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3-1

「……なんだって?」


「だからその魔王討伐パーティにいたジーンは捕まってるって言ってんのさ」



 ▫



 僕達はベルギーに来ていた。


「しかしレイ、急にベルギーに来たいってどうしたんだい?」


「黙っていてすみません。ユージーンさんがどうやらここにいるようで……」


「ジーン?へえここに……」


「どうしました?」


「いや……なんでもないよ」


 ジーンとはそこまで仲が良くなかった。

 ……そもそも僕は、リズ以外とはさして仲良くなかったような気もしたが、気にしないことにした。

 ジーンとはその中でも反りが合わなかったのだった。

 しかしそれはレイには関係のないことだ。


「それでどこにいるんだい?」


「聞いた話によると領事館で勤めているようです」


「ふうむ。出世してないのか」


「あのー」


 外からアンジーの声が響く。


「どうしたんだい」


「ユージーンってセディスさんの仲間だった人ですよねえ。さっきもらった新聞によると領事館辞めてるみたいですよお」



 ▫



 そういうことでその辺りに歩いている人をつかまえて、事情を聞くとどうやら殺人未遂で牢屋に入れられているらしかった。


「殺人……?猥褻ではなく?いったいどうなっているんだ」


「俺に聞かれても困るわ」


「それもそうか。そのジーン……ユージーンが捕まっている牢獄がどこにあるのか良ければ教えてもらえないだろうか」


「さあ……でも領主のやつを刺したって話だからこの領地で1番デカいとこじゃないかね」



 ▫



「いやー本当に捕まっているとはね」


 僕達はその牢獄に来ていた。アンジーは外で馬車と共に待ってもらっている。


「冷やかしに来たなら帰れ……あれ、お前車椅子に座ってんのか?」


「ああ、うん。諸事情あって。この車椅子を押してくれている子はアシュレイと言うんだ。僕の世話をしてくれている」


 普段はレイと呼んでいるが、アシュレイというのが本当の名前だったりする。


「ふーん。よく見なくても美少年じゃん。オレにくんない?」


 ジーンがまじまじとレイを見ながらそう言った。


「別に僕の物じゃないからなぁ。レイ、ジーンの物になりたいかい?」


 彼がなりたいというなら、僕は止める術を持たない。

 世話係はアンジーもいるし、少し不便だが仕方がないさ。


「頷くわけないと思いませんか?」


「そういうものかな」


「俺のことをなんだと思ってるんですか」


「んー。……人間?」


「はあ……」


 レイがため息をついている。何か間違えたことを言っただろうか。


「冗談だっつうの。相変わらずの人間不信もほどほどにしとけよ、そんなんだから友達できねえんだぞ」


 ジーンがガラス越しに呆れた顔をしている。


「うるさいなぁ」


 友達はリズがいるのだ。それで十分だ。


「それでどうして捕まったんだい」


「……知ってんだろ」


「うん。領主を刺した」


 おそらく痴情のもつれで。

 僕の予想だと彼の呪いは嫉妬。

 ガラス越しだから確認できないが、きっとそうに違いない。


 そうというのも僕は彼の母親をよく知っていたし、彼はその母親によく似ていたからだ。


 呪い。魔王がかけたそれは、かけられた本人を望む姿に変える祝福だ。くだらないし最悪で、たいそう趣味が悪い。


「ここの領主は若くしてのし上がった優秀な女性だったはず。僕はそういう情報には詳しいんだ。それを刺したって君、どうかしてるよ」


「優秀どうこうじゃなくね?あいつの善悪なんて知らねえだろお前」


「そういう話じゃなくて、もう60にもなろうという男がおさな……若くて優秀な女性を刺すなんてどうかしてるって話だよ?少し謗られたくらい我慢しなよ」


「お前なんか勘違いしてね」


 そういう言い回しをしている。僕が事情を知らず俯瞰で見たらどういう結論になるか。こうなるだろう。当たり前だ。情報が圧倒的に足りない。詳しく経緯を説明しろという話だ。

 だがそうと相手は気づいてくれないし、気づくとも思っていない。

 別にそれでいい。自分が常に正しいなんて言うつもりはない。


「真面目な話をしようか」


 僕は口を開く。


「僕はね、君の幼い頃に会っているんだよ」


「……!」


 彼を見るが、なにやら驚き考え込んでいる様子だ。

 これは、僕の発言自体に驚いているわけではない……?

 とりあえず気にしないことにして続ける。


「生まれたばかりの君と、母親を引き離したのは僕だ。君はドワーフ達に疎まれるだろうと知りながらだ」


「……。分かってるよ。お前冒険者だろ。オレのお袋は悪いやつで、賞金かけられてたとかどうせそんなんだろうさ。村でもすげえ嫌われてたし」


「その通り」


 頷く。

 しかし少し予想を外した。随分落ち着いた様子だ。


「僕は君の母親を殺した。理由は君が言った通り、お尋ね者で賞金首だったからだ。しかし僕が見つけた時、彼女は妊娠していた。だから僕は君が生まれるまで彼女の世話をして、そうして君が生まれたから首を切って殺した。君はドワーフの里に連れていった。だからさ、君が知らないことも僕は知っているんだ」


「なんで俺が生まれるまで待った?」


「手続きが面倒でね。子供も殺すと僕が今度は犯罪者だ。生け捕りにすることもできるけど賞金が手に入るかは疑問が残る。僕の時間は人間よりもはるかに余裕があるし5ヶ月くらいなら待てるさ」


 横に立っていたレイが微妙に顔を顰めた。

 意図的に隠している話があると勘づかれたらしい、歯がゆそうな顔だ。

 付き合いが長いので相手のことはだいたい分かる。お互いに。

 長いと言ったってせいぜい2年くらいだが。とはいえ毎日昼夜共にすればそれなりの時間だ。

 少なくとも今の僕にとっては。


「俺の母親はなんて言っていた?」


「最初の人殺しは嫉妬によるものだったって言ってたよ。君と同じだね?」


「な……!」


 驚愕するジーンを横目にレイがいっそう顔を歪ませた。


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