6-2
「まさかもらえるとは……」
申請を出して2ヶ月、日の本への入国許可証が手に入った。解剖学の発展に寄与したい旨を書いただけだが、それでいいのか……。僕は学士しか取っていないはずなんだけどなぁ。
「さすがですトリ様」
「うん……」
さすが僕……ってことでいいのか?いささか疑問は残るがここまで条件が揃ってしまったのだ、東アジアへ旅行に行くしかないだろう。
「じゃあ行くか……」
▫
アンジーが馬車を手配してくれたため、僕達は港へ馬車で向かっていた。
家の管理はまた隣の家の人が受け持ってくれるらしい。本当にいい人で助かる……。
「たかしに息子とかいないのかい?」
今は亡きアンジーの馬に思いを馳せる。
良い馬だった。老馬だからか心も広く、僕ともよく会話してくれたっけ。
今回の馬車は御者ごと雇っているので、アンジーも馬車の中にいる。
「たかし?……ああ、私の馬でしたっけ。なんですかその名前」
「ん?……彼に名前を聞いたら自分の名前はたかしだと言ったんだ。アンジーが知らないってことは、馬を育ててた人が呼んでたのかもしれないね」
良い馬だったなぁ、3mあったし、海も渡れたし、買おうと思ったらどのくらい必要になるかな。
アンジーの父親は英雄であったようなので、どこかで貰ったのかもしれない。
「へー……私の父が呼んでたんですかねぇ。あ、息子でしたっけ?」
「うん」
「……分からないです!良い馬とかで馬主さんとかが訪ねてきてた気もするんですが……何分私も小さかったもので。お役に立てなくてごめんなさい」
「いいよ」
いそうだな、たかしの子供。探せば見つけられるかもしれない。機会があれば探してみるのもいいかもしれない。
「じゃあ僕は寝るから、着いたら起こしてね」
▫
「起きてください!」
アビーの声が聞こえる。
「おはよう、着いたの?」
「いえ、でも起きた方がいいと思いまして!」
何があるんだ?気になってレイを呼ぼうとするが、レイも寝ている。起こすのは申し訳ないな。
「何があるんだい」
「ふふん、実はですねえ、アビーさんへ私も手紙を出していたんです!これから会えますよ!」
は、はめられた……。
そういえば手紙を出しに行ってくれたのも馬車に指示を出してくれたのもアンジーだったなぁ……。
▫
「セディス、久しぶり。元気?」
「見た通りだよ。アビーも元気そうでなによりだ」
「……相変わらずで安心した」
含みがありそうな言い方をするじゃないか。なんだ?僕が嫌味を言ったとでも?
「そういや、アビー。ゼンには会いに行ったかい」
「もちろん。何か気に触るようなことをしたなら謝らないといけないし。でも会いに行ったら、お前から差別されたとは思っていない、って言ってた」
「だよね」
むしろ止めてた側だしね。
ジーンの直球で下品な差別的発言にいつもキレていたっけ、懐かしいな……。
そうか、そうだな。
露骨に差別するジーン、それに乗るアル、腫れ物扱いしすぎていた僕に、警戒しすぎていたリズ、無意識に避けていたティフか。
確かにストレスの溜まりそうな旅路だ。また会ったら謝っておこう。
「その時にアレックスからセディスのこともいろいろ聞いた。殺意は高いが優しいやつだと分かったと言っていた」
ああ、僕がゼンに会いに行った時のことはゼンから聞いているのか。
「殺意か」
殺意とは少し違う。しかし、結果的には似ている。
相手をバラして中身を見たいという僕と、殺人鬼に大した違いは無いのかもしれない。
「私はセディスが優しいと言われても全然ピンと来ないけど、仲直りできたなら良かった」
「そうだね。……アビーは今金貸し業をしているんだっけ?」
「うん。でも、そんな大したことはしてない。本当に少しだけ」
そう言う割にはアビーの装いは幾分か派手に見えた。
「アビー、少し見ない間にイメチェンした?」
「眠いなら寝てていいよ、セディス。あなたが変わったように私も変わったというだけ」
会話に乗ってこないから眠いのだと判断されたか。その通りだよ。
おやすみ……。
「おやすみ」




