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4-1

「レイ、大分身長が伸びたね。僕も抜かされてしまうかな?」


「トリ様を抜かすのは無理だと思いますが……」


 僕は新聞を読むのが日課だ。

 今日の記事にはアンジーが他国の王子様を助けた話が載っている。

 3ヶ月とはいえ、僕と旅した仲だ。成功しているのを見るのは嬉しい。

 この記事は取っておこう。


「ねえレイ。大学に行く気はないの?学費は僕が出すよ」


「俺はどうやら疎まれやすいみたいですから……。いいんです。俺はずっとトリ様のお世話をします」


 レイはと言うと、真面目な彼はハイスクールから通いたいと言って通い始めたものの、すぐに嫌気がさしたのか辞めてしまった。

 どうやら人間関係が上手く行っていなかったようだが……そういえばスラム街で会った時も彼は1人だった。


「大学はいいところだよ。僕でも通えたんだから。それくらい自由だ。……気が向いたらでいいさ」


 やめた後にわざわざ裁判に関する知識を習得した彼だ。

 きっと大学では上手くいくだろう。


「ありがとうございます……」



 ▫



 さて、レイがお手洗いに行った隙に上を見上げる。

 僕が今日長く起きていたのはこのためだった。


 最近ずっと視線を感じていたのだ。

 天井近くに目玉が浮かんでいる。


「やあ」


 目を合わせて挨拶をすると少しビクッとしたような気がした。


 立ち上がる。僕は背が高い方らしく、天井まで手が届く。目玉を優しく手に取り、椅子に座り直す。

 なにやら震えているようなので、撫でておく。


「可愛いな……」


 改めてよく見る。

 “マモンの目”

 確かに悪魔の成分が見える。悪魔か。悪魔ならば、多少解剖しても回復するだろうか。


「よーしよしいい子だねちょっと大人しくしててね。……“メス”」



 ▫



「なんですかその目ん玉」


 帰ってきたレイが鳥籠の隅っこの方で静止している目玉を見て困惑したように言った。

 僕がそちらに目を向けると目玉に目をそらされた。

 僕は君のこと結構好きだぞ。


「うわ動いた」


「少し前から僕のことを監視してたんだ。やはりレイにも見えるみたいだね」


「確かに視線のようなものを感じるなとは思っていましたが……」


 レイがまじまじとのぞき込みながら鳥籠をつつく。


「お金みたいな目ん玉ですね」


「そうなんだ……」


 レイがそう言うならそうなんだろう。マモン。強欲の悪魔と言われていた気がする。そういえばどこかでマモンとは富を意味する言葉だとリズが言っていた気がする。全部うろ覚えだが仕方ないね。専門外だし。

 悪魔とはある種信仰を集めるものだ。

 つまり金を信望する誰かはマモンを崇めているとそういう話だろうか。


「しかし何故このような物を僕に?」


 解剖資料が増えて僕としては嬉しいが。


「監視だとは思います。どうしてトリ様を監視しているかですが」


 手を叩く。


「そういえば悪魔と言えばレイ。アメリカにいた悪魔ベルフェゴールが株の売買はやめておくようにと言っていたね」


 車椅子で移動できるところに基本いるので、同じように車椅子に乗っている人物に会うことも多い。

 ベルフェゴールは高性能自走式車椅子に乗っていた美女だった。……多分美女だったと思う。女だったよね?悪魔はブレるためかいまいち判断がつきづらい。

 あと東洋の絵本だかなんだかを読んでけらけらと笑っていた。どうも幼児向けに見えたが聞くわけにもいかなかった。


「言っていましたね。ベルフェゴールさんめちゃくちゃ浮かれてましたけどね。なんでしたっけ……金の価値は暴落し、戦争が巻き起こる。そうなればボクの知恵は人間を喜ばせ堕落させることができるとか言ってましたっけ」


「あと女は信用できないから男に知恵を重点的に渡すとも言っていたね。レイは断っていたけど」


 なぜ話しかけてきたのかと言えばレイ目当てだったらしい。


「つまり、金の象徴たるマモンは大分力を落としているということではないかな?」


「それがなんでトリ様に監視をすることにつながるんでしょう……」


「うーん。僕はこういうの疎いからな……」


 そう言いながら鳥籠の目玉に目を向ける。

 まるで置物のようにピクリとも動かないため、鳥籠を回して目を合わせ……られないな。転がってるふりをして目をそらされている。


「可愛い」


 止まった。


「可愛い君に一つ質問したいんだけど……あー聞こえるかな?……唇を読んでる感じ?君に考えていることを投影できる機械を埋め込んでおいたから、マモンが何を考えているのか教えて欲しいな。ついでに今のマモンの状況も」



 ▫



「「……」」


 僕達はマモンの想像を絶する状況に困惑せざるを得なかった。


「ええと……これはずっとこんな感じなのかな?」


 映される映像が変わる。


『もうかれこれ2年になりますね。強欲の魔王マモンを聖女様の力で拘束し、攻撃し続けて』


 リズだ。面倒くさそうな顔をしている。そりゃあ2年も拘束されればそうもなるか。


『しかし倒してしまっては、またゲヘナから復活する可能性もありますし、なによりマモンの力がいきなり減退しては世界経済に多大な影響が及びます。じわじわ倒すのが良いでしょう』


『知ってるわよ。はあ……』


 リズは相変わらず苦労しているようだ。


「2年間ずっと四肢をもがれた状態で火葬されつつ攻撃され続けているのかマモン……」


 そういえばリズはマモンのことを強欲の魔王と言ったか。魔王とは複数体いるものなのだろうか。


「それで君は僕に何をして欲しいのさ」


 言ってもしてあげないけどね。僕は静観を決め込むことにしているのだ。



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