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エピローグ②

「ありがとう、僕を受け入れてくれて」


 僕はユウの助手をやることにしたのだった。

 自分の欲に正直になるのが怠惰だと言うのなら、やはり僕には解剖しかないだろう。


「……ありがたいなんてもんじゃないですよ。解剖を生業とする私のもとに解剖を司る神が来てくれる。これほど名誉なことはありません。幼い頃からずっとそう思っています」


 しばらく考え込んでから、ユウはそう言った。


「そうだ!雇い主なんだから僕も敬語を使った方がいいかな!?ええと、佐藤雪之教授!」


「やめてくださいよ!!」


 あれ、本気で抵抗されてしまった。


「分かったよ、ユウ。しょうがないなぁ」


「ええ。もう本当にやめてくださいよ、お願いですから」


 そんなことを言いながら準備をしていく。


「今日はバロメッツの解剖かぁ」


 珍しいとはいえ、金持ちの食用になることも多いので、研究はかなり進んでいる部類だ。面白みの少ない題材ということでもある。


「ですね。私も大学を離れて長いんですが、たまーにこういう商業的な依頼が来ますね。まあ報酬も弾むのでいいんですがね」


 僕の不満気な顔を見たのかユウがそう言った。ユウのネームバリューを買った依頼ってことかな。ということは依頼主は相当な金持ちだろう。


「ふうん。ま、ユウがいいならいいさ!始めよう」


 僕がそう言い、ユウが昔通りの顰め面を少しだけ緩ませたところで、扉が勢いよく開いた。


「トリ様!」


 レイ!?なんでここに。


「なんだね君は。……ああ、セディスさんの息子さんか。活躍はよく聞いているよ」


 ユウと初めて会った時はディストリングマンと名乗っていた僕だったが、リズに名前らしくないとセディスという呼び名を考えてもらったことを告げると、快くセディスと呼んでくれている。


「そうです!」


 僕達は1回実家に帰ったのだが、その時にレイの父親から許可がもらえてしまったので、正式に僕はレイの父親ということになってしまった。まあいいけど……。


 レイがことあるごとにそれを話すため、僕がレイの父親ということはもはや周知の事実となっている。

 これはちょっと嫌だ。


「はあ……扉の修理代はセディスさんにつけておく」


「ありがとう」


「いえいえ。セディスさんの頼みですから」


 そういえば、鍵を閉めていたのだった。それを力任せに開けたのだから扉も壊れるだろう。僕が払えばいいなら良かったよ。あらかじめ、レイが迷惑をかけたら僕に言って欲しいと言っておいたのが役立ったかな。


「それでなんでここに?」


「たまたま依頼で近くを通ったのでトリ様に会いにきたんです!」


「そうなんだ、よく来たね。そうだ、バロメッツの解剖に参加するかい?ああ、でも」


 ユウが許可をしないかもしれない。レイの優秀さは常々話しているとはいえ、レイはまだ学士しか取っていない若輩者だ。


「近隣住民がいるのに、扉が開いたままで解剖はさすがに避けたいところですね。何、急ぎの用件ではありません。今日はお開きにして、食事でもしてきてはいかがですか?」


 ユウが瞼を半分下げてやかましい生徒を見るような目でレイを見ながらそう言った。うん。あんまり気が合わないらしい。そっか……。


「そっか、ごめんね」


「いえ……」


 困ったように言われた。僕が謝ってもという感じだ。



 ▫



「ユウは昔から僕のことを過剰なくらい尊敬してくれていてね。初めて会ったのは50年くらい前だったかな。その時から利発だったなぁ。すごく上手い解剖図を描くものだから、僕もつい声をかけちゃってさ」


 2人で歩きながらユウのことを話す。欲に正直になったからか、前のような重だるさはなく、車椅子もしばらく使っていない。


 1人で黙々と解剖図を描いている少年がいれば当たり前のように目を引く。それがユウだった。その街にいる間はよく話したっけ。

 利発がゆえに同年代の子と話が合わないものの、レイとは違い、そこそこ仲良くやれていて、上手く馴染めていた。でも1人が好きらしく、たまに顰め面をしながら1人で本を読んでいるところを見かけたものだ。


「なるほど……プロフェッサーサトウを見出すなんてさすがですトリ様」


「……いや、あれは誰でも見出せるよ。そのくらい秀でた子供だった。地元でも普通に希望の星扱いだったし。というか解体と解剖を司る僕が彼を見逃すとか、鍛冶師が鉄を打たないようなものだろ」


 さすがに否定しておくべきだと思い、レイの言葉に否定の言葉を述べると、レイがしょぼくれた顔をした。……レイはメンタルが弱いんだよな、だからついつい甘やかしてしまう。

 レイが過剰に僕を持ち上げるのは、尊敬から来てるというより、自分の養父はこんなに凄いんだ!だから自分も凄いに違いないというある種自己肯定感を上げるための行動なところがある。要はレイも僕に甘えている。


「レイもその状況を見ればきっと分か、あれ!?ねえ、あれアンジーじゃない」


 僕はあの家にひきこもっているのでよく知らないが、今は記者として活躍しているらしい。レイのプロデュースも並行してやってくれているようで、頭が下がるばかりだ。


「……。本当ですね」


 少し嫌そうな顔でそう言った。アンジーに対してなんて反応を、と思ったが、どうやらその反応はアンジーではなくその後ろにいる女性に向けられているみたいだ。


「ああ、セディスさん!お久しぶりです!ちょっとそこのアシュリーを足止めしてもらますか!?」


「え!?……分かった」



 ▫



「えーと、何から言ったらいいですかねぇ。とりあえずそうですね。こちらセディスさん、アシュリーの父親です」


「よろしく?」


 3人の女性に対して手を挙げて挨拶をしておく。


「右からアグネス、セシリア、キアナですね」


 アグネスと呼ばれた少女は微笑んでそれに答えた。名前を他者に紹介させることに慣れている。質素な服を着ているが、表情と眼差しから触れてはいけないような、静謐なものを感じる。相当高い身分だろうか。振る舞いからも溢れる知性と品格のようなものが溢れ出ている。

 セシリアは汚れ1つない上等なワンピースの裾をつまんで優雅にお辞儀をした。洗練された様子だ。どこぞの貴族かもしれない。どことなく見覚えのあるような顔をしているがいまいち思い出せない。お淑やかに見せているが強い眼差しから気の強さが垣間見える。

 キアナと呼ばれた少女は興味が無さそうにそっぽを向いている。エルフ、か?少し違和感が、いや、これはハーフエルフだな!?まああんまり珍しい存在でもないし厳密には血が薄まったエルフのハーフなのでハーフって厳密には言っていいかも怪しいが、それでも解剖させて欲しいぞ!!


 しかし、レイの迷惑になりかねない。僕は解剖させてくれという欲求を全力で押さえ込んだ。あ、ちょっと目眩が。


「それでこの素敵なお嬢さん方がなんだって?」


「素敵だなんてそんな!」


 頬を染めながら手を振って否定してくるセシリアの顔に、やはり見覚えがある気がしてまじまじと眺める。するとさらに顔を赤くする。……うーん。


「めんどくさいんでセシリアさんは黙っててくれます?」


「はい……」


 アンジーが呆れたように注意すると素直に黙り込んだ。今アンジーに対してもちょっと頬染めてなかった?父親に似てかっこいいしね、うん。


「俺の付き纏いです」


 レイの辛辣な物言いに、セシリアがまた顔を赤くして身悶える。誰でもいいのかい?君は。


「そっかー……」


「そうですねぇ。とりあえず少女の純情を弄んだんです、さっさと振るなりなんなりしましょうか、アシュリー。下手したら国際問題になるぞ?」


「はあ?純情って誰が?アグネスは俺に付き纏って改宗を迫る面倒なやつだし、セシリアは俺のこと罵ってくるいけ好かないやつだし、キアナに至っては会話すらしたことがない。俺に付き纏って俺のことを邪魔しようとしているやつらだぞ?」


「……」


 アンジーが困ったように3人の少女を見る。

 キアナ以外の2人は衝撃を受けた表情をしている。純情ってそういうことかあ。


「レイは悪くないって最初に言っておくけど、それでももう少しこの3人と会話しようか!」


 収拾がつかなくてとりあえず僕はそう言った。


 この後なんやかんやあって、その3人とアンジーとレイで冒険に出ることになるのはまた後の話。



ここまでお読みいただきありがとうございました。



蛇足なのでここに書きます。

予言の想定通りだと、アレキサンダーが魔王になり、アシュレイが討伐する、という流れでした。


スパイ行為をやって途中離脱をしたマイクですが、彼の能力は死んだ後にループする、というよく見るあれです。異次元人の人格がインプットされていないアルフレッドは殺意が高いので、スパイ行為がバレたマイクはひたすら殺され続けます。そして、マイクは四苦八苦の末最終的にアレキサンダーに容疑を押し付けることに成功します。


アレキサンダーはとても強く、アルフレッド単独では殺せません。しかしアレキサンダーのことをよく思っていなかったアルフレッドはこれ幸いとアレキサンダーをパーティから追放します。ただ、アレキサンダー単独の方が進行速度は速く、先に魔王を単独で倒してしまいます。そして七罪の祝福を全てくらってしまい、魔王の肉体になるわけですね。


魔王討伐パーティは魔王が倒されたため、また、仲があまりよくなかったこともあり、解散します。


マモンの画策により虚飾の魔王の復活は阻まれていましたが、本編通りマモンは倒され、ついでに、討伐隊に参加していたセディスによりマモンの企みは阻まれます。そして虚飾の魔王は復活します。アレキサンダーの肉体で復活した魔王はとても強く、アビゲイルやユージーンは彼に挑みますが、2人共為す術もなく敗北し、殺されます。


世界を飛び回りながら、取材をしていたリアンは次の題材に魔王を選びます。しかし、自身を腕に覚えがあるとはいえ魔王を倒せるほどでは無いと考えていた彼女は、スラム出身であり最強の冒険者と名高かったアシュレイに目をつけます。そして大学に通うための推薦をすることを条件に、アシュレイを魔王討伐の旅へ連れていきます。そして聖女や獣人の国の王女、エルフの旅人と共に旅をし、やがてアシュレイは魔王を討伐する……という流れになります。


しかし、アルフレッドが異次元人の人格と知識がインプットされ、ループに関する知識も得ていたおかげで、

「マイクを殺すのはちょっと不味くないか?なんか行動がおかしい。まるで僕に殺されると分かっているみたいだぞ」

と、慎重になり、2回目からは他の人に相談することを試みています。最初は仲のいいティファニーに相談して、マイクを殺しました。3回目はそれを阻止されたので、部屋を調査できそうなセディスに相談して、マイクを殺さずに追い出しました。そしてアレキサンダーが追放されることはなくなり本編へ……という感じです。

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