7-2
「ということでフレッドを犠牲にすることにした」
「……アル。いざとなったら殺せばいいからね。弁護士は僕が選ぶしお金も出すよ」
「これが終わったら教会の方に報告させてもらうわ。あの貴族は捕まるだろうからぶん殴るくらいでいいわよ」
「は、はい」
交渉はアルが行くことになった。……1番お金を多く使っていたのは彼だから正直仕方ないと言えた。
僕とティフの変装技術によって中性的な美少女に見えなくもないくらいになったアルを眺める。もともと可愛い顔はしていたので、顔だけなら大丈夫だろうけど一抹の不安はつきまとう。
なおティフは獣人ということで苦労も多く、それを隠すために変装もよくしていたらしい。僕は……昔取った杵柄というやつだ。
「2人とも物騒だなッ!……いざとなれば東の方角に合図を送れ。私が撃つ」
ティフが1番物騒なことを言っている。彼女は意外と冷静なことが多いので、結構珍しいかもしれない。
「は、はい」
「いやまあこの領地にそんな強いやついないしフレッドなら一網打尽にできるって!気楽に行こう気楽に」
マイクが困ったように笑いながら、アルの肩を叩いてそう言った。
▫
『あのぉ、融資をですね……』
融資を切り出すアルが映像に映る。
思ったより効果がありそうだな。
予想以上にデレデレしている領主を眺める。
「何その道具」
液晶画面を覗き込むように見ながらアビーが言う。真正面から見てもいいんだよ?
「ドローンって言うらしいよ。未来の道具だって」
「……なんでそんなものを持っているのよ」
「アルがくれたんだよね、僕なら扱えそうだからって。だからなんで持っているかはアルに聞いてほしい」
「アルが持っていたなら納得はできるわね」
できるんだ。……確かにアルはたまに荒唐無稽なことを言うし、荒唐無稽で真偽不明の未来の道具を渡してきても違和感はないのかもしれない。
「そんなことより映像」
アビーにつつかれる。
『融資は……』
『私の娘になる気はないか?』
下卑た顔になっている領主が見える。やはり女装とかさせないで、普通に行かせれば良かったんじゃないかなぁ。
「そういやファニーはどこにいるんだ?」
マイクが首をかしげながら言う。
僕はドローンを操作して、1つの建物を映す。
「この建物に潜んでいるみたいだよ。何時でも狙撃できるように」
「……なるほどな」
ドローンの視点を再びアルのところに戻す。
「あれ?」
領主の死体が転がっていた。解析で確認したので確かだ。
僕が服に隠させていた短剣で刺したと思われる。急所に一撃だ。容赦がない。
「何があったの!?」
「死んでるな」
焦るアビーを横目にゼンが無表情でそう言った。
「とりあえずティフに話を聞こうか」
▫
「領主がフレッドのスカートをめくって驚愕した顔をしたと思うとフレッドが短剣でその胸を突いた」
ティフは感情が抜け落ちたような顔でそう言った。今、彼女は客観視のみになっているのだろう。そういうところがあり、それを彼女自身も分かっているからこそ、彼女は武器に銃を選んだ。
「やっぱ声がないからよく分かんねえな」
ジーンが言う。一理ある。というか、ドローンで映像が撮れなかったので、アルの正当防衛の証明が難しくなってくる。女装をしてあの屋敷に入った時点で怪しい所の話じゃないし、キツイ立場になってきたぞ。あの一瞬のうちにやるとは……。躊躇いもなかったということだろう。
ドローンで動画を撮れさえすれば、それを現代のカメラに落とし込み、証拠とすることができたのに。
「……殺せと言ったのは僕だしね。弁護士の手配をしてくるよ」
───────
「それでどうなったんですか」
「その弁護士が有能でね。裁判することも無く次の日には、僕達はうら若き乙女達に手をかける悪逆非道の貴族を退治した英雄ということになっていた。びっくりしたよね」
今思うと弁護士というより詐欺師だったな。腕が立つからと付き合いを持っていたが、資格を持っているかすら怪しい男だった。
上手くいったのでもちろんお金は払った。
「そんな知り合いもいるなんてさすがですトリ様!」
「ああ、うん……」
ここは困惑するか憤るべきところだと思うぞ、レイよ。
目を輝かせて僕への賞賛をやめない彼を見ていると、その将来が少し不安になってくる。僕がレイを甘やかしているとアビーが言っていたのはこういうことなのか。
「アルはそういう男だよ、レイも気をつけておいて損はないと思う」
「分かりました!」
どうしようかな。




