5-3
「……」
ティフが1人、また1人と撃ち抜いていく。
「狙撃銃も大きいね、ティフ。王様仕様かな?」
「黙っててくれないか」
「うん」
昔はこういうこと言っても気にしなかったんだけどなぁ。
「アンジー。ティフはこうやって戦うんだ」
「ええと、相手が近くに来る前に射殺するから無敗?」
「そういうことだよ。察しがいいね」
「納得しました」
余計なことを言わないのもアンジーのいいところだ。
「終わった?」
「ああ、終わったぞ」
「君に1つ伝えたいことがあってね」
▫
「七罪?ふむ。聞いたことはあるな」
ティフには傲慢の祝福がかかっているようだ。一番最初の予想は外したが、僕が途中で気づいた法則性は肯定された。
「あるんだ?さすがだね」
「何がさすがだかは分からんが、私は教会とそれなりに付き合いがあるからな」
「本当にさすがだねティフ。教会なんて君たちのことを人間とすら思ってないだろうに」
感心した。
まともで人付き合いの良いティフと言えど、さすがに下に見られているであろう人間とまで交友を持てるとは。
僕には無理だな。すごく残念だけど。
「人間……ではないからな、しかし犬のフリをすることはできる」
「なるほどね」
ティフらしいと言えばらしい。彼女の強さは切り捨てて良いものを見極める力だろう。それがパーティ随一のまともさにつながっていたのは言うまでもないことか。
「あくまで、私がだ。どうせ私は中継だからな。ある程度好き勝手はできる」
後世で悪名が残るだろうがそれも覚悟の上か。
「あまり褒められた手段ではないけどそういうのも必要かもね」
「……お前にはいくらでも時間があるからそのようなことを言ってられるのだ」
「ははは」
確かにそうかもしれない。
「……この馬車やばいですね。さっき目の前にいたでかい牛を轢き潰しましたよ」
アンジーが珍しく焦った声色でそう言った。
「そうだろう、そうだろう。獣人はこういうものを得意としているのだ。お前が出世した暁には上への口添えを頼むぞ」
「あ、はい……」
「そうだティフ、食料はどうなっているんだい?」
アンジーが少し口よどんだので、前から気になっていたことを問う。
「後ろに積んであるぞ。……長旅するんだから当たり前だろ」
「確かに」
準備する時間もあるのだから普通はそうするだろう。言われて見ればその通りだ。
ティフは相変わらず堅実なようだ。
「そういえば牛が轢き殺せるならば、襲撃犯も引き殺せば良かったのではないですか?」
今まで黙っていたレイが口を開いた。
表情を伺うが、何を考えているかは分からなかった。
「……人は少し手順がいるのでな、襲撃されたと分かる状態で残して置く必要があるのだ」
「そういうものですか」
▫
「人間の宗教は性を悪としているところが面白いと私は思うのだ」
レイに興味を持ったらしく、ティフが話しかけている。
しかし宗教と言ってもいろいろあるのだからそう一概にでも言えないのでは無いかと思うが、余計なことは言わない方がいいと思い黙っておく。
「獣人はそうではないのですか」
「そうだな、悠長にしていては子供が作れなくなってしまうからな。……しかし、性別で役割が強制されないのは良いことだ、こうしろという取り決めがあったとしてもな」
それも国によると思う。これもそうと言うべきではないだろう。
しかし、獣人よりは応用性はあるというか、人間は頭が柔軟だ。王という名称は得られなくとも実権を握ることは可能だ。おそらくそういうことが言いたいのだろう。人間の特性である。
「お前は何になりたいんだ」
話はそこで終わったのか、レイに話しかけることにしたようだ。
「俺は……何になりたいのでしょうか。昔は冒険者になりたかったのですが、今は旅をしたいだけだと気づいてしまいました」
「それならば旅商人なんてどうだ?」
「俺は常識がないみたいですからなかなか厳しいでしょうね……」
「そうか?顔が良ければ商人なんて簡単にできそうなものだがな」
「いやいや、ティフ。さすがにその発言はいただけないよ。僕が言うんだから相当だよ?理由も聞くかい?」
ティフがレイにとんでもないことを言っていたので、口をはさむ。
「ああ、頼む」
「商売人っていうのは見る目が大事なんだ、売れそうな物、信用できそうな人、情勢全部知ってないと破滅するよ。顔で多少は有利になるかもしれないけどね。そういうのだったら吟遊詩人か役者の方が手っ取り早い、もちろんそれらの職も顔だけじゃないけどね」
「ふむ。顔だけと言うとやはり娼婦か」
「……娼婦に1番必要なのは頭の良さだよ」
顔がいいだけの娼婦なんざ利用されて消費され続けるだけだ。というか、この流れで出す話題じゃなくないか。ティフが気になっただけってことかな。前は言わなかった気がするタイプの発言だ。
「そうなのか?」
「ティフは客観視とは少し違うか、客の立場でしか見てないんじゃないかい?もう少し主観的に見てはどうかな。そういうところも君の魅力だと僕は思ってるけどね」




