りを置いてくるから欲しい人先に言って。」
部長が冊子の束を持つと各部員にいくらか配っていく。飛鳥も遥のために一部貰った。
「ああ、もうちょっと刷っておけば良かったかな。いつもより少ないや。」
部室を出る時の冊子の数はかなり少なくなっていた。各部員ごとに意外と配る相手が居るようだ。それから次の締切りを言い渡されて解散となった。次回は期末テストの後らしい。
次の日の昼休み。飛鳥、紗綾と遥は机を付けてそれぞれお弁当を用意している。
「ああ、この間言っていたの持ってきたよ。」
飛鳥は昨日文芸部で貰った冊子を遥に渡した。飛鳥の最初の作品。本の全ページ中でちょうど中程、先輩の作品と並べると異様な雰囲気を醸し出していた。簡単にいえば差を思い知らされたという感じだ。まだまだ勉強すべきことはある。
「へえ、出来たんですね。」
遥は感嘆しつつぱらぱらとめくるページを紗綾が覗き込んでいる。箸を止めて見入る姿は珍しい。物珍しいのだろう。
飛鳥はその冊子はあげると遥かに告げる。もらって嬉しいかはさておき飛鳥自身が持ち帰るのが面倒だからだ。
「え、貰っていいんですか。じゃあ、頂きます。」
嬉しそうに遥は冊子をカバンにしまう。それを紗綾はじっと見ていた。
「私も欲しいな。」
紗綾の聞こえるか聞こえないかの声でつぶやいた言葉。
「あ、じゃあこれあげようか。」
遥は冊子を出して紗綾に渡そうとする。紗綾は首を振り弁当を食べ始めた。
「じゃ、じゃあご飯食べたら一緒に読もうよ。飛鳥、今度は二部持って来てね。紗綾も読みたいよね。」
遥の言葉に紗綾は弁当を見たまま頷いた。