2-1
「な…あれは噂の半妖…?頼めば解剖させてくれたりしないだろうか…」
「セディスはホント変わらないわね…」
僕達は現地で買った馬車に揺られていた。
馬車はバスと違って、特別仕様の馬を使えば山の中も海の中もかけられるからいいよね。車輪もそれ用に少し変わった形をしている。
ちなみに半妖というのは妖怪と人間のハーフのことで、妖怪とは東洋における怪異のことだ。
「トリ様トリ様!今この状況で物を落下させたらどうなるんでしょうか!?」
窓の外に顔を出していたレイが僕の方に勢いよく振り向いた。
目を輝かせている。
「ふふ。やってみるといい。ヤシの木の種を渡してあげよう」
「はい!」
本を出してもいいが、良い機会だ。実際にやってみるのもいいだろう。
「はー、私馬車なんて初めて乗りましたー。馬に乗って山を走るのも楽しいですが、たまにはこういうのもいいですねぇ。馬の王様にでもなった気分です」
術を行使しながら馬車の御者をやっているアンジーが声をあげる。
「アンジーは詩人だなぁ。向こうに行ったら欲しい本を買ってあげよう」
「本当ですか?ありがとうございます!やったー」
僕が護衛として雇ったアンジーはなかなか器用で、それでいて頭が回るらしい。
さっきの僕とレイとの会話を聞いて僕を少し試しにきた。
相変わらず表情は変わらない。
「そういやリズ。あのハーレムメンバー?は連れてこなくて良かったのかい?」
「……。私が居ない中さらに戦力を薄くする道理はないわよ。呪いはまあ…現地でなんとかする」
「それならいい…のか?」
よく考えたら僕にはどうしようもないので、なるようになることを祈るしかない。
「じゃあ僕は寝るから…着いたら起こして…」
▫
「セディス!セディス!」
「…ん?もう着いたのかい?」
「違うわ。モンスターよ」
「おー…」
僕を起こす必要はあるのだろうか…。
正直僕がいなくても過剰戦力すぎるきらいがある。
リズは戦闘系ではないけど。
「…バンパイア?なかなか強そうなのが来たね」
外を見るともう夜になっていた。
「そうなのか…私の敵じゃないわね。位階は?」
「うーん…ん、真祖?……」
魔術の極至にバンパイア化の魔法がある。
あのモンスターはそれによってなった元人間だ。
こうやって独力で半不死身に至れるのも人間の強みの1つだろう。
「はぁ!?なんだって真祖がこんなところに」
「…。アンジー狙いかなぁ…?」
アンジーはなかなか特殊な生い立ちをしている。
バンパイアは生きた人間に取り憑くこともできるらしい。その性能の良い肉体を手に入れに来たのかもしれない。
…このバンパイアはおそらく自らなったものであろうから、そこまで程度の低い目的ではない可能性もある。
少し前に血を吸い食事とするバンパイアの話を聞いた。普通のバンパイアはそんなことをしないので、よく覚えている。
このバンパイアがそれだとすると、アンジーの血が狙いだろうか?
あの血には何があっても不思議ではない。
「会話…はできそうか。アンジー、少しあの吸血鬼に声をかけてみるんだ。状態異常にかかったらリズが解いてくれるから安心していい」
「えぇ。……分かりましたよ!そこのシュッとしたカッコイイオニーサン!目的は何ですか!?」
アンジーが窓から顔を出して叫ぶ。
「目的?…。ああ、忠告してあげようと思って。君たちこの先の国に行くんだろう?今はやめておいた方がいいよ」
「おお紳士的ですねぇ」
この高位の吸血鬼がリズの気配に気づいていないとも思えない、信用はできないな。
忠告のためだけに自身が殺されるとなれば、笑い話にもならない。
「…リズ。この隙に殺ろうよ。若干中身が見える感じで攻撃してくれると嬉しい」
吸血鬼から目を外さずリズに攻撃を提案する。
「私は攻撃特化じゃないんだからあんまり期待しないで。…やってみるけど」
僕の顔の隣にリズの手が置かれる。
もちろん窓枠の上だ。
「【木槌】」
リズの狙いは完璧だったがそれ故に避けられた。
「う…」
ものすごく悔しそうだ。
「全く何をするんだ」
バンパイアが困った顔をする。
「バンパイアはモンスター認定されている。そうしてモンスターは討伐していいことになってるんだ。すまないが、君にはここで討伐されてもらう」
「え…?」
「‘剣’、‘羽’、‘靴‘」
とりあえず欲しいものをここに持ってくる。
「な…それ…いや、いい。逃げる!」
「ちっ」
霧のように逃げられた。
しかしこれだけで分かるとは。
「……悲しい」
そんな怖い物を見たかのように逃げ出さなくてもいいじゃないか。




