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1-2

「さてレイ。朝ごはんは食べた?」


「はい。あの本当にいいんですか?朝ごはんを食べなくて」


「いつも言ってるじゃないか。僕に食事は必要ないんだ」


 僕は人間より現象に近い存在だ。

 海に食事は必要か?もちろんいらない。そういうことだ。


「うんうん。それではリズに久しぶりに会いに行こうか」



 ▫



 リズのいる教会は、森の奥深くにあった。


「悪いね、また運んでもらって」


「いいんですよ。トリ様はそのままでいいんです。無理はしないでくださいね」


 レイは少し過保護だ。

 そうまでしてくれる理由がわからないが、その機械の目で僕にも分からない何かを見ているのかもしれない。


「ああ、言ったそばから。俺が開けますから」


 レイが扉を開けてくれた。


「ええと…リズ?いる?」


 中が薄暗い。

 白い壁と、よく見るタイプの構図の壁画がなんとなく見える。


「俺が明かりを探して来ましょうか?」


「いや、いいよ」


 たいまつを僕の部屋から取り出す。


「レイ、火を頼む」


「はい」


 火は人間に許された力の1つ…僕には使えないこともないが、あまり使いたくはない。


 火が灯る。


「な……」


 こ、これはレイに見せてはいけないやつでは!?


「レイ!目を閉じて」


「え、あ、はい」


 もう遅い気もするけど、しないよりはマシなはずだろう。

 冷や汗をかくような気分で、久しぶりに見るリズとの対話を試みる。


「やあリズ。…そちらのお嬢さんは?」


 今の僕はあまり大声を出せないが、教会の中で声が反射しているこの状況だ。いつもより遠くまで聞こえるはずだ、きっとリズにも届く。


「……!セディス!久しぶりね。ん、あれ?少女?…えーとこれは…見なかったことにしてくれる?」


 リズが目を泳がせている。

 その下には少女がおり、明らかに情事の前のような…。リズは少女という言葉に困惑を見せた。確かに服装は男っぽく男に見えなくもない…か?


「解析」


 リズを解析する。色欲の祝福、と出てくる、僕の怠惰の祝福と明らかに関係がありそうだ。

 なるほど、これが彼女が権力争いの中心から遠ざけられた理由なのかもしれない。


「僕も似たような状態だしね。魔王は随分と趣味が悪いようだ」


「え、じゃあその少年は…」


「……ごめん今のは僕が悪かった。気を悪くしないでくれ、レイ」


「別に気にしていませんよ」


 レイは僕が言った通り目を閉じたままだ。リズが何を言っているの理解できているのだろうか。

 服をなおし、気を取り直したらしいリズが立ち上がる。


「僕に色欲の状態異常がかかったならまだ良かったんだけどね。どうせ魔王ごときじゃ僕の性質は変えられない…そう、そうなんだよ」


「トリ様。そんなに話して大丈夫ですか?疲れていませんか?水を飲ませましょうか?」


 小声で聞いてくる。

 レイは僕をなんだと思っているのか。


「いや…いいよ。あと目ももう開けていい。とにかく、リズ。僕にかけられた呪いは『怠惰』だ。ご覧の通り僕はもう指すら動かしたくない。正直こうやって声を出すのも億劫なんだよ」


「……。七つの原罪かしら。パーティは8人だった時もあったけど魔王を倒した時は7人。他のメンバーにも呪いはかかっていそうね…」


 知らない単語が出てきた。

 あとで調べておこ…いや無理かな。


「その顔は知らなさそうね。七つの原罪っていうのは…貴方が眠そうだから詳しい話は割愛するけど、色欲、怠惰、憤怒、暴食、嫉妬、強欲、傲慢。避けるべき罪のことよ」


「なるほど。……だいたい誰がどの呪いを受けてそうなのか想像がつくのが嫌だね」


「そうね。いつも勤勉な貴方が怠惰だもの、そういうことよね…」


 清貧なリズが色欲だからそういうことなんだろう。

 いつも冷静沈着で感情らしきものをほとんど見せなかったアレキサンダー、ゼンが憤怒。

 生真面目すぎるところがあり、膨大な知識欲を強く自制していたアルフレッド、アルが暴食。

 性に奔放で、他人興味すらなさそうだったユージーン、ジーンが嫉妬。

 無欲で国と同胞のために自身を犠牲にしそうしていたティファニー、ティフが強欲。

 自身の技術にしか興味がなく常に研鑽を積んでいたアビゲイル、アビーが傲慢。

 僕の予想としてはこうだ。


「うん。とりあえずリズが元気そうで良かったよ。今日はそれを確かめに来たんだ」


「呪いの解呪方法を考えたりしなかったの?」


「あー…」


 祝福だからリズにも解けない可能性が高いと思って意識の外に出していた。

 実際今のリズがそのままの状態なのだからそういうことなんだろう。


『トリ様、捕まえました』


 レイが目で話しかけてくる。

 その手にはリズの下にいた少女が。……普通に逃がした方が良かったんじゃないかなあ。


「うーん…結局このお嬢さんは誰なんだい?」


 襟首を掴んでるとか今片手で捕まえたよねとかいろいろ言いたいことはあるけど…。

 考えることを放棄した。


「……」


「わ、私はこの人に襲われてたんです!本当です、信じてください!!」


 思ったより元気そうだな。僕はこういうのを見極めるのは得意な方だったりする。


「レイ、どう?」


「真実ですね」


 レイがそう言うのならそうなんだろう。


「ゆ、許して?こういうのは今回だけだから…」


「レイ」


「嘘ですね」


「うんギルティ」


 リズは昔から嘘つきだったなぁ…そういえば。

 苺は野菜だとか兎は鳥だとか…今思うとくだらない嘘ばっかだ…。


「本気で抵抗されたら逃がしてたし…」


「あ、これは本当ですよトリ様」


「うーんでも怖がらせたのは本当だろうしね…」


 ……。普段使わない方向に頭を悩ませていたら眠くなってきた。

 しかしここで倒れるとレイに迷惑が…いや…やっぱむ……り………。


「トリ様!?……!お父さん!!」


 だから僕はお父さんじゃない………。

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