1-3
「知らない天井だ…」
「何を言っているんですか」
レイが困った顔で僕を見てくる。
さっきのはアルがよく言っていた言葉だ。ちょうど良さそうな状況だったのでふと口から出てしまった。
どうやらレイがベッドに寝かしておいてくれたらしい。
「レイ。ごめんなさい心配かけて」
「いえ。トリ様のお世話をすることが俺の喜びですから」
「……」
何か言った方が良いのだろうか。
申し訳ない、こんなに頼りなくて。
「この子本当にいい子ね。私が欲しいくらい」
「リズ。…レイが望むならリズのところに行ってもいいけどどうする?」
情けない僕よりもリズのところにいた方がレイのためかもしれない。
「俺まだ13歳ですよ?こんなところにいたら刺激が強すぎます」
「あれ、人間の13歳ってそういう年齢だったっけ」
「そういう年齢なんです!」
15が成人だとレイが言っていた気がするし、13ならもうほぼ大人なのではないのか。2年だぞ、2年。
「ごほん、俺が調査したところエリザベータさんの愛人?達は皆エリザベータさんに心酔していました。ここの人達も皆事情は分かっているようです。あとあの場所に行くのは対価無しで望む人のみということでした…問題はないかと」
「レイがそう言うならそうなんだろうね」
良かった。
仲間から強姦魔が出たら目も当てられないところだった。
「そっか。駄目なら仕方ないわね」
リズが優しげな笑みを浮かべている。
「レイは頼りになるからね。さすが僕の…いやなんでもない」
「そう言えばこの子と貴方はどういう関係なの?」
リズには説明しても大丈夫かもしれない。
「…レイ、外で待っててくれる?」
「……。分かりました」
▫
「お察しの通りレイは半神だ」
「半分神族の血を引いていると」
相変わらず神族は神と認めない方針らしい。変わらなくて少し嬉しくなった。
「…そうだね。ここだけの話、レイは僕の甥っ子なんだ。僕の兄姉は好色が多いしそれ自体はよくあるんだけど…彼は目を離しているとすぐに死んでしまいそうだから」
「全く似てないわね」
見た目もそうだろうけど、それだけじゃない。能力、性格全てだろう。頷く。
ちなみに凡庸な僕と違ってレイは随分と美少年だ。このまま成長すれば美青年になるのは間違いない。さすが英雄。やはり英雄には顔も必要だ。
「スラム街で見つけた時は本当にびっくりしたんだ。それで保護しようと思ったんだけど、ご覧の有様でね…僕がお世話されてしまっている」
「なんとなく把握したわ」
「これだけで分かるなんてさすがだねリズ」
「貴方の人を誉めすぎる癖は相変わらずね…」
▫
「貴方前髪長いのは相変わらずだけどかなり軽くしたのね。へえこんな目をしていたのか…」
「あまり見すぎない方がいいよ。リズなら無いとは思うけど発狂するかもしれない」
「なにそれこわ…」
「トリ様、昼食を持って来ま…な、何を!」
レイが扉を開けて入って来た。
急いでこちらにむかってきたのにお盆は一切揺れていなかった。
こんなところにも素の身体能力の高さが伺える。
「落ち着くんだレイ。リズは僕の目を観察していただけだよ」
レイは僕の目を見てそれが真実であると確認し、息を整えている。
性的な関係とでも思われたかな。
「そ、それならいいですけど…早とちりしてすみません。エリザベートさんの愛人には異種族の男性もいたのでてっきり…」
「あれ、僕もしかして結構危なかったかな?」
今さら焦りが出てきた。
色欲の祝福がどこまでリズに影響を及ぼしているのか分からない以上、安易に近づくべきではなかったか。
「さすがに私もそこまで節操なしじゃないわよ…セディスは親友だし」
「そうだよね」
良かった良かった……本当に。
レイが近づいてくる。
「トリ様口を開けてください。昼食を入れます」
「……ここでかい?」
「無理して移動する必要はありませんよ」
「それもそう…なのか?」
「はい、口を大きく開けてー」
「むぐ」
旧知の友人に甥っ子から介護をされる光景を見られる……これはいったいどんな状況なのだろうか。ああ、僕の尊厳がどんどん無くなっている気がする……。
▫
「私は教会を管理しなくてはならないから…ごめんなさいね」
「エリザベータさんがいればこの場所も無敵ですね」
ニコニコしながら頷いている。
レイはリズと大分打ち解けたようだ。
とりあえずリズとは一旦離れて、僕とレイは周辺を散策することにした。
道なりに歩いていく。
「あ、さっきの女性です」
横を向くとさっき襲われていた少女がいた。
こちらに怯えた様子を見せているが、逃げる様子もないので、レイに声をかけ近づく。
「解析」
……ふむ、これは。彼女の両手を握る。
ひんやりと冷たい。およそ人間とは思えない体温だ。
「君なかなか面白いね。…僕に解剖させてくれたりしないかな?ああ、もちろん死んでからでいいから」
「な、なんですかこの人」
「トリ様、トリ様。そういうことはもう少し手順を踏んでからの方がいいかと思います」
レイが服を引っ張ってくる。
「……それもそうか。ごめんね」
「え、あ、はい」
「そうだな…あの教会に行ったのは君の意志なんだろ?理由を教えてくれないかい」
その内容次第では僕が協力するのもやぶさかでは無い。お金で解決できることならなんでもしてあげよう。僕もこの50年で結構お金を貯めている。
「う…その…私は…度胸試しで入ったんです。私はこれでもそれなりに強いし噂が本当でも逃げられるだろうって軽く見てたところがあるのは事実です…」
リズに勝てる者なんてそういるわけないからね。
しかし、思ったよりもどうでも良い理由だった。お金で解決とかそういう話でもないな。でも解剖してみたいんだよなあ。どうしようかな。
「ふむ。そうだね、腕に覚えがあるなら僕の卒業旅行の護衛ということでどうだろうか。報酬は弾むよ?」
「え」
何故かレイが反応した。
首を機械的にこちらにひねる。
「護衛は俺では足りませんか?」
「い、いやそんなことは…」
護衛としては十分くらい十分だ。
どうしようかこの状況。




