何がって
何がつらいって、自分の思いの通りの言動ができないことがつらかった。
ほんとはすぐにでも飛んでいって、私の配慮が足りなかったことを謝罪したかった。もう邪魔をしてはいけないと、必死で思いとどまった。
私は邪魔をしたくない人の邪魔になることがこの世の何より嫌い。
それでなくとも面倒ごとの多いノイズまみれの世の中で、私が鬱陶しいことの原因になるなど、耐えられたものではなかった。
彼の話を聞いていた。それは対象が誰であろうと関係ない、ある心象を持ってしまった人に対するすごく達観したアドバイスだったから、対象が誰かだなんてどうでもよかった。
なのに私は嫉妬丸出しでまるで彼が間違えたかのようなバカにした態度を取ってしまった。
あれが何だったのかわからないけど、少なくともほんとだね、おかしいね、って言えばいいだけの話だった。だけどあんな優しさってあるかいな、私だけに向けられてさえいればいいものではないことくらいもわかってる。むしろその大きさこそ、私がひれ伏してしまう尊さではないか。にもかかわらず、彼の優しさを独り占めできないことに勝手に激しく傷ついた。
なんだろう、この心の狭さは。
自分勝手に打ちのめされた上、彼に悪いことしたって思わせちゃった。
世の中の大きなことには動揺するけど、自分自身にふりかかる個人的なことは大概流せるようになっていた。どうでもいい人からどんな扱いを受けようとも構わない、傷つく人からしか私は傷つけられないから。私のことを傷つけることができる人は限られてくる。
だから彼がでかいのをいいことに、最大限利用させてもらうことにした。傷は私が大切に持ち続けてる何らかの不都合な思いを炙り出すためのトリガーとなるから。
私は何を後生大事に持ち続けているのだろう。
放置子だった私は無視されることが心から嫌い。
興味ない、って言われるのが何よりもつらい、なぜなら私に興味を持たないこと、それは正解だと思っているから。自分には価値がないと思ってるんだ。そういう証拠をかき集めては持論の正しさの証明に躍起になる、ほうら見たことか、やっぱり私は捨て置かれる存在なんだ。
なんでまだわからなかった人のこと当てられたのか、結構自分でもすごいと思ったのに、興味ないんだって。一番そんな風に思われたくない人から思われた。すごいね私の引き寄せ。
だけどそれは私の方こそ先にバカにしたような言い草したからでしょ。頭ではわかってても、衝撃は大き過ぎた。
もう生育歴がどうとかどうでもいいや、飽きた、面倒くさい、いつまで続ける気やねん、ようやくどうしても手放したくなかった私の生きてきた証を、諦める気持ちになった。
私はいつでも私だけが正しいと思ってる。世の中の間違い、その是正に躍起になるのだ。
ずっと苦しかった。
世の中の人が私の思い通りでないことが、自己の傲慢さが。
本来の自分、自然な自分に抗っている時、苦しみは生まれる。
器がでかくなりたい、嫉妬なんかしない自分になりたい、なれないうちはまだまだだと思ってた。
やり方を変えた。嫉妬する自分を許すことにした。だって勝手に湧き上がるんだもん。
そういう醜い(と自分で決めつけていた)感情を持つ自分のことをまるっと受け入れる、その器を大きく育てることにしようと。
自分自身の内面を清濁選ばず直視する、特に私は濁の方を、彼と出会わなければ間違いなくこういったこともままならなかっただろう。
私がしぬほど大嫌いな、醜くくてあくどくて意地汚い、私がそうみなすような部分も当然私は持っている、受け入れてるつもりで絶対に受け入れたくなかったそういう部分を持っていることを認めよう。
てか知ってた。性格悪いことくらい自分で知ってた。彼がくれた数々の贈り物の中、すごく素敵でありすぎる中の最も好きな考え方のうちのひとつ、これが「大切にしなくても居残ってる自然な自分」なんだと思う。そして「そんな自分が好きなんだ」って教えてくれた。私は涙が出そうだったよ。
私もそんな自分が好き。気位が高くてくそほど口が悪い私のことを、気に入ってるんだ。
だけれど悲しみに暮れていた。存在を全否定されたらと思うとその恐怖心に勝てなかった。私は心の置き場を求めてお得意の彷徨うことをやめない。迷惑極まりない。
そしてとてもいじけていた。もう邪魔にだけはなりたくない。心の中でやり直してみる。
なんでわかったの?
なんでも。不思議でしょう?
うん。すごいね
こうしてえへへと笑って自分を慰めて、だって脳はほんとと空想の区別がつかないらしいから。そして私の至らなかったことを省みる。
ごめんね。
もっとさっぱりなりたい。
繊細で強い私になる勇気を、度胸を、てかほんとは一晩寝たらすっかりさっぱり私ってばのんきに続きを生きてくんだけど、全部冬のせい。
何がつらいって寒いのが何より苦手、うちにこもって冬眠しないとやり過ごせない。
ということにして。いい加減自分の思いの通りの言動をしたいよ。