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6-3

「トリ様トリ様!!!」


 揺らされている。

 目を開けると、目が覚めるような美少年が……ってこの流れ前もやったな。


「レイ、どうしたんだい」


「アビゲイルさんによってリアンが攫われました!」


「え!?」


 アンジーが!?どういうことなんだ。僕の寝ている間にいったい何があったのか。


「ど、どうすれば」


 僕はもうアビーの雇い主ではない。ここで正義感を発揮して助けに行ってもそれは迷惑というものじゃないのか。


「アビゲイルさんはトリ様に来て欲しそうでしたが……」


「そうなんだ……」


 人質ってことか?じゃあなんでレイを連れていかなかったんだ?うーん、レイは強すぎて諦めたって感じだろうか。アンジーとレイは大して強さに差は無いと思うんだけど。

 ……魔法に対処できるスキルはアンジーよりレイの方が上か。じゃあ魔法で2人を拘束しようとしてレイに抵抗されてアンジーだけ連れ去ったって感じかな。


「どこに向かったとか分かる?」


「それは大丈夫です。書き置きがあるので。すいません、馬車の管理をお願いできますか」


 雇っている御者の人が了承のサインをする。

 ああ、レイが社会性をきちんと身につけてきている!なんだか感動だ。


「じゃあ、行きましょう!トリ様」


 レイが僕を車椅子ごと持ち上げてそう言った。



 ▫



「着きました!この建物にいるはずですが……」


 大きい建物がそこにあった。闘技場のような場所だろうか。


「セディス!来てくれたんだ」


 目の前の扉が勢いよく開いたと思うと、すぐにそこからアビーが出てきた。


「……」


 誘拐犯のセリフとは思えないな。


「なんでアンジーの誘拐なんて」


「……そのことか。うん。ごめん。私も良くないことをしたと思ってる」


 申し訳なさそうな顔になる。

 そういえばアビーは少しだけ不安定なところがあったなと、ぼんやり思い出した。


「私、あなたと、戦ってみたくて」


 意志の強そうな目をこちらに向け、そんなことを言った。


「昔から思ってた。私は誰よりも強くなりたい、誰よりも個として完璧でありたい、誰よりも認められる存在になりたい。誰よりも自由でいたい。誰よりも頭のいい存在に───────」


 さすがに様子がおかしいと、解析をする。

 “強欲の祝福”。


 ……ああ、そうか。解析していなかったけど、どうやらティフの方が傲慢の祝福を受けていたらしい。

 予想を外したな。


「私は言っていなかったけどハイエルフ。その中でも特に才能があって、魔法は誰よりも上手く使えた」


 ハイエルフなのは知っている。アルフヘイムにいるエルフのことだ。

 その中でも特に才能がある?それはおかしいな、あのエルフは全てが画一的な存在で、性能差なんてほとんどないはずじゃ……ああ、その魔眼か。


「そう。私の住んでいた集落はハイエルフに発展はないと結論づけた。そして、次なる存在を生み出そうとした。そして生まれたのが私」


「なるほど」


 研究でもしていたのだろうか。交配実験の結果がその目とか?……ダメだな、やはり僕だけで考えると思考に偏りが出る。


「私は誰よりも欲深かったから、他の同胞達とは違い、外に出た。そして私は直面することになった」


「身体スペックが低いって?」


「……」


 睨まれる。正解らしい。思わず笑ってしまう。

 昔はここまで分かりやすくなかったので、やはり祝福の影響を受けているのだろう。


「悪いね、僕も祝福で自制心が消えているんだ。何、君のことだ。そのくらい調査済みだろ?」


「そうだね、性格の悪さは変わらなくて安心した」


 アビーは少し怒ったようにそう言った。

 僕は性格悪くないけど?


「しかし、強くなりたい、だっけ?それでなんで僕と戦いたいのか、全く分からないけど」


 僕はそんなに強くないし、馴染みの人と戦いたいというならそれこそ、僕以外にすべきだろう。あんまりアビーとは仲良くなかったし。……僕が仲良かったのはリズだけのような気もしたが、気にしないことにした。


「魔王討伐のメンバーは各派閥の思惑もあってどいつもこいつも強かった」


 そうだね。それは皆同意するはずだ。


「セディスは冒険者ギルドのトップ級の実力者だったし、リーザは聖女と勘違いされるレベルの奇跡の使い手で、アレックスは王国の将軍にして最強の槍使い、ミックは公国の腹心だった。ファニーは無敗の王女様だったし、フレッドも秘密結社の新進気鋭の研究者だったらしい。ジーンは……強い」


 ジーンだけ適当だなぁ。罪人の息子を押しつけられただけだしさもありなんか。

 というかアルが秘密結社の研究者?それは知らなかったな。えらく強い世間知らずのお坊ちゃんくらいの認識だった。


「私は人間と接し心が折れかけていて、自分は全然強くなかったと自嘲して生きていた。そんな時だった、私が魔王討伐パーティに加わらないかと問われたのは。ささやかな自尊心をかき集め、私はパーティに参加した。それは私の心を完璧に破壊するのに十分だった」

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