7-6
「カタナは芸術品のように美しいですよねー」
ご機嫌なアンジーを連れて刀市を回る。
良い物を買えたらしい。
「そうなんだ」
僕は芸術に対してあんまり知見がないから分からないけど、アンジー的にはそうらしい。でも鎧だって特にイタリアなんかは芸術品って言ってもいい気がするんだけどなぁ、あれか、やっぱ遠くの国の物の方が雰囲気があっていいのか。照れ隠しで辛辣なことを言っていたけどアラブも好きっぽかったしね。分かるよ。
「明日から城に向かわないとね、江戸だっけ?」
「ですね、あ、トリ様。これとかどうですか」
レイが指をさす。
古い刀とかではなく、最近作られたもののようだ。
特段有名な製作者というわけでもなさそうだし、僕だけならまず買わないだろう。
「両刃ですよ、カタナってやつは片刃が多いんですよね?リアンが言っていました。両刃の方がトリ様使いやすいでしょう?」
「なるほど」
それは合理的な判断かもしれない。
せっかくだし1本買うことにした。
「江戸で見る機会があればそっちでも見ようかな。伝説の刀……なんていうのもありそうだし」
▫
馬車を飛ばして江戸まで着いた。
そこまで僕はしっかり寝ていたので、道中何があったのかは知らないが、僕が起こされていないので大したことは無かったのだろう。
「城の近くだけど随分発展してるね」
前他の国で見た城付近の光景とは全く異なる。あちらの城は防衛のために山奥にあったが、こちらは街中にあるようだ。きっとそれ相応の理由があるのだろうが、僕には分からない。リズなら知っていたかな。
「さて」
……城の中に入れるのかな、僕。木造の城は耐久性が心配だ。車椅子を押せないとしたら僕はレイに背負われるのか。嫌だなぁ、それは。
▫
「お招きいただきありがとうございます」
そう、城の主に言う。僕達は城内に招かれ、城の主と顔を合わせていた。車椅子はレイが持ち上げることでなんとかなった。言うほどなんとかなったか?
城の主は気にしていなさそうなので良しとする。
この国の礼儀は知らないが、向こうだってそれは分かってる。今僕にできるのは敬意を伝えることだけだ。
「ああ、苦しゅうない」
そう、ぼんやりした様子で言、
「危ない!」
レイが魔法を使い、襲来した何かを弾き飛ばす。
「……アル?」
目の前で弾き飛ばされたのは、僕と一緒に魔王を討伐したアルフレッド……アルだった。
城の主、国王?ではないんだったっけ?そのあたりはよく分からないけど、とにかくさっきまで話していた彼は、糸が切れた人形のようにうなだれている。話ができる様子じゃなさそうだ。
「久しぶりですねセディスさん」
前会った時と比べ、爽やかな青年に成長したアルが、昔の通りにはにかみながらそう言った。
……。
…………。
「久しぶりだね、アル。随分な歓迎で僕も嬉しいよ」
アルが何を考えているのか分からない。分からないから、僕も昔と同じになるよう意識して笑みを作る。
「変わりませんね、セディスさんは」
どうやら普通に対話するつもりらしい。
アルが少し表情を変化させて、前かがみになり、レイを上目遣いで見てくる。不気味だ。
「城の主のこの様子はどうなっているのかな?」
アルを注意深く観察しながら車椅子に頬杖をつく。
なんとはなしに前髪をかきあげる。少し発狂したアルが見たかったのかもしれない。
「求心力が高い友達がいましてね。彼女が頼むとほらこの通り。ふふふ」
友人に頼んで洗脳してもらったと?なんのために?
アルは僕の目を見るが、特に変化は見られない。
ああ、じゃあ僕に入国許可が出たのはそういうことか。理由が分かって良かったよ。
「ここに呼んだのは僕と会いたかったってことだよね?なんで?」
「昔の友人と会いたかったんですよ」
「……」
「やだなぁ、そんな怖い顔しないでくださいよ」
思わず顔を触る。今の僕は笑みを形作ったままのはずだ、実際触るとそのままだった。カマをかけられたかな?思わず素で笑ってしまいそうになるのを手で隠す。
「いや、興味深いなと思ってね。他意はないよ」
なぜ攻撃してきたか。ここが謎だ。
明らかに殺意があった。つまり会いたいのは僕じゃなかった?いや、そう決めつけるにはまだ早いか。
「セディスさんに興味を持ってもらえるなんて光栄です。だってずっと興味無かったでしょう、僕のこと」
「それは……そうかもね」
「僕はアビーみたいに特別な力はないので、知らないことは素直に知りませんが、隣にいるのは護衛ですね?1人は見たことがあります。リアン・サマラス。新聞で読みました、戦争中のフランスの王子様を救ったんですよね。フランスは王位継承争いで分裂してずっと戦争してますからねぇ。フランク王国の国王が病んで平和主義者になるのも分かりますよ」
と、レイをじっと見つめながらそう言った。




