7-3
「着きましたよ、セディスさん」
今回は珍しくアンジーが僕を起こしてくれた。
健康的に焼けた肌と動きやすいように短く切られた髪が眩しい。
「ここが日の本かぁ」
……山ばかりだな。
黄金の建物があると聞いているし、ぜひ見てみたいのだが……。
「そういえばここって港じゃないよね?」
「ですねぇ」
人すら見つからない。
「これもしかして密入国者って扱いになるんじゃ……」
「かもしれませんねぇ」
アンジーが適当すぎる。
そういえば、レイが見当たらない。なんとなく心細く思う。僕もなんだかんだ言ってレイに依存していたのかもしれない。
「アシュリーですか?人を探してくると言ってさっさと出ていきましたよ」
「なるほど……」
じゃあしばらく待っていたほうがいいか。
アンジーと2人きりなんて初めてかもしれない。
御者の人と馬はいるけどね。
「アンジーは母親のことをよく覚えているかい?」
「まあ、少しだけ……」
僕は彼女の母親の正体について察しがついているが、ここで教えてあげるべきかは迷う。
「セディスさん、目を見せてくれますか」
「え?」
僕の目を?なんで?
僕の目は人間の物と大きく違うらしく、他が同じなだけに見ると強い嫌悪感をもたらすらしい。僕は相手を見ることしかできないので、らしい、としか言えない。親族は目や口、1部の皮膚などでそういうことが起こるらしいが、僕の場合は目だったという話だ。だから前髪を伸ばしている。
1回アンジーに僕の目を見せたことはあるが、その時の彼女は呼吸を忘れてしまって、かなり危ない状態になっていた。彼女が僕の目を見るのはあまりおすすめできない。
「昔1回セディスさんの目を見た時に、真実に辿り着けそうな気がしたんです……!」
真実?僕の目にそういった効果は無いはずだけど……そうか、僕の目は生きている感じがしなくて怖いんだったな。それを見て母親のことを思い出しているってことか。
「うーん」
でも危険なことには変わりないし。
「しょうがない、危なくなったら中断するからね」
前髪をあげてアンジーを見つめる。
前髪をどけたからと言って見えやすくなったりはしない。神はそういう概念にないのだ。
なんて適当なことを考えているとアンジーの吐く息が浅くなってきた。前よりはもってる気もするが、そろそろ止めに入らないとまずそうだ。
「ま、ってください」
手を前に出して静止のハンドサインが送られる。
様子をうかがう。
「はあ、はー、ああ……」
何かが分かったのだろうか、顔が安堵に彩られる。僕は急いで目を逸らし、前髪で目を隠した。
アンジーが倒れこもうとしている。僕はなんとか腕に力を入れ、倒れ込むアンジーを支えた。
脂汗が浮かんでいる。
「私分かりました」
気分はいかにも晴れやかだ、と言いそうな顔でアンジーはそう言った。
「そうなんだ」
「私の母親って死体だったんですね……」
そう言って目を閉じた。一応呼吸を確認する、大丈夫だ、呼吸は正常に行われている。気を失っただけらしい。
……僕の推論が正しければ、アンジーの母親が死体だというのは間違っていないと思う。
初めて会った時、僕はアンジーを半死体、ゾンビのようなものと人間のハーフであると考えた。しかし、ここで周知の事実が邪魔をしてくる。
アンデッドは例外無く生殖はできないため、ハーフゾンビなんていうものはおかしいのだ。
高位の吸血鬼が興味を示したアンジーだ、例外のハーフゾンビでもおかしくない、なんて結論をつけることを保留していた。
だが、アンジーが中国出身ということで話は変わってくる。僕は中国に詳しくない。中国はツボ?というものが主流らしく解剖学があまり進んでいなくてね……。中国にいるゾンビみたいな何かは、生殖が可能であるかもしれない。
本、ええと、中国における怪物……いや、ここは道士関連で調べた方がいいか?いわゆる奇跡、みたいなものだろう。アンデッドが生まれる経緯と近いものであるはずだ……アンデッドなのに生きてるっておかしいな。
あった。僵屍。きょんしー。動く死体であり、人喰いの化け物。
うん、バンパイアに似てるな。ということはさしずめアンジーはハーフバンパイア?ちょっとかっこいいな。
ページを下に読み進めていく。
生前のように血色が良く、髪が伸びる。
ああ、これか。ゾンビやバンパイアと違うのはここだな。
高位のバンパイアは肉体操作が可能らしいので、髪を伸ばすこともできるだろうが、自然と伸びてくることはない。生きているかのよう動くアンデッドなら生殖だって可能かもしれない。
……にしてもアンジーのお父さんはアンデッドと行為に及んだということだよね。
いやまあ英雄たる者普通の人にはできないことをするもんだとは思うがそれにしてもね。
「トリ様!」
あ、レイが帰ってきた。




