5-1
「ただいま」
僕とレイは久々に家に帰ってきていた。
「いやー久々に働いたね」
「ゆっくり休んでください。トリ様は優しすぎますよ」
「……自身の生に忠実なだけだよ」
▫
「アンジーに会いたいな」
マモン討伐を見ていたなら、近くにいるはずだ。
「お気に入りでしたもんね」
「そうだね。血筋も面白いし、あとバイタリティに溢れているところがいいよ」
「……連絡取りますね」
結果、アンジーの方から来てくれることになった。
そういうことで、僕は気楽に待つことにした。
「トリ様。……俺が1番ですよね?」
「何の話かな」
「解剖したい素材ですよ」
「そうだね」
「だから俺をこうやって庇護してくれてるんですよね?」
それは違う。レイを育てているのは彼が予言の英雄だからだ。
最初は罪悪感からだったが、災いと呼べそうな物が多数起こっている現在、結局は予言通りに彼は災厄を討ち果たすのだろうという確信があった。僕が彼を見捨てたとしても結果は変わらない。だから意味なんてない。あるとすればそれは、少しの打算。
吟遊詩人を囲ったのと同じ理由。
「僕は君が考えているよりずっと勤勉だよ。だからこそ怠惰が効いたんだ」
レイは解剖したい素材ではあるが、別にそれをするのは僕じゃなくていい。つまり、僕がここまでしなくていい。資料さえ手に入れば十分だ。そして彼なら死後の体なんて簡単に受け渡すだろう。
僕が彼に解剖したいと常々言うのは、彼が簡単に死んでしまいそうであり、それを止めるために言っているにすぎない。嘘ではないけどね。
全部本当だ。生きとし生けるもの全てに言えるように、僕にも様々な面がある。
「レイ。僕から1つ言っておくことがある」
「……なんですか?」
「君はやがてヒーローになる。そこに僕は関係ないんだ。君の人生に占める僕の割合なんてほとんどないと言っていい。だから心配しなくていいさ」
ハイスクールで何があったのか、レイは随分卑屈になってしまったような気がする。
たまには餌も与えておかないとね。
▫
「セディスさん!私ですよ私!アンジーです!!」
扉を開けてアンジーが入ってきた。
もともと短かった髪をさらに短くしている。声色は昔と比べ自信に満ちているように感じられる。表情は変わらないが。
「トリ様。コイツが勝手に走ってしまい……」
遅れてレイも入ってくる。
「今日はですねえ、サプライズゲストを連れてきたんですよお」
「え、誰だろう。気になるな」
「入ってきてください。……ジャーン!ティファニーさんです!」
「な!それは俺も聞いてないんだけど!?」
珍しく慌てるレイの声を聴きながら、ティファニーのことを思い出す。今彼女はアラブの方で女王をやっているはずだ。
しかしなぜティファニーがここにいるのだろうか。
「セディス久しぶりだなッ!私だ!……本当に身動きが取れないのだな」
「久しぶりティフ。会えて嬉しいよ」
「うむ。その胡散臭いところは変わらないな。私も会えて嬉しいぞ」
僕が手を差し出すと握り返してくれる。
……握力も変わらないね。
「最後に会ったのは4年前だっけ?随分落ち着いたね」
相変わらずまともそうではあるが、少しテンションが下がった気がする。落ち着いたとも言える。
「ああ……お前からすれば4年などさしたる時間でもないのか」
ティフが感慨深そうに言う。少し寂しそうに見えた。
「トリ様、獣人の寿命は人間の約半分と言われています。俺の8年分経過したと考えてください」
レイが僕の耳元に立ち、小声で伝えてくる。そうか、よく考えればゼンのところにいたカナも獣人の血が濃かったから急に成長したように見えたのか。
「ティフ、君は忙しいだろうによく来てくれたね」
気を取り直してにこやかに話しかける。
「マモンとやらの討伐に駆り出されていてな。討伐も終わり、お前が近くに住んでいるというので寄ろうかと思った矢先そこのアンドレアに誘われたのだ」
「エリザベートさんには断られてしましたけどねえ。後始末が残っているようです」
「そうだろうね。……もしかしてゼンとジーンにも会うつもりかな?ジーンは牢屋に入っているから事前に許可を取っておくといい」
「もうジーンには会ってきたぞ!私は行動力が高いからな」
「それで少しこちらに来るのが遅くなりました」
アンジーが続けて言う。
ということは帰りにゼンのところに寄るつもりだろうか。なかなか活動的な彼女らしい。
ゼンは僕とリズに関してはすっかり許してくれたみたいだが、他はそうでもなさそうだ。なんとか関係を修復してほしいところである。
「さすがだね。元気そうだったかい?」
「元気そうだったぞ。なにやら事情があってそろそろ釈放されるらしいと言っていた」
討伐が終わったからか。




