魔王討伐②
「この屋敷の中に間違いなくいる。ただ、姿が見えない。気をつけてかかろう」
「魔王がいることが分かったんだったら、私が爆破する」
走って帰ってきた僕が、魔王の存在を伝えると、アビーがそんな提案をしてきた。
「いいねそれは」
「……反対する理由は見当たらないわね。やっちゃいなさい」
「“爆ぜろ”」
アビーが魔法を使うと爆音とともに、目の前が更地になった。
「ふっ、こんなもの」
「脳筋ゴリラクソ女が建物をぶっ壊しちまったが、これホントに大丈夫か?」
「魔王を解き放ちかねない愚行かもしれないなッ」
ジーンとティフがそんなことを言いあっていると、魔王と思しき男が出てきた。
解析『虚飾の魔王』。僕の解析は中身からバラした前提で解析しているので、偽装されていても見抜けるはずだ。ということはこれは本物。
「見えなくなるのは屋敷の中だけだったみたいだね」
「結果論すぎません?まあいいですけど……」
「いいのか……」
そう言いながらアルとゼンが魔王に向かっていく。
ティフはいつも通りリズにバフをかけてもらってから後方に走っていった。
僕の仕事は終わりかな。
やれることも無いだろうとぼんやり眺める。
「なんか……手応えがないんですが」
「俺もない」
……。確かに虚栄の魔王って表示されているんだけどな。ああそうか。悪魔だから姿がブレている。だから気づかなかったがこれは。
「“大剣”」
大剣を手に持ち、薙ぎ払うことを意識し、魔王を攻撃する。手応えがある。うん、攻撃範囲が広ければ当たるな。
「少しズレてるだけらしい。多分見えてるよりちょっと右上にいる」
「セディスさんも大概脳筋ですよね」
そう言いながらアルが言われた通りの位置に正確に剣を突き刺した。
「なるほどな」
ゼンが槍を回転させ、広い範囲を攻撃し始めた。少し遅れて来たジーンも同じように攻撃する。
もちろん虚飾の魔王側も攻撃をするが、リズの防御バフの前では塵芥も同然……特攻みたいなものだしね。
散らばった本のページのようなものが見えるだけだ。
「お前達は私の屋敷を荒らした重罪人だ」
お、喋った。思ったより高い声だ。
「なんて言ってるの?」
リズが困惑した顔で僕に聞いてくる。どうやら西洋の言語では無いらしい。彼女は西洋の言語は大体できるらしいので。
「屋敷を荒らされて怒ってるって」
僕がそう答えると、アルが少し微妙な顔をした。アルにはなんとなくニュアンスが伝わっているのかもしれない。
「じゃあ遠慮なく倒す。“爆ぜろ”」
何がじゃあなのかは分からないが、アビーが魔法を使い、攻撃した。しかし不思議なことに魔王が出現させた本のページが燃えることはない。アビーも首を傾げている。
「私はお前達を殺す権利がある」
魔王がそう言った瞬間、辺りがブラックアウトして、法廷のような場所になった。幻術?いや、その手の物は僕には効かないはずだ。それとも魔王クラスなら話は別なのだろうか。
「私はあくまで理知的にお前達を裁く」
……リズー。
「私の方を見られても知らないわよ!?……あ、でも解けそう」
リズがそう言うと、異様な雰囲気があった周りが霧散し、元の通りの光景に戻った。
「攻撃は通れど暖簾に腕押し……どうすれば倒せるんだろうなぁ」
攻撃が一切効いていない気がする魔王を見ながら途方に暮れる。さすが魔王、倒せない。リズがいなければさっきので全滅していた可能性もあるな。
「いえいえ!僕が切り裂いてみせます!だってこの剣は悪魔を砕く勇者の剣!悪を切り裂くにはもってこいだ!」
アルが少し自分に酔った調子でそんなことを言った。
確かに手に持つ剣はとても強力な物だ。刃物の扱いは誰よりも上手いと自負する僕でさえ、15分しか扱えなかったとても癖の強い剣でもある。ジーンが使った時は、精神汚染が酷い!なんて騒いでいたっけ。特別な剣なのは間違いない。
目を輝かせながら剣を撫ぜ、そのまま切りかかる。
見事に当たるが、やはりダメージを負っている様子がない。
「ダメじゃねぇか」
ジーンが呆れたように言った。
そのまま篭手をつけた手で魔王が振った手を受け止める。ちなみに篭手は僕がこっそりあげたものだ。どうせ僕は持て余すだけだし、有効的に使ってくれていて嬉しい。
剣はあまり好きでは無いらしく、この戦闘スタイルになったのだとか。使えないわけでもないのが、彼の強みというか面白いところだ。
前衛の防御をほとんど一手に担っていたマイクがいなくなったので、その分の防御をメインで引き受けてくれている。
「悪人どもよ、地に伏せよ」
さすがに焦ってきたのか、少し顔を歪めている魔王がそう言うと、僕以外の仲間が全て倒れた。
「へ?」




