第三話 放課後活動
第三話 放課後活動
飛鳥はある部屋の前に立っていた。ドアには張り紙で「文芸部」と書いてある。昼休みに気になってしまったがために今彼女はここに居るのだ。
飛鳥はノックしようとドアに手を近づけた。すると、室内から声が聞こえてくる。
「じゃあ、私は細田先生のとこ行ってきます。」
勢い良くドアが開いた。ドアを開けた生徒は引き戸の前に居た飛鳥に驚きドアから離れた。
「高崎早く行ってきて。」
高崎と呼ばれた生徒は室内から聞こえる声に押されるように足早に部屋を出て行った。
「えっと。新入生かな。入部希望なの。」
中に居る部長らしき人が一度飛鳥を見ると、再び手元の本に視線を落とした。
飛鳥は室内に入ると声が上ずりそうになりながら自分の名前と見学に来た旨を伝えた。
「ふーん、見学ね。こんな部のどこを見学するの。ねぇ、久留生さん。」
部長らしき人は本をそばにある大きめ机に放り出すと部屋を歩き出した。
「まぁいいわ。私は部長の高松よ。私が三年で、二年がさっきの高崎と今日は来てないけど小林が居るわ。あとは他の部と掛け持ちで大滝と佐藤だったかな。ちなみに顧問は細田先生。まぁ、一年生だから知らないと思うけど。」
飛鳥が室内を見れば彼女以外誰も居ない。よく見れば部屋の右側には本棚があって中にはつづりひもでまとめられた本が幾つもある。その隣には大きめの机があり、パソコンとプリンタが置いてある。
部長の高松は両手を広げて部室を示した。
「うちの部は見ての通りよ。文芸全般を各自気長にやってるわ。あとは定期的に作品を一冊の文集にまとめて学内と学祭で配るくらいかな。」
その時、背後のドアが開く音がした。振り返れば高崎が戻ってきていた。高崎は飛鳥の前を素通りすると部長の高松となにか話している。
「……あと一本なんて書けないわよ。だって、……。」
途切れた会話が飛鳥の耳に届く。一本、もう一本必要とはどういう事だろうか。じっと二人を見ていた飛鳥はふと部長の高松と目が合った。飛鳥はその目が一瞬大きくなったような気がした。すぐに高松は目を逸らして会話を再開する。次は高崎が飛鳥を見た。飛鳥は何が起きたのか。自分に何か関係することなのだろうかと色々と考える。
高松が高崎の肩を軽く叩くことで二人の会話はひとまず終了したようだ。高松は飛鳥の前に来た。
「久留生さんだっけ。あなたはこの文芸部で何がしたいの。」
高松の突然の問に飛鳥は戸惑いながらも自分は小説が書きたいと言った。すると、高松は素早く高崎を見て頷いている。何かが勝手に進行しているような気がした。
高松は満面の笑みで飛鳥を見た。
「まぁ、これも縁よね。あなたうちに入ってみない。まだ新入生入ってないのよね。どう。」
高松の満面の笑みの中にも何か嫌な予感があった。それでも小説は書きたいので入部を希望すると返答した。
途端に喜ぶ高松と高崎の二人。手と手を取り合ってうれしそうだ。二人ともひとしきり喜ぶと高松は飛鳥の前に来た。
「じゃあ、来月中旬までに作品一本書いてきてもらえる。短編でも長編でもいいわ。」
高松の突然の言葉に飛鳥は固まってしまった。なんとか反論しようと口から声を出そうとするが高松の声にかき消される。
「来月中旬に出す文集に載せるから。ああ、大丈夫よどんな出来でも出すから。形式はパソコンのテキストファイルの形式で持ってきてね。まずは手書きで書いて、ここのパソコンで打ち込んでも良いわ。じゃあ、よろしく。」
飛鳥は何も言えずた頷いてしまった。飛鳥は明日から部室に来ていいと言われ、そのまま部室を出た。落ち着いてみたら、飛鳥は小説を書けば文集に載るという状況に今居る。強引とはいえ、新入生として入ってすぐに書いた作品が文集に載るのなら良いのかもしれない。
飛鳥は軽く背伸びをして歩き出す。その時、ふと今後の予定を思い出そうと手帳を取り出した。そこに書かれていたのは来月上旬に実力テストがあり、下旬に中間試験。
学業と部活動の両立は言葉で言うほど簡単じゃないと思う。