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良心  作者: 森村渉
2/2

チノアジ

ついに集会当日になり、ハートは指示された倉庫にたどり着いた。そこは作業員らしき人が出入りしていてとても闇バイトの集会場所には見えなかった。

(ここで合ってるよね。うん。第一倉庫だから合ってる。)

ハートはドキドキしながら倉庫に入った。


中は見た目とは裏腹に、パソコンを使って作業をしている人や、電話でオペレーターを担当している人もいた。

冷房も効いていて、まるでオフィスのようだった。


「「新人はこっちだ!!集まれ!!」」

と、背後から野太い大きな声が聞こえてきた。

合図と共に、美人な二十歳くらいの女性、ツーブロのヤンキーっぽい目付きの男性、サラリーマンのようなおじさんなど、計20人程度が集まってきた。

大体集まったと思ったとき、スマホの通知音が一斉に鳴った。スマホを開くと、このようなメッセージが表示された。

『さあ、まずはバイトに参加してくれてありがとう。まず、弊社は犯罪を許さない企業だ。心しておけ。仕事内容は後日送られる。』


倉庫内はオペレーターの声だけが聞こえる、集会はほぼ沈黙状態になった。

ハートは思わずこの空気の中、「は?」と声をあげてしまった。

ハートのイメージの闇バイトとは、犯罪行為をさせるものだと思っていた。皆もそうであったであろう。

メールにはURLが添付されており、それを押すと勝手にアプリがインストールされた。

ハートらを呼び出した男は口を開く。

「URL先のアプリはわが社でつくられたアプリだ。これはメールに似ているが、メッセージを完全に消せる機能や盗聴を妨害する機能、相手のGPSを表示させる機能などが入っている。アプリの名はXXXXXだ。」

アプリから早速メッセージが来た。開くと、所属部所とグループが表示された。

(所属は…掃除部?!メンバーはハート、ジャック、中卒、インポ、プレの五人でグループ名は『チノアジ』…チノアジ?!)

ハートだけではなく、皆が戸惑っており、空気はさらに悪化した。


そんなとき、誰かに肩を叩かれた気がした。振り向くと、そこには高校のクラスメイトがいた。

「良心さんよね。覚えてる?私、あなたが不登校になった後退学したの。このバイトを初めるから友達に迷惑かけたくない。ここでは中卒って呼んで。」

彼女は三和。下の名前は忘れたけど陽キャ女子だったことは覚えている。ハートは「はぁ、よろしく。」と、だるそうな声で返事した。


中卒とは距離を置き、メッセージを見返すと『犯罪を無くすための犯罪』という言葉が目立つ。さらにメッセージをスクロールすると、グループの顔写真が表示される。


メッセージを見ていると、

「キミたちも『チノアジ』だよね。よろしくなの。」

と、聞いたことない女性の声で話しかけられた。そこには金髪の男、爽やかでイケメンな男、美人だが背丈はハート以下の女性がいた。

顔写真の人たちである。

「さっそくだが、新人歓迎会をしようぜ。暗殺はチームワークが必要だからな。」

金髪の男がそう言うと、二人は「いいね」「やろうや」と賛成の意見が聞こえてきた。


ハートたちは客室に誘導され、そこにはトランプが置いてあった。

「ババ抜きやりたいなの。」

「スピードとかどうや。」

「無難にポーカーとかがいいぜ。」

三人の意見はバラバラである。

一向に話がまとまらないため、イケメンは中卒に指をさし、

「せや、そこの姉ちゃん、何がええ?」

と、馴れ馴れしい態度で中卒に聞いた。

「えーっと、じゃあババ抜きで。」

中卒は戸惑いながらババ抜きを選んだ。

「やったなの。さっそくトランプを配るなの。」

「へいへい。」

金髪の男はタバコを吸いながらトランプを配り始めた。

「そうそう、私はプレ。よろしくなの。」

独特な語尾を付けている美人は自己紹介をした。それに続き、

「あ?俺様はジャック。」

と、金髪でヤンキーっぽい男も自己紹介をした。

「ワイはインポや。よろしくな。」

爽やかイケメンも自己紹介を済ませ、分けられた自分のトランプを見た。


ハートのカードにはジョーカーがあり、ハートのカードを引くプレは一向にジョーカーを引かなかった。だが、最後の最後でプレはジョーカーを引き、ハートは勝てた。最終的にジョーカーを持っていたのはインポで、負けてしまって悔しそうだった。

「何でや!」

「はは!ざまぁ!」

試合を終え、寛いでいたそのとき、スマホが鳴った。

ジャックはスマホを確認すると、ニヤニヤと笑い始めた。

「俺様たちの出番だな!さっそく新人たちに活躍の場面を見せられるチャンスだ!」

「せやかて、新人の武器どうするねん。」

インポはトランプのケースをその場で投げ回している。

「最初は見学からでいいなの。まずは掃除部の仕事内容覚えてもらうなの。」

「ああ、そうだな。」

「なら決まりやな!」

インポは投げ回していたケースをハートに投げてきた。ハートはそれをキャッチした。


三人はジャンバーを羽織り、プレとインポは拳銃を、ジャックは金属バットをロッカーから取り出した。

「さて、行くか!」

プレとインポはジャックの言葉に「おー!」と返し、ハートと中卒は遅れて「お、おー」と控えめな声で返し、倉庫を後にした。


「掃除部っていうのは、その名のとおり、社会のゴミどもを清掃する部隊だぜ。」

ジャックは他人を見下しているヤンキーのようだ。バットもよく似合っている。

「亡骸は片付け部がやってくれるの。」

プレは可愛い声とは裏腹に、かなり物騒な言葉を選ぶ傾向があるのか、とても怖い印象である。

「一般人にはなるべく危害を加えないようになあ。かといって俺たちの存在が知られたら仰山面倒になる。見つかってもすぐ逃げるようにっていうこっちゃ。」

インポは関西弁のイケメンである。…。モデルにでもなればいいのに。

ハートは「はあ」と返事をし、中卒は「具体的にはどのような仕事ですか?」「武器はどこで手に入れますか?」など、先輩にグイグイ質問をしてくる。


倉庫から徒歩20分、目的の場所に着いたらしく、一同は立ち止まった。

プレはスマホを取り出し、アプリで電話を始めた。

「こちら、チノアジなの。任務に参加するからよろしくなの。」

プレはそう言って一旦スマホを提げた。

「任務中はXXXXXを開きながら行うなの。オペレーターがサポートしてくれるから仕事しやすくなるなの。」

「「は、はい。」」


現在地は都内のとある路地裏。一人の男が時間を気にしながら誰かを待っている。黒いスーツに手にはトランク。見るからに怪しい。五人は黙って監視を続けている。


「誰か来ましたよ!」

ハートは同じくトランクを持って黒スーツの男に近づいていくもう一人の男を指差した。


「ほらよ。これが交換条件な。」

「はいはい。じゃあこちらも。」

黒スーツの男が持っていたトランクの中身は拳銃、もう一人の男が持っていたトランクには大量のお札が入っていることを確認した。男たちはお互いのトランクの中身を見せ合い、交換した。


「ねえあれって…」

中卒がよからぬものを発見してしまったかのような声を出すと、

「まあ見てなって。俺様たちの掃除のやり方を!」

と、ジャックは言った。三人は武器を構え、無言でうなずいた。

プレは黒スーツの男の胸に銃弾を命中させ、男は倒れた。

インポも続いて銃を打つが、外してしまった。

「うわ!なんだ君たちは!」

もう一人の男はチノアジの存在に気がつき、逃亡しようとした。

「くそ!」

「問題ねえ!」

ジャックはバット片手に走りだした。ジャックは素早く男の背後にまわり、頭をバットで叩いた。

二人の男は大量の血を流し、その場で倒れている。

「あ、ああ!!」

ハートは全く動かなくなった男たちを見て、声をあげてしまった。

「人間ってこんなに脆いのね…。」

中卒も暗い声をあげた。


二人の死亡を確認をしてプレたちは死体に背を向けた。

「あいつらは銃の密売の取引をしていた。警察には目が行かないところでな。」

「生かしておいたら被害が拡大するだけや。…さすがに初っぱなから刺激的やったよな。」

「犯罪を防ぐ殺し…これが掃除部なの。」

さっきまでワイワイしていた先輩たちはどこへ行ったのか、三人は先ほどとは別人のように見えた。

しばらくの沈黙で時間が経過し、後に片付け部がやって来た。

今のハートの心情は驚きだけが勝っていており、恐怖や悲しみなどは感じていなかった。


片付け部の人間と死体を残し、チノアジは無言で倉庫に帰っていった。

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