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「レイ…君は強いけどあの位階のバンパイア相手だとまだ分が悪いよ」
姿が見えなかったレイはというと、僕が眠っている間に馬車から飛び降りてバンパイアに特攻をしかけあっさりいなされたらしい。
相手に敵意がなくて良かった。
「君は特別だから肉体の損壊まではされなかっただろうけど、殺されてたら少し面倒なことになっていた。しばらく戦うのは禁止ね」
「そんな…!」
レイが愕然とした顔をする。
「あー…なるほど。殺されてもいい前提で動いているわけね。ギリシャだなぁ…」
リズが何を納得したのか分からないが、死者の復活は神の領分だ。半神ではあれど人間でしかないレイが復活することは不可能である。
そこまで考えて、リズは専門でない知識にも明るいし、もしかして死んでも会いに行けるという話かもしれないな、と思った。
確かに僕は神なので冥府には行けるが…家出中なので会いには行けない。
善良であれこそすれ、まだなんの実績もないレイはおそらくエレボス行きだ。
昨今人類が増えてエレボスの拡大化が進んでいるという。探すのはきっと大変だろう。
「セディス…貴方本当に分かりやすいわ。目を見せるようになってさらにね。貴方の考えていることは全く関係ないから安心しなさい。この私が死者との会合なんて考えるわけないじゃない」
「それもそうか」
リズは基本的に個人主義だ。そうして敬虔…ではないが勤勉だ。
「アンジー。君には会いたい人とかいるのかい?」
大きい声で聞く。
「……。そうですねぇ。お父さんに会いたいです、月並みですけど」
ああ、父親も亡くなっているのか。
「うん、エリュシオンに行けば会えるみたいだ。…君なら行けるよ」
「?」
……。
▫
いつの間にか寝ていたらしい。
「セディス、着いたわよ」
「おお…」
西フランク王国だ。
ゼンは王城にいるらしい。将軍といえどかなりの高待遇である気もする。僕はそのあたり詳しくないけど。
今はその国境におり、審査を受けて基準を満たしていたら、この国に入れる。
出国する人が多いらしく、少し人手が足りていないようで、僕達は馬車ごと並ばされていた。
「僕とレイはフランス語話せるよ」
一応大学で学んでいたし。レイも僕のついでとはいえ講義を聞いていた。
…そもそも僕は最初話せるというか話した事実が伝わるというか、生まれた時から誰とでも会話できるようになっていたわけだけど。
レイは頭の良さももちろんあるが、目を使った裏技により3日で習得した。
「私も話せる…と言いたいところだけど、文章が読めるだけで会話したことは無いのよね…」
さすがリズ。リズに読めない書物なんてないのではないだろうか。
「私は無理ですよ!元から期待していないと思いますけど」
アンジーがそう言う。
…アンジーもやればできると思うけどね。
そういえば買うと言っていた本が読めないな。一応英語版も探そう。
「うーん、じゃあアンジーには僕が通訳してあげよう。僕の翻訳は誤差が限りなくゼロだから期待していてよ」
「はーい…護衛が雇い主に通訳してもらうってよく分かりませんねぇ…」
▫
僕達は馬車で揺られながら街を眺めていた。
機械による検閲は無事に終わった。僕はまた寝ていてもいいのだが、なんとはなしにぼんやりとしている。
「よく見たいものがあったら言ってくださいねー、馬車止めますんで」
前からアンジーが振り向きながら大声で言う。
「おー…」
一応返事はしておく。
雇い主だからね。
「この辺りの神秘は何に気をつければ良いのでしょうか?」
僕に寝るつもりがないと判断したらしく、レイが僕に聞いてくる。
「スコットランドの方とそんなに変わりはないよ。ゴーストやジャイアント、ウィッチ、ウェアウルフに気をつければ身近なところは概ね問題ない。…というか、僕達が今行けるところだとアジアの方に行かない限りさして変わらない」
バンパイアは一応ゴーストに分類される。
「分かりました。では今まで通り準備をしましょう。武器屋の前で止まってください!」
「了解でーす」
▫
僕も店内を見たいと言うと、レイが車椅子を取り出して僕を座らせてくれる。
ここで買う物のないリズは馬車に結界を張ってくれている。馬の操作なんてできないから力技だ、と笑っていた。
アンジーも護衛として僕について来ている。
前払いした給料は使ってしまったから、今後給料が支払われた時に武器を買い直す予定らしい。そのため、今回はアンジーが僕の車椅子を押してくれている。
馬の貸出や馬車の御者もしてくれているし、追加で払ってもいいと言ったけど、馬の管理費だけでいいらしい。
無欲な子だ。
……。
「天秤か…一応買っておこう」




