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7-8

「え?」


 思わず振り向く。


「この男を殺してもいいですか?」


 レイが眉間に皺を寄せ、僕を真剣に見ながらそう聞いてくる。

 聞き間違いじゃなかったか。

 僕やアルと違って素直なのが良いところだよね。だからこそ人間社会に溶け込めていない気もするけど気にしない。


「……今のレイじゃ殺せないと思うよ」


 ということで、僕も正直に答えることにした。

 アルがレイに殺されても正直どうでもよくはある。アルは権力者を洗脳する悪いヤツだし、それを倒せばレイにも箔が付く。推奨はしないけど悪くもない。それだけなら止める理由はない。

 問題は、2人が戦うと確実にアルが勝つだろうということだ。必要とされているとはいえ、もしものことがあれば、レイが殺されかねない。


「やってみなければ分からないはずだ!!」


 あ、レイがタメ口になっている。僕に対してだと久しぶりに聞いた。拗ねてるな。


「それもそうだね。いいよ」


 まあなんとかなるだろ。


「うん」


 レイがナイフを持つ。アビーと戦った時に僕が使ったナイフはそもそもレイのものだ。僕は武器、部屋から取り寄せればいいだけだしね。もちろんお礼は言ったし、買い直しておいた。


「は?」


 アルが困惑している。

 この展開は予想外だったのだろうか。


「止めなくていいんですか?」


 僕を見ながら困ったように聞いてくる。

 ああ、そうだったね。アルは倫理観を著しく欠損している割に変なところで真面目だった。子供を止めろということか。

 でも僕はレイに強く反対できないんだ、ごめん。……ティフが僕を批難していたのってこういうところかな。


「『ソード』」


 ナイフから光の柱が出現し、剣のような見た目になる。

 そのままアルに向かって放たれる。


「はあ!?なんだそれ、何それ!」


 ダッシュで逃げながら目を輝かせているアルを眺める。かっこいいよな、分かるよ。


「僕もやっていいかな?いいよな!『ソード』」


 銅剣に光を纏わせる。そのままレイのナイフを受け止めた。

 レイと仕組みは全くいっしょだ。もしかして今見て模倣したのか?すごい。


「セディスさん、弓を貸してくれませんか?」


 光の剣で打ち合いをするアルとレイを横目で見ながら、アンジーが僕に言う。


「いいよ、“弓”」


 アンジーが使いやすそうな弓を選ぶ。筋力はあるので、そこは気にしなくて良い。イングランドの生まれだったはずなので、射手がよく使っているやつがいいかな。いや、射抜く対象を考えるともう少し強力な方がいいか。エウリュトスが使ったと言われるこの弓……本物かは分からないけど、少なくとも旅で幾度も役に立った弓だ。これを貸そう。


「ありがとうございます!」


 天井裏、奥の壁の後ろに向かってそれぞれ矢を放つ。


「ぎゃっ」


 壁の方は射抜いたらしい、断末魔が聞こえる。解析。壁の向こうにいる悪魔は塵となって消えたようだ。


「なっ」


 アルが狼狽える。


「ふふふ、私を誰だと思っているんですか?これくらい朝飯前です!」


 無表情のまま声だけ自信を滲ませるアンジーに相変わらずだなと思いつつ、逃した天井裏の悪魔を探す。


「な、何が」


 どうやら悪魔を一体射抜いたことで、城の主が正気を取り戻したらしい。


「気づかれましたか!?襲撃犯が出たので取り押さえようとしているところです」


 アルがとんでもないことを言う。僕達が襲撃犯だという大義名分を作って処理するつもりらしい。


「なんだ、と」


 城の主がこちらを向いたと思うと、途端に気を失って倒れた。……ああ、そういえば前髪を戻すのを忘れてたな。僕の目を見て気を失ったらしい。


「まさか悪魔と協力関係にあるなんてね!」


 重い体を見なかったことにして、僕は精一杯の大声を出して白々しくアルにそう言った。


 驚いたようなアルの首元にレイの光の剣が肉薄する。


「悪魔、悪魔、ね……」


 アルが光の剣を素手で掴んだ、と思うとそのまま霧散させた。


 様子が違う。頭上には角?が生え、牙は大きくなり、目は瞳孔が細くなっている。悪魔!?


「おいおい、あんなに悪魔を嫌っていた癖に仲間にするには飽き足らず、自分が悪魔になるだって?」


 さすがの僕も動揺し、思わずらしくないことを言ってしまう。


「あはははははは!悪魔じゃなくて鬼ですよ、鬼。さすがのセディスさんでも知りませんでしたか?すごいでしょう、この国ではかくも簡単に悪魔に近づける!」


「離れるんだ、レイ」


 レイは僕の言葉に素直に従い、跳んで後ろに下がる。


「君、さっきは人外を馬鹿にするようなこと、言っていなかったかい」


「いえいえ、別に僕は人間を辞めたわけではありませんから」


「あんなに悪魔を侮辱するようなこと、言っていたのに」


「そりゃあだって悪魔は愚かですし?欲求に正直で、せっかく持つ力を使いこなせない。僕が有効的に使ってあげますよ」


 どうやらアルの中では筋が通っていることらしい。拉致があかないというか、なんか楽しくなってきてダメだな。好奇心が刺激されて話しすぎてしまいそうだ。この辺りで口をつぐんでおくか。


「セディスさんなら分かるでしょう?」


 そう、昏い目で言った。

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