回想
「やあリズ。結界の進捗はどんな感じかな?」
「セディス。もちろん終わったに決まってるじゃない。私を誰だと思ってるの?…そういや貴方のその鬱陶しい前髪はどうにかなんないのかしら」
「どうにもならないよ」
今は盗賊との交戦により、予定通りに街に着けなかったので、僕達は野営をしようとしていた。
野営をする時は大抵リズに結界を作ってもらう。その間僕は食料調達なんかをしていたが、それが終わったので、リズの様子を見に来た、というわけだ。
前髪を触る。
僕は目が特徴的だ。目を見られると1発で種族がバレてしまう。
一応パーティメンバーには種族を隠しているので前髪を切るわけにはいかないのだった。
「はあ…。まあいいわ、それより解体は終わったの?」
「もちろん。僕は他の皆に比べると戦闘であまり役に立てないからね。このくらいしかできなくて申し訳ないよ」
「…。別に私は貴方の種族が何であろうが気にしないわよ」
僕の前髪をじっと見てくる。いや、その奥の目を見ているのか。どうやら彼女に隠し事はできないらしい。
「神以外の神なんているわけないもの。貴方も神ではないの。友人にだってなれる」
「…君は強いね。眩しいくらいだ」
彼女のことは、共に冒険する仲間の1人、としか考えていなかったが、考えを改めた。尊敬のできる女性だ。
「まあでも神の名がつく種族なんだから、何か言っていないできることがあるのよね?」
「確定か。そうだなぁ…例えばこういう事が出来る」
距離を切って、僕の部屋から取り出したポーションを手に持つ。
こんなものだろう。
これ以上はさすがに教えられない。
あんまり話しすぎて、僕の家族に居場所が特定されたら……考えただけで身震いがする。僕にとっては死活問題だ。
「ほら、僕が話したんだから君のことも教えてよ。暇なんだろ?」
「いいけど…私から話せることなんてほとんどないわよ」
「…。君教会の1シスターなんて言ってるけど絶対嘘だよね?」
最近の人間はこんなに凄いのかと最初は考えていたけど、やはりどう考えてもやれることが多すぎる。
「そうね…1シスターなのは本当だけどね。あえて言うなら私はこの冒険に成功できたら枢機卿になれる可能性があるくらいかしら」
そう言いながら髪をかきあげる。
枢機卿って何?
「おー…おー?」
「分かってなさそうね…」
僕は残念ながら人間の役職などにはあまり詳しくないのだった。
「とりあえず私はとても偉いってこと。…自分で言うと馬鹿みたいね…」
「何かごめん。でもそうか、君は偉いのか」
なるほど、言われてみると確かにそんな感じがする。
自信に満ち溢れた雰囲気は清貧な身なりをしていても隠し切れるものではなかった。
「すごいなぁまだ僕の三分の一くらいしか生きていないのに」
「薄々分かっていたけど貴方結構おじいちゃんよね…いや種族を考えると若いのかしら?」
▫
「…宿割りおかしくないかい?」
冒険を初めて3ヶ月くらいが経過した。
久しぶりに宿泊できると喜んだが、どうやら部屋があまり残っていなかったらしい。魔王討伐の一行なだけあって、お金だけは潤沢なのでいつもは1人1部屋なのだった。
とはいえ、予約もなしに戸を叩くのだし泊まれるだけ良しとするかなと思っていた。
……僕とリズが何故同じ部屋なのか。
仲間達には、僕達が親友だとは説明したが、男女で同部屋に入れるのは不健全では無いのか。
「でも1人部屋と2人部屋を2部屋ずつしかとれなかったんだから仕方ないわよ。ジーンを誰かといっしょに入れる訳にはいかないし」
「ははは。ジーンはもう色街に置いてきていいんじゃないかな…。たしかに僕はベッドいらないけどね」
ちなみにこの部屋は一人部屋だ。僕がそうしろと言った。
部屋に備えつけられたイスに座りながらクルクル回す。
僕は眠る必要がないので、ベッドも必要ない。
「…さっきから気になっていたんだけどその物騒な資料は何かしら?」
「物騒とは失礼な。半獣半妖精の解体資料だよ。えへへ、僕なら安く譲っていいよだってさー正確かつ詳細で見る価値ありだ!…見る?」
「そんな複雑そうな顔しなくても見ないから安心してくれていいわよ」
呆れた顔でリズが言った。




