6-7
「僕の勝ち、かな?」
剣をアビーの首に突きつけながら言う。
「……」
アビーが悔しそうな顔をしながら手で降参のポーズを取った。
僕はそれを見ながら、倒れ込むように眠りについた。
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「無理はしないでくださいって言いましたよね!?」
目を開けると、焦るレイが見える。
「でもほら、勝ったし……」
「それはそうですが!」
「……。起きた?」
アビーがレイの後ろから出てくる。そうか、レイはもうアビーよりも背が高いんだな。それだけ背が伸びたってことか、少し感慨深い。このまま僕の身長も抜かしていくんだろうな。
「死んだら解剖させてくれるんだよね?」
「……勝ったのはあなた。それより、これは何?アシュリーにどういう教育をしたの?」
「何って?」
アビーがお前本気か?とでも言いたそうな顔で僕を見る。レイがどうかしたのだろうか。
「甘やかしすぎだと思う。セディスが親バカタイプだったとは意外」
「?」
「あなたが目を覚ますまであなたがいかにすごいか力説された」
「本当のことです!」
「分かってる、分かってるからもういい」
レイがアビーと仲良くなっている。リズとはかなり気が合っていた様子だったが、アビーはそうでもないと予想していたので少し意外だ。レイが自己主張できるようになったということなのだろうか。
ちなみに最後の決め手になったあの剣だが、座標をズラされた分を戦いながら観測して、僕の部屋を見つけて取り出したのだった。その時間稼ぎのためにナイフ1ダース分を敗北条件にしたり、アビーを煽ったりしていたわけだが……結構ギリギリだった。アビーは本当に強くなっているらしい。祝福が本当に祝福になっている。
「別にあなたのことを卑怯者と責めたてるつもりはない。姑息なのも強さだと、私はこの戦いで知ることになった。次に活かすだけ」
遠い目をしている僕がそのことを気まずく思っているとでも思ったのか、アビーがそんなフォローを入れてきた。
「ありがとう」
優しいのは君だろ、と思いつつ、僕は笑いながらそう言った。
僕が破損させた服と装飾品でいくら分くらいになるんだろうなぁ。
「それでアンジーはどこにいるんだい?」
「あなたがトロフィーを解剖権にしたんだから教える義理はない。それとも私を解剖する権利、捨てる?」
……確かにそれもそうだな。もちろんアビーを解剖する権利を捨てるつもりはない。
「はいはい、私はここにいますよ!」
扉がものすごい勢いで開いたと思うと、そこからアンジーが出てきた。
「わっ、どこにいたんだい」
「たかしの息子を探しに行っていたんです!一応私、この国の出身なので!」
そうか、言われて見ればアンジーは東洋人っぽい顔立ちをしている気もする。本当に気がする程度だが。父親似なんだね。
息子を探しに行ってくれたということは、たかしはこの国にいた頃からの付き合いということだろうか。しかし、たかしという名前はあまりこの辺りの名前っぽくない気がする。僕もそのあたり詳しいわけではないのだけど。
「それでアビーさんに有名な厩舎を教えてもらって探しに行っていたんです!たかしの痕跡すら見つかりませんでしたが!!」
「金貸し業をやっていると少しは詳しくなる」
人質とはなんだったのか、ピンピンしているアンジーを見てなんとも言えない気分になる。
「レイ知ってたの?」
「知りませんでしたよ?」
ああ、嘘だな。なるほど、さては僕にアビーとしっかり話して欲しかったとかそういうことだな?
ティフとはいまいち消化不良な別れだったからね、そのことをレイも不満そうに思っていたし。
彼女は大人になったんだよ、仕方のないことだ。それに比べるとアビーはまだ子供のままだけど。僕より年上なんだけどなぁ。逆にこの幼さが強さの秘訣なのかもしれない。欲深さというか。
「ありがとうアンジー」
「いえいえ、お役に立てたなら何よりです!」
とりあえずお礼を言っておくと、アンジーが嬉しそうな顔をした。……これは自分が人質扱いされたって知らない顔だな。
「故郷ならもう少し滞在するかい?」
「え?ああ、大丈夫ですよ、1年くらい前にじっくり過ごした後なんで!」
「なるほどねぇ」
フットワークが軽くていいね。また行く機会もあるし、と思ってそうなあっけからんさだ。
僕も1回くらい故郷に帰るべきかなとふと思った。




