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3-2

 ということで、さっきの勘違い云々はブラフですよと教えてみたのだがどうだろうか。


 ジーンの顔を見ると思ったより気が動転している様子だった。

 ジーンは犯罪者で彼との間には壁があり、僕は安全圏にいるから多少暴れられても問題はないのだけれど。


「トリ様。あれやりましょう」


「あれ?」


 レイがこちらを向きながら彼自身の目を指さす。


「おお、いいね」


「そうでしょう?」


 片目を瞑る。了解の合図というわけでもないが、なんとなくそういう気分だった。これを今から了解の合図にしよう。


「ユージーンさん」


 レイが口を開く。


「嫉妬できるほど他人を愛せるようになって良かったねとトリ様が仰っています」


「……」


「ですよね?」


 片目を瞑る。すごく楽だ。楽だが……ダメになりそうな気がする。今さらだろうか。


「お前……美少年を手足だけじゃなく口にも使ってんのか。いいご身分だな……」


「言い方が良くないよとトリ様が仰っています」


「あー!めんどくせえ!!!!!」


「トリ様は興味なさそうなんで俺が聞きますけど、結局嫉妬で人を刺したということですか?」


「……なんかオレ以外の男と2人で食事してんの見てイラッとして刺した」


「思ったより雑ですね。トリ様、普通にこの人犯罪者ですよ」


 レイがそう言うということは、嘘はついていなさそうである。レイの目はガラスで阻まれてもよく見える特別性だ。


「……え?分かりました」


 僕が頷くと、レイは僕の車椅子を押して外に連れ出そうとしてくれる。


「じゃあね」


 僕はジーンから見て後ろを向いた状態で手を振った。ジーンはいろいろな血が混ざっているしそこそこ長生きをするに違いない。なにせ今も若々しいままだ。きっとまた会えるさ。



 ▫



「セディスさんってなんだかんだ優しいですよね」


 外で待っていたアンジーに次の行先を伝えると、そんなことを言った。


「知っていました?セディスさん達の冒険譚は本になっているんですよ。セディスさんはユージーンさんとはあまり仲が良くないと書いてありました。それにもかかわらずわざわざ牢屋まで尋ね事情を聞いて、そうして領事館に減刑を頼みに行くんですから……」



 ▫



 レイが車椅子を乗せて、その後レイに担がれて馬車に乗る。

 しかし僕は寝てばかりいるので旅に出てから何日経ったのかよく分かっていない。寝ていなかった時もそれはそれで分からなかったけれども。

 種族上仕方のないことなのかもしれない。

 一息つく。


「僕許可出してないんだけど……」


 アンジーは本出てるって言ってたよね。どうなってるのさ。


「卒業旅行が終わったらいっしょに訴訟しましょう!」


 レイが顔を輝かせながら言った。

 僕はレイのことがたまに分からない。


「そうだね」


 とりあえず頷いておく。

 そういえば久しく宿を取った記憶が無いが、レイは大丈夫だろうか。アンジーは休まなくてもいいらしいし、そもそも寝たことがないという話だから大丈夫だとは思うけど。つくづく御者向きである。


「レイは馬車の中だけの睡眠で大丈夫そう?」


「はい!俺は体が丈夫ですから!」


 なにやら機嫌が良さそうだ。なんで?



 ▫



「ええ、ジーン……ユージーンが本気で殺そうとしたら、貴女は確実に死んでいるでしょう。だから彼に殺人の意図はなかったように思います」


 件の領主へ直談判しに行くことにした。

 殺人未遂だと20年は出てこれない。寿命の短い獣人や人間は大幅に減刑されるらしいけどね。

 しかし、自分を刺した人をできるだけ長く外に出したくないという気持ちはよく分かる。


「そうでしょうね。私も減刑を国に求める予定でした」


「“でした”?」


「少し事情が変わりまして……。強欲の悪魔マモンが宣戦布告をしてきましてね。切り札に取っておこうかとそういう話になったのです」


「ほう」


 これは周知されていない情報のようだ。レイを見ると困惑したような顔をしている。

 馬車は外で預けることが義務づけられている。そのためここにいるアンジーの方も見るが、表情が変わらないのでよく分からない。


「しかし、貴女のおかげでこの領地に留まっていたようですし、牢屋に入れておく意味はあまり感じませんが」


「そうですね。私の功績の1つです。しかしそれをよく思っていない人間も多い。私は敵が多いですから」


 なるほど、35歳という若さで領主の地位につけた理由も、ジーンがよく気に入っている理由も分かる。

 周りが良く見えている。


「あのような設備では、ジーンなら簡単に出られるでしょうね」


「貴方もそう思いますか?」


「はい。それでも出ようとしないのは貴女の人徳のおかげかと。しかし、そういうことでしたら僕も幽閉されてしまうのでしょうか?」


「いえ、それは無いでしょう。貴方は伝説級冒険者ですしギルドに帰属先があります。実際それが理由で前回の魔王討伐に協力されたはずです」


「……それもそうですね」


 友人であったギルマスが亡くなってからはめっきり行っていないが。

 ……寿命で死ぬ前に2人で迷宮を踏破しに行ったっけ。結構ギリギリだった。

 それがアイツの望みだった、なんてもっと早く聞いていれば僕ももう少し本気で冒険してたよ。


「ギルドの方で貴方にマモンの討伐依頼が出されていると思います。そうですよね?」


 しばらく行っていないから分かりません。

 ……もしかしてそれで国家機密らしいことをさらっと僕に話したのか。


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