1話 記憶
花暦1087年
この星は花と色が織りなす世界【花園】
その世界の住民【花人】
これは記憶を無くした少年アーリスが自らを探す旅の物語である。
花園には誰もが知る古くからの言い伝えがある。
―太陽に近づき過ぎし者は翼をもがれ大地へと落ちてゆく―と。
太陽神書 第一章一節より抜粋
城下町リーフタウンの端の路地裏
・「きゃー!!」
薄暗い中に女の悲鳴が響き渡る。
女が2人の男に必要に迫られていた。
・「うるせぇ!わめくな!早くその陽光石を渡せ!!」
男達は斧を手に持ち脅すように詰め寄り、女が持っていた石を無理矢理奪い盗った。
・「お願いです!それを返してください!それは息子の治療のために使うのです!」
【陽光石】太陽の加護が与えられた石で色々な物の動力エネルギー源として使用される。この世界での生活の基盤となる必需品である。そのエネルギーは人体にも影響を及ぼして治療に使われることもある。
・「いいのか?俺ら「乱咲」に逆らって」
・「らっ乱咲!」
女はその言葉を聞くと震えるように怯え出した。
・「そうだよ!俺らがあの悪名高き犯罪組織、乱咲だ!!はっはっはっ!!死にたくなかったら早くその陽光石を渡しな!」
【乱咲】それは花園では知らぬ者がいない程の犯罪組織。花園の犯罪の殆どは辿っていくと乱咲に繋がると言われている。だが組織の人数も居場所も詳細は何一つ分かっていない。
ザザッ
そんな事件の中、男達の後ろから声が聞こえてきた。
・「ねえねえ!今、乱咲って言ったの?」
男達は振り返る。
・「あっ?誰だてめー?」
そこには明るく笑う少年が立っていた。
その少年の名前はアーリス。
・アーリス「誰って言われても…オレもオレ自身誰だかわかんないんだよね。実は記憶がなくて…ははは。」
アーリスは苦笑いを浮かべながらそう答えた。
・「なんだよ記憶喪失ってか?そんな奴が俺たちになんの用があんだよ!!」
・アーリス「悪いことはよしなよ。」
・「はぁ?てめぇーに関係ないだろ!!」
・アーリス「それにさっき乱咲って言ってたよね?」
・「だったら何なんだよ!!」
・アーリス「うーん。乱咲のこと探してたんだよね。」
・「俺らを探してたぁ?そんなの知るかよ!!!んっ??ってかお前その色紋、何族だ?ぷっっ!お前まさか無色か?」
男達はアーリスの首元に浮かび上がる黒い紋様を見て笑いながらそう言った。
【色紋】花園に住む花人には部族が存在し部族によって異なる色の紋様が体のどこかに浮き出ている。この色紋の色によってある程度どの部族かが分かる。
【無色】黒い色紋でその不気味な様子から花園では忌み嫌われている。無色は出生が分からない捨て子であることが多い。
・アーリス「うん。そう呼ばれてるみたい。でもこの黒い色紋かっこよくない?!」
・「はぁ?気持ちわりーよ!て言うかさっきから邪魔すんじゃねーよ。うるせーからとりあえず死んどけよ!!!」
男達は手に持った斧でアーリスを切りつけようと、斧を勢いよく振りかざす。
スカッ
だがアーリスはその斧をひらりとかわした。
すかさずアーリスは男のみぞおちに左手で一発、顔面に右手で一発、殴りつけた。
ドカッ!!
男は吹き飛び壁に激突した。
壁にはひびが入り男ぐったりと気絶した。
・「てめぇやりやがったな!」
仲間をやられたもう一人の男が吠える。
・「色技 大木」
ビキビキビキ…
なんと男の右腕はみるみる大きくなっていき二回り程巨大化したのだった。
【色技】花人の体には血が流れる血管とは別に"根"が張り巡らされている。この根は"色素"という力を創ることができる。色技はその色素を使って発動する技のことである。
・「はっはっは!!これを見て生きていた者はいない!くたばれ!!」
ヴォン!!
男はその巨大化した腕を勢い良く振り回す。
スカッ
だがアーリスはまたもひらりと攻撃をかわす。
ドゴンッ!!!
避けられた男の攻撃は地面に当たり地面は大きく割れ、男の拳は地面にめり込んでいた。
アーリスは構える。
・アーリス「色技 嘘吐の大鎌」
フワー…
男がアーリスの方を見るとアーリスは手に透けた煙の大鎌を持っていた。
大鎌には荊棘の装飾が施されてある。
アーリスは男に向かって飛びかかる。
・アーリス「色技 記憶盗視」
ザッ!!
アーリスは男を大鎌で斬りつけた。
男はその大鎌に驚き一瞬目を瞑ってしまう。
スカッ
・「??」
だが大鎌は男には当たらずに男の体をすり抜けていった。
男はキョロキョロしながら、
・「へへっ!なっ、何もねぇじゃねぇか。それは煙か?ハッタリかよ!!びびらせやがって!!」
そう言ってる途中に男の頭からは煙のかたまりのようなものが浮かび上がる。その煙は狸の姿へと形を変えてアーリスの元に近寄って来た。
狸はアーリスの耳元で何かを囁く。
それを聞いたアーリスは、
・アーリス「なーんだ。お前達、乱咲じゃないのか。」
アーリスは少しがっかりしたようにそう言った。
・「なっなぜそれを?」
実は男達は嘘をついていたのだった。その嘘を見破られて男は戸惑う。
・アーリス「ふふふ。オレの友達が教えてくれたんだ!ありがとねライクーン。」
狸のライクーンは「きゅん」っと返事をしてふわりと消えていった。
・アーリス「オレのこの大鎌には記憶を覗く力があるんだ!」
アーリスは嘘を見破った方法を説明してあげた。
・アーリス「まぁ、覗いたのは数時間前までの記憶だけだけどね。」
それを聞いた男は開き直って、
・「……そうだよ!俺らは乱咲じゃねぇ!ちっ!乱咲の名前を使ってこんな田舎の町だったらがっぽり稼げると思ったのに。」
・「だがそれを知ったからってどうなる?このハッタリ野郎!!記憶を覗くだけだろ!ならもうその技は怖くねぇなあ!!!!」
男はまたアーリスに殴りかかる。
・アーリス「だからそんなスピードじゃオレには当てられないよ。」
スカッ
アーリスは攻撃をかわしながら、
・アーリス「覗くだけなんて言ってないよね!あとはこんな事もできるんだ!!色技 記憶削除 ぷらす〜 記憶改竄 あらよっと!!」
ザッ!
アーリスは再び煙の大鎌で男を斬りつける。
スカッ。
またも大鎌が男の体をすり抜ける。
すると今度は、
ドンッ!
男は急に気絶して地面に倒れる。
・アーリス「お前たちの記憶を一部消して上書きさせてもらったよ!あっ、ついでにそっちのやつもやっといたからね!!」
・アーリス「この町に来た時からの記憶を消したんだ。そして町に来た理由は畑仕事を学びに来たということにしておいたからね!これでもう悪さしないですむね!!」
男は記憶を改竄されたことによる脳へのダメージで気絶したのだった。
・アーリス「よし!一件落着!!(でもこの技使うと根の代償が結構きついんだよね……)」
アーリスは心の中で呟いた。
【根の代償】色技で特別な能力を引き出す時や力の底上げをする時に、色技の威力や効果と同価値以上の何かを捧げること。今回アーリスが捧げたものは自分の記憶だった。
・アーリス「仕方ないからこの前食べた期間限定ドリアン肉まんの記憶を消すか。あれめっちゃ不味かったんだよなー。オレは期間限定に弱いからまた食べちゃいそう。はぁ、しかもあの肉まん値段高いし…(うぅ。オレの1200フラン)」
※フランはこの世界の通貨であり1200フランは約1200円
アーリスがそうやって考え事をしていると、
・「あっあの!!本当にありがとうございます!!」
助けられた女がアーリスに駆け寄って来た。
・「私フォルビアと申します。お礼を!お礼をさせてください!」
・アーリス「いいよ!いいよ!オレも目的があってのことだからね!」
アーリスは遠慮をしながらそう言った。
・フォルビア「目的?」
・アーリス「そう実はオレ記憶がなくて今はその記憶探しの旅をしてるってわけ!!」
・フォルビア「記憶ですか。大変なんですね。」
・アーリス「うん!でも気長に旅するから平気平気!!そんな事より早くその陽光石息子さんに持っていってあげて!!」
・フォルビア「はい。本当にありがとうございました。」
・アーリス「いいの!いいの!気にしないで!じゃ!オレはもう行くね!!」
アーリスはお礼も何も受け取らずにそそくさと走って行ってしまった。
フォルビアはそのアーリスの後ろ姿に深々とお辞儀をした。
・アーリス「さーて次!次!」
アーリスは気を取り直して探している乱咲の情報収集のために元気に歩き出す。
すると突然、
ドスッ
アーリスは今まで感じたことない程の痛みが体を走った。
アーリスは訳も分からず腹部を見る。
すると腰から貫通するように刃物が突き出ていた。そこからは大量の血が流れ出ている。
・アーリス「なん…だ…?」
アーリスの後ろには謎の男が立っていた。
アーリスはその男にいきなり刺されたのであった。
・「お前。俺らを探してるんだってな。」
謎の男はそのまま後ろから話しかけてきた。
・アーリス「だっ…だ……れだ?」
アーリスは血を吐きながら聞き返す。
・「乱咲のレイン ハイドラっていうもんだ。まぁお前もう死ぬから何を言っても意味はないがな。」
なんと謎の男の正体はアーリスが探している乱咲であった。
・レイン「俺は舐めてるやつが大っ嫌いなんだよ。お前もあそこで死んでる奴らもな。俺らを探ってる奴も、ましてや乱咲の名を勝手に語る奴らなんかはもっての外だ。」
・アーリス「あっ…あいつらも殺し…た…のか?」
・レイン「ああ、殺した。お前も時期に死ぬ。闘いは見てたがちょっとは骨のありそうな奴だったな。最後に名前くらいは聞いといてやる。」
ズシャ…
レインはアーリスの体から刃物を引き抜きながら聞いてきた。
ドサッ。
アーリスは前のめりに倒れる。
・アーリス「アー…リ…ス…だ。」
アーリスは声を振り絞った。
・レイン「アーリスか。じゃあなアーリス。」
アーリスは意識が朦朧となりながらレインを見た。
レインは見下ろすようにこっちを見ている。
薄れゆく意識のなかで顔に浮かぶ青い色紋と腕に褄取草の刺青が見える。
アーリスは意識を失い、レインはその場から立ち去って行く。
ポツポツと急に雨が降り出してきた。
アーリスの体から流れる出る血と雨が混ざり合い広がっていく。
数分後。
気を失ったアーリスを見下ろすように小柄な女の子が立っていた。
ドゴーン ゴロゴロ…
土砂降りの中、雷が光った。
読んで頂きありがとうございます!!
ブックマークやいいね、★を押して貰えるととても励みになります!!(↓↓↓からできます。)
これからも作品をよろしくお願いいたします!!