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アビゲイル

「僕が自由だって?はは。そう見えたなら良いことじゃないか」


「違うって言うのかよ。お前は俺よりずっと自由だ。現に俺の言うことだって聞いてねえじゃねえか」


 なにやらジーンとセディスが喧嘩しているようだった。

 この2人はどうやら折り合いが悪いらしい。


 お互い、他人のことを必要以上に気にしがちな繊細さがあるからそこが見てられないというか。違うか。これは私の話だ。


 ジーンはこのパーティで誰よりも感情的だし、セディスは誰よりも性格……いや、性質が最悪だ。第一印象だと分かりにくいが。

 しかし第一印象通りのこともある。ジーンは楽しいことが大好きで先のことを考えないところがあるし、セディスは堅実で臆病なところが確かにある。


「自由とは。他人に束縛されないこと?僕はそうは思わない。自分自身に縛られてちゃそれは自由と呼べないね。つまりさ、自由というのは好きなことができるということだ」


「お前俺のこと馬鹿にしてるだろ」


「僕は誰のことも見下してないよ。僕は嘘はつかないし」


「……それは確かにそうだな、俺が悪かったわ」


 あっさりと和解したようだった。

 結局お互いにあまり興味がないのだろう。


「ジーン。セディスと何を言い合っていたの?」


「うお、アビー。近い近い」


「……私の口はくさくない」


「そういうことじゃなくてだな。そもそも肉食の人間の口はだいたいくさ……あれくさくない」


「ふふん。まあ言い争っていた内容はどうでもいい。私は予言ができると言ったと思う」


「いや言われてねえけど……」


 あれ間違えたか。

 誰に言ったんだったか。

 人間は皆同じような魔力をしていてよく分からない。

 セディスは魔力がからっきしだからはっきり分かる。魔力がないなんて不自由だろうと思うのに、あれで器用にやっている。

 他はと言うと、かろうじてアルは分かる。なにやらレイヤー、層が違う感じがする。


「ジーンとセディスはどうやら因縁がある」


「ほお」


「というか正直に言ってしまうと、セディスはジーンの母親の仇」


「お、おう。ってそれ予言じゃなくね?」


「……。いや、セディスがジーンにそうやって言うところを見た。どうする?」


 母親の情報を教えてあげようか?と聞いているセディスが見える。

 牢獄のような場所だ。おそらくジーンが捕まっている。まあ捕まりそうな人間ではあるし、驚きはしない。

 しかし、自分が優位に立ってから重要な情報を渡しに来るのは実にセディスらしい。

 そしてそのつまらない堅実さを崩しにかかるのが私だ。


「どうもしねえよ。アイツは昔冒険者だったんだろ?そうやって殺されたってことはつまり俺の母さんは……。村でも評判悪かったしなそういうことなんだろ」


「なるほど」


 随分察しがいい。初めて見る1面かもしれない。

 未来のセディスも同じように言われて驚いているのかなにやら考え込んでいる。そして口を開く。


『僕は君の母親を殺した。理由は君が言った通り、お尋ね者で賞金首だったからだ。しかし僕が見つけた時、彼女は妊娠していた。だから僕は君が生まれるまで彼女の世話をして、そうして君が生まれたから首を切って殺した。君はドワーフの里に連れていった。だからさ、君が知らないことも僕は知っているんだ』


 相変わらず気の弱そうな顔で、しかしそれに見合わぬ残酷な言葉を並びたてる。

 セディスは人間性と呼べるものがほとんどないのだと再確認した。


『なんで俺が生まれるまで待った?』


『手続きが面倒でね。子供も殺すと僕が今度は犯罪者だ。生け捕りにすることもできるけど賞金が手に入るかは疑問が残る。僕の時間は人間よりもはるかに余裕があるし5ヶ月くらいなら待てるさ』


『俺の母親はなんて言っていた?』


『最初の人殺しは嫉妬によるものだったって言ってたよ。君と同じだね?』


 ……。


「どした?」


「なんでもない」


 ジーンは殺人で捕まるのか。そうは見えないが、ここから何かが起こるらしい。


 ▫


「セディス。貴方は何を知ってる」


「へ?」


 間抜けな顔をしたセディスにため息をつきたくなる。さっきの残虐さはどこに行った。

 そう思いつつ、ユージーンのことを聞く。あくまで、何か関わりがあるのかということだけだ。


「ジーンのことか……ふむ。ここだけの秘密だけどあの子の母親は盗賊団の団長だったんだよね。結構強かったよ。複数の混ざり物なのにその力を上手く使いこなしてたし」


「それを倒した、と」


「そりゃあ……僕達はそこらの混ざり物ごときに負けるような耐久してないから」


「セディス。まるであなたは悪魔みたいだ」


 言い回しにどことなく悪意を感じる。傲慢さでは無い、悪意だ。

 嫌な肌触りのする気味の悪い悪意。


「……久しぶりに言われたな」


 そう言ってセディスは困ったように笑った。

 その笑顔からは相手に好感を抱かせるものしか感じられず、それが余計に不気味さを演出していた。

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