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7-7

「ゼンのところには訪ねに行ったのかい?」


 話の流れからゼンの話になるのも必然的と言えた。


「ゼン?ああ、アレックスさんのことですね?セディスさんは少し捻ったあだ名をつけるのでたまに分からなくなります。にしては、アビーさんとジーンさんは統一されていましたが。あまり思い入れがなかったとか?分からないでもないですけど」


「アビーは単純に思い浮かばなかったからで……ジーンは名前をつけたのも、愛称を最初に考えたのも僕だからだよ」


「は!?」


 ジーンのことを話すと、初めてアルが動揺して声が大きくなった。表情は驚愕の色に染っている。


「仲が悪そうに見えたのは腐れ縁だからさ。言っていなくてごめんね?でもそんなことはどうでもいいだろ?」


「……アレックスさんには会っていませんよ。だって僕は差別なんてしていませんし」


 マジか。ジーンの差別発言にあんなに笑っていたのにか。悪魔を必要以上に馬鹿にするようなことをよく言っていたのも彼だった。


「少し辛辣だったのかもしれませんがね。当たり前の対応でしょう、今から悪魔達の王を倒しに行くのに、仲間の1人が悪魔なんですよ?笑っちゃいますよ。僕達をバカにするにも程がある」


 口角は上げたまま、目を座らせなながら言う。それでも感じが良く爽やかそうに見えるのだから、そういうのって才能だよね、なんてどうでもいいことを思った。


「へえ」


 とりあえず相槌を打つ。

 正直ゼンのことをアルがどう思っているかなんてどうでもいい。

 とりあえずあの状況に置かれたら会いに行こうとすることが、ある種の義務だと僕が勝手に思っているだけで。ジーンみたいに行けない都合があることだって、ティフみたいに気分が乗らないことだってあるだろう。それを僕は否定するつもりはないし、否定する権利もない。


「何か言いたそうですね?でもセディスさんも人のこと言えませんよね。友人であるリーザさん以外はアレックスさんにしか優しくありませんでしたし。これって逆差別ですよね?その点僕は警戒すべき対象を厳しく躾ていただけです、差別じゃなくて区別ですよ、分かります?この違い。所詮人外には分からないかなぁ!?」


 ……すごく楽しそうに早口で捲したてるアルを眺める。こんなに楽しそうなところは見たことがないな。解析。暴食の祝福。予想のついていたところだ。僕がどう出るのかと好奇心で目を輝かせている。


「なるほどね」


 ついに僕は耐えきれなくなって、声をあげて笑い出してしまう。


「何がおかしい!?」


「何もおかしくないよ、おかしいのは僕の方だ。これで納得できるだろう」


 あえて理由をあげるなら、人間って可愛いなと思ったってだけだ。

 愚かしくて無様で、救いようがなくて可愛い。


「で、本題は?」


 まあ十中八九レイだろう。ずっと彼のことを見ているし。


「そこにいる少年、彼は予言の英雄、だよな?」


 アルが敬語を解いて僕に聞いてくる。

 不安そうな声色だ。それよりも。


「なんで君がそれを知っている?」


 それはオリュンポスで出された予言だ。学者や吟遊詩人達にも知らされていないはずの予言。


「予言の、英雄?」


 レイが口を開く。

 そういえば伝えていなかったな。伝える必要もないか。自分自身に関する予言なんて知らない方が身のためだ。


「セディスさんなら知っていると思いますけど、僕は秘密結社の人間なんで予言くらい知ってますよ、だからこそ魔王討伐メンバーにねじ込まれたんです、僕は戦える方だから」


 と、アルが半笑いで言った。僕に興味が無かったお前は知らないだろう?と言わんばかりに。


「ヘルメスが作った目を持つ少年なんて……いかにも僕ら向きの話だ」


 アルをよく見ると、口の中に牙が見える。昔は多少糸切り歯が長いなというくらいだったが、これは明らかに牙だ。


「気づきました?これは神殺しができる剣です」


 アルが目を細めながら言う。

 言われてみれば、前使っていた剣とは違う。あれも良い剣だった。使い手を選びすぎるところが難点だったけど。僕も15分くらいしか扱えなかったっけ……。


「分かってますよ。ギリシャの神はこれでは殺せない。でも時間稼ぎはできるでしょう?2年間あれば十分ですよ」


 最初の襲撃はそれが狙いか。おそらく、僕を消してレイを囲うつもりだったのだろう。レイ自体も強いということに気づかなかったのか?いや、英雄になる男だと分かっているんだ、強いのは折り込み済みだろう。それでもなんとかできる手段があったのかもしれない。


 ……なんかアルが話してから後追いでそれを考えている気がする。そういえばアルは早とちりをしすぎる癖があったなとぼんやりと思った。だから僕と相性が悪い、僕は相手に深読みさせすぎるきらいがあるから。


「……トリ様、この男を殺してもよろしいでしょうか」


 感情を押し殺したような声が聞こえた。



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