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5-6

「獣人は自分達がどうやって生まれるか正確には知らない。だからこそ、錬金術でそれを解き明かそうとしているのかもね」


「……。待ってください。人間だって子がどう生まれるか分かっていません」


「ほう」


 言うじゃないか。

 今人間は血と白い液体が混ざり合うことで誕生するという説が主流であるが……合ってるとは思えない。何故か?再現実験が成功しないからだ。


「レイはどう思う?」


「どう、とは」


「人間はどうやって作られるのかな?」


 問いかける。

 疑問を持つこともまた才能だ。疑問を持つことで思考し、調べ、そして答えを手に入れる。


「俺は昔……トリ様に出会う前、妊婦を解剖したことがあります。中には小さな魚みたいなものが入っていました。あれがきっと人間になるのだと、俺は確信しました。誰も信じてくれませんでしたが……」


「僕は信じるよ」


「……はい。はい!ありがとうございます。なので……ええと、どうやって生まれるか……もともとは魚……」


 熟考しているレイを見ながら僕も考える。

 少し前に種の起源という本が出版された。批判も多いが、その筋では有名な生物学者が書いているだけあって説得力がある。

 レイにも読ませたことはあるはずだが、それを思い出せるかどうか。いや、思い出したからこの情報を出してきたのか。


 ……さっき出した問いの答えを僕は知っている。ということはつまり、もうそれを発見した人間はいるということで、じきに論文も出るのだろう。

 しかしレイにここで自信をつけさせることは、これからのレイにとってきっと大切なことだと僕は思っている。


「つまり……卵?卵に精子がかかり、魚となり、血を使い人間になっていく?」


「いいね。その調子だよ」


 相変わらずレイは優秀だ。



 ▫



「あれ、あの洞窟……」


「ん?レイ、あれが気になるのかい?」


「はい、少し」


 レイが指さす洞窟を眺める。

 なんてことの無い洞窟に見える。ある場所が場所だから調べられた形跡もいくつかある。

 しかしレイが気になるということは、やはり何かがあるのだろう。


「どのあたりに違和感があるんだい」


「地下……ですかね」


「地下」


 地下と言うので、そこを重点的に観察するが、下に行けそうな通路は特に見当たらない。いや、そんなすぐに見つかるようなところにあってはダメだろうとは思うけど。


「ティフ、ここ掘り起こしていいかい?」


 今まで黙って着いてきていたティフに聞く。さすがに他国の土地を荒らすのは気が咎める。ティフに許可を求めるのも当然と言えた。


「……まあ、いいぞ」


「だってさレイ」


「ありがとうございます」


 そう言ってレイは腰の剣を抜き、思いっきり振り下ろした。

 すると、大きな穴が地面に空いた。


「え?」


 ティフの困惑顔を横目に見る。レイはここ2年でさらに強くなった。英雄かくあるべきということか。

 人外の身体能力を誇る獣人の中であってさえ驚愕するような結果ということだろう。


「中に部屋のようなものがあります!」


「なんだって!?」


 これは本当に当たりを引いたんじゃないか!?

 思わず走りたくなるが、やはり面倒くさくて立ち上がれない。中を見たいのに。こういう時は本当に呪いが恨めしくなる。


「分かってます。トリ様は俺が背負います」


「ありがとう」


 レイに背負われて穴の中を降りる。


「ああ、ティフは持ち込んどいた綱を頼むよ、後で引き上げてくれ」


「いいぞッ!」


「そんなことしなくても俺が飛んで戻れるのに……」


 レイが不満そうにつぶやくが、中で何が起こるのか分からないのだ。外に人員は配置して置くべきだろう。それが女王というのはなんとも贅沢ではあるけど。


「へえ……ただの空洞だね」


 何もない。しかし不自然なスペースではある。ここになにかあっても不思議では無いが、ノーヒントでは辿りつけそうにないな。

 上の洞窟やらなんやら、この空洞を見つけるまでのヒントを探す過程で、色々と情報を得ていくルートが推奨されているのかもしれない。近道は許されないってわけか。まあそうしないと偶然見つけました!なんてことが有り得るわけで、それは確かに良くないかもしれない。

 全く関係ないブラフかもしれないけどね。


「なにかあると思ったんですが……」


「ま、これも1つの経験だよ」


 そういうことにして、渋るレイをどうにか宥め、僕達は引き上げることにした。

 1日で見つかるようなもんじゃないさ。

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