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「そうだ!僕が持っていた鳥籠はどうしたんだい?あれは結構貴重なものなんだ」
勢いよく扉が開いた。
「セディス様!」
2年前に会ったきりの王様がでてきた。
「“サマ”?」
「はい。セディス様。私はあれから心を入れかえたのです。鳥籠はここにありますよ」
「ありがとう?」
2年で随分と変わった国王に戸惑いを覚える。
そして国王の近くにいた女が僕に鳥籠を渡す。
これはあれだ、僕を2年前に殴り飛ばした少女が成長したんだね?
鳥籠の中を見る。心なしか元気のなさそうな目玉が転がっていた。
「悪魔って食事いるの?」
「なんで俺を見るんだ?いらないと思うが」
「そうだよね」
どうしたものかな。マモンの目だったら金でも食わせればいいのだろうか。
▫
とりあえず寝ているバンパイアに平手打ちをして起こすことにした。
「起きないなぁ」
しかし杭を外すわけにもいかない。
「それくらいじゃ起きないだろ。いいか?ビンタっていうのはこうやってやるんだ」
……大槍使いの本気のビンタは杭が外れそうなほどだったとだけ言っておく。
▫
「君に1つ提案がある」
起きたバンパイアに向かって指を1本突き出す。
鳥籠の中の目はすっかり元気になった。どうやら信仰心を食らうらしい。
つまり。
「君の全財産と引替えに今回はお咎めなしだ!これで手を打とうと思う。僕は殺されかけたのだから当然の権利だろう?」
レイの眉が少し動いた。体を真っ二つにされたことは聞いていなかったらしい、ゼンの方を咎めるように見た。
「渡すわけが無いだろう!私にとっての金とは命よりも大切な物だ」
「おお?強気だね。僕は枢機卿とお友達なんだ。ただ燃やすよりも辛い目にだって合わせられるんだぞ」
「そんな安い挑発には乗らない」
思ったよりもプライドが高そうだ。金を信仰の対象にしているというのも正直僕は疑っているというのに。だって。
「君さ、金で寿命を買っただろ」
「……」
「当たり!」
テンションが上がってそのバンパイアをよくよく見ると、2年前に話しかけてきたバンパイアと同一だ。つまり僕達をゼンに会わせたくなかったんだな、あの時も。
ちなみに人間が不死に至るにはそれ相応の準備がいる。知能と、生贄と、術者、あと場所もいるかな?
そういうのはだいたい学者あたりがなるイメージがあるが……こういう裏道もあるらしい。人間は考えが柔軟でやはり見ていて面白い。
「時間さえあれば金なんていくらでも取り返せるさ。そのために時間を買ったんだろ?何も恥じることはない。君にとって真に大切だったのは金じゃなくて時間。君が本当に信仰しているのは“時間”だよ。時間は寛容だから一時信仰を忘れているくらい気にしない、安心したまえ」
「……」
「さて君。信仰の対象を失ってもいいのかな?今なら全財産を僕に寄越すだけでほぼ損なしの大チャンスだよ?」
▫
「3億ドルか……なかなか悪くないね」
そのバンパイアからもらった大量の小切手を見ながらつぶやく。
バンパイア自体はあの後ゼンに討伐されたらしい。……僕の預り知らぬところだ。
「お前はいったいその大金を何に使うつもりだ」
「さあね」
ベルフェゴールの言っていたことも気がかりだし、お金は確保しておきたかった。別になくても良かったが。
とりあえず僕の手持ちのお金は金に変えておいたしね。
「さて……マモンの狙いは君の体でどうやら間違いなさそうだ」
「?」
「マモンは現世で活動するために体を欲しがっている。……本体はあんな感じだしね」
バラバラにされていたが、盗まれて悪用されたりしないか少し不安になった。
「こうなることは予想していたってことかな……」
2年前から準備していたのだろう、おそらく。
ちなみに尋問は行っていない。さっきの時間稼ぎのおかげでレイがだいたいの情報をその目で入手した。
その情報から推測するに、これは長年の計画だ。
「つまり俺が半悪魔だから体のいい依代にしようとしていたということか?」
「体だけに?……冗談だよ。そうだね。おそらくそれもある。しかしそれだけじゃない」
僕とリズにも目が配置されていた理由がつかない。
いやつくか?一応ゼンと連絡が取れるわけだから。
しかし、もう1つ理由はある。
「君には祝福がかかっている」
「祝福?」
「僕にもかかっているしリズにもかかっているよ」
「何が言いたいんだお前は」
ゼンが少し怒った顔をした。悠長に話しすぎたらしい。
「おそらく……僕達が倒した魔王が復活のために撒いた種なんだよ。祝福は。しかし何らかの理由があってかの魔王はそのまま倒された。強欲の悪魔はそれを利用しようとしている感じだね」
「はあ」
「僕は無理だろう。だって神だし。リズも無理だね。枢機卿だから。ティフも無理だ現人神ってやつらしいし。ジーンも無理だよ、天使混ざってるからね。アンジーもあれは一種神霊の類いだ。マイクは巨人だ。あと厄介な能力を持っている。なかなか厳しいだろう。アルは……あれはだめだね。そういうことで、君しかいないんだよ。使えそうな体が」
とはいえ一応記録だけは撮っていたのだろう。しかしそれをやらなければ僕は気づかなかったのだからもったいないことをしたのではないか。




