5-2
「僕はこのブリテンが合っているらしい。もうここから離れるつもりはないよ」
「そうなのか?本国の原生生物の調査のためアラビアまで同行してもらおうと思っていたが、残念だ」
「行くに決まってるじゃないか!!」
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ティフの用意してくれたすごく大きい馬車で移動することになった。馬も御者もすごく大きい。なにもかもがすごく大きいよ。
アンジーも着いてくるようだ。
「たかしは?」
「たかしって誰ですか?」
「アンジーが持っていた馬だよ」
「たかし……?寿命で亡くなりましたよ、おじいちゃんでしたからね」
「そうなんだ……」
僕は彼と仲良くしていたので少し寂しく思いながら、外を見た。……速すぎて景色も何も見れたものではなかった。
「私はゼンが苦手でな……こう見ているとぞわぞわするのだ」
どうやらティフはゼンに会いにいく気がないらしく、そのようなことを言った。関係修復は難しそうだ。このままだとティフに寿命で逃げ切られてしまうぞ。ゼンには自分から会いに行けと一応言っておこうかな。
「無理に会わなくてもいいさ。ゼンは怒りそうだけど……会いたいなら自分で会いに行けばいいだけだしね」
「お前がそう言うと私が悪いような気がしてくるなッ!機会があればまた寄ることにしよう」
これは寄らないやつだね?
ティフの予定はかなり過密らしく、どちらにしろ寄る余裕はないとのことだ。
「そうしてあげてほしい」
いろいろ言いたいことがあるような気もしたが、とりあえず静観することにし、僕は頷いた。
「して、そこの少年は誰なんだ?お前に随分懐いているようだが」
レイが見ていないことを確認する。
ティフは信頼できるし話しても良いだろう。
「彼は僕の甥だ。身寄りがないようだから僕が育てているんだよ」
「そうか!だから強そうなのだな!納得したぞ」
「お、分かるかい?」
レイは強いのだ。資質が良い。しかし彼は戦うのがあまり好きではないらしく、あまり鍛えるつもりはないらしい。とりあえず近くでパンクラチオンを教えてくれる先生がいたのでそこに週一で通わせている。
だってもったいないし。そうは思わないか?
「だが精神はかなり弱く見えるぞ。気をつけてやるといい。父親代わりなのだろう?」
「いや違うけど」
レイの父親は普通にいるし、そこそこ可愛がっているようである。
「……もしかして母親代わりなのかッ!?」
「違うよ!?」
「なんの話しですか?」
僕が思わず声を上げると、アンジーと話していたレイに気づかれた。
▫
「獣人は強い者がモテるぞ、とにかくモテる。異性にという話ではなく、人間としてだが。アシュレイもリアンも気をつけておくようにな」
「セディスさんは?」
アンジーが僕を見ながら聞く。
「セディスは武器の収集力と使い方がとにかく上手い強さだからな!獣人にはモテん!」
「へえセディスさんってそうやって戦うんですねえ」
「僕はそもそも斥候だから戦わなくていいはずなんだけどね」
長らくソロプレイだったので戦えるようになってしまったというだけだ。
「ティファニーさんはモテるんですか?」
「私はモテないな」
「そういうものですか」
「ああ、そういうものだ」
アンジーが問うと、ティフがそう答えた。
……仕方のないことではあるが、国のために尽力している女王が尊敬されないというのは少し虚しさを感じる。
「仕方ないさ。ティフはそういう選択をしたんだ。代わりに手に入れた得がたいものがあった」
「……“無敗女王”ですね?」
アンジーが確信のこもった声色で聞く。いい性格してるなとは思っていたが、強化されているらしい。
「そうだ。私はこれまで誰にも負けたことはない」
「ティファニーさんはどうやって戦うのか気になりますねえ。セディスさんに敗訴した本には戦闘があまり載っていないんですよねー。一応アルフレッドさんは載っていましたかね?」
「敗訴?」
「もう絶版になった本のことを話すのはやめないかい?」
「はい」
危ない、ティフはどうやら件の本は知らなかったらしい。知っていたら国際問題になりかねなかった。
何故かアルと恋人ということになっていたし。
……アルに恋人はできないんじゃないかな。
僕とリズも禁断の恋風にされていた。もちろんそんな事実はなく、僕が彼らを訴えることにした最後の決定打がそれである。
僕達パーティは良くも悪くも個人主義だったので、恋愛関係には発展しなかった。
「どうせすぐに分かる」
ティフがそう言うので、窓から外を見ると、確かに盗賊の群れがこちらに向かっていた。
この馬車目立つからね。




