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「錬金術もついでに見に行こうか」
「はい!」
「うむ……」
ティフが何やら言いたそうな顔をしているが気にしないことにする。
「そうだなぁ。ジャーファルってまだ生きているんだったっけ」
「生きているわけないでしょう」
「そっかあ……」
会いたかったんだけどなぁと思いつつ、見たことのない資料が手に入るならそれでいいかと思い直す。
「そういえば、錬金術と言えばアルだよね」
「そうだなッ!」
そうだった。ティフは会話をしようとしてもあまり会話にならないのだった。
「君世間じゃアルと恋仲ってことになってるよ」
「……!?」
だからこうして驚愕させるようなことを言って反応を伺うのが楽しいのだ。
「ははは、変わらないね。安心したよ」
僕を置いて1人だけ大人になってしまったみたいで少し寂しかったのだ。
そう思うとリズは全く変わらなかった。最初から完成していたのかもしれない。
「か、からかわれたのか?」
「そうかもね。でもさっき言ったことは本当だよ。僕なんてリズと恋仲だぞ!全く世間様の想像力には驚かされるばかりだね」
「お前、……いや何も言うまい」
僕を見てなにかを言おうとして、それから口を閉じた。はあ、これが大人になったということか。
「僕は訴訟して勝ったので、晴れてその鬱陶しいイメージがなくなったのさ。それもレイのおかげだよ。本当に優秀なんだ」
「……。私が変わったと言いたかったのかもしれないが、お前も変わったぞ。少しは認められたいと思うようになったんだな」
ティフが目を細めながら僕にそんなことを言う。
感慨深そうな表情だ。そして少し責めるようなものも感じる。
「……どうかな」
僕は僕のことを好きなものが好きだ。そして僕のことが嫌いなものは嫌いだ。……でも、やはりできるだけたくさんの人に好かれたいと、そう思うことはあるのかもしれない。
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ちなみにティフは件の小説について、版権を1部受け渡すよう交渉することにしたらしい。確かにそれがいい。僕も訴訟で勝ったことだし相手も乗ってくるだろう。僕はそんなにお金はとってないし、何より彼はあれで随分稼いだらしいから。文才あってのことだとは思うけどね。
「レイ、君は何が見に行きたいんだい?」
「……エメラルド板が見たいです」
「……ん?」
「エメラルド板が見たいです」
「うん……」
無理だよと言ってあげるべきだろうか。エメラルド板とは数多の人間達が見つけよう、解き明かそうとして散っていったヘルメスの遺物である。
……機会があったら聞いておいてあげるけど、今見つけるのはさすがにできそうもない。
「どうして見たいんだい?」
「それを解き明かせば真実が分かる板らしいので、僕の目で見れば分かるのではないかと」
あれ、もしかしてレイは自身の目が錬金術でできているから構造を調べたいとかそういう話じゃなくて、目で錬金術を解き明かそうとしているのか?……さすがレイ。いつも君は僕の予想の斜め上を行くなあ。
「真実が知りたいのかい?」
「はい!」
「あはは、レイは本当に最高だね……」
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「そういえば、獣人はどうやって産まれるのでしょうか」
「……」
僕が答えられない質問だ。
「最初に言っておくと、“答えられない”」
「え?」
「獣人はこう言っている。濃い霧がかかった日、人と動物がその森に迷い混んだ時泉から現れる」
「はい」
「こんなこと信じられない。レイも知っての通り獣人は精霊に属さない。そもそも精霊もこんな産まれ方はしない。しかし、人間と同じ、というのもまた違う。そもそも獣人間でも寿命が違う。体の作りも大きさも違う。だが獣人としてまとめられる、まとめなくてはいけない。そこにコミュニティがあるのだから……」
獣人は例え全く違う種類に見えても繁殖が可能だ。よって同じ種類とするしかない。
「人間は獣人が生まれてくるところを見たことがない。この通り場所が隔絶しているうえ、人間は獣人に許されていないのだ」
一息つく。
「これで、いいかな?」
「俺が人間だから答えられない質問ということですか?」
いや、それは違う。
しかしここでいいえと言っても信用されないだろう。
「まず前提として、僕は人間が大好きだ」
「知ってます」
「そうか知ってるか……」
そんなに分かりやすかったかな?
「神は公平に接することも多いけど……僕は人間が好きだからね、知っていたら答えるよ」
「トリ様で知らないことがあるのですね……」
「そりゃそうさ。そうだね、竜人族なら知ってるかもね?」
獣人とよく同一視される種族だが、獣人と交配は不可であり、その数を減らし続けている。
獣人を奴隷として扱っているということだし、意図的に繁殖させたりもしていそうだ。
人間は獣人も知能を持つ個体と認めているからそういうことはできないんだよね。




