2-15
王様は普通に負けた。しかしそんなことは彼も分かっていたのだろう、どうでも良さそうな顔だ。
「なぜ王城があのような場所にあるのか」
なぜ巨人が出現したのか。
湖の前だ。
鏡の宝物でも持っているのだろうか。それを湖に大きく反射する。くだらない話だ。
ここに立つ王は数ある現身の1つでしかない。レイもそう言っていた。きっと彼はゼンと顔を合わせる時も、本体を使わない。そのための鏡と湖だ。
これがあるからこそ、この人間はここまで傲慢になれるのだろう。
僕は嫌いじゃない。
「巨人、君さ。舐められてるんだよ、分かるかい?こんな決闘対等ではない」
僕はやる気のなさそうな巨人を見上げ、そう言った。
「相変わらず酷いマッチポンプね。こういう時は本当にセディスが神族だって実感するわ」
リズが巨人に聞こえないように小さい声で言った。
「……」
僕だって傷つくこともあるんだぞ。
……しかしこのやる気のない巨人なら僕でも洗脳できそうだな。
「舐められた君は、今すぐにでも国への侵攻を始めるべきだ。だろ?」
巨人の目をよく見ながら問う。
「ああ、その通りだ」
巨人はぼんやりとした様子で頷いた。
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「……!今すぐやめろ!やめさせろ!!!!!」
何かに気がついたのか王様は狼狽えたようにそんなことを言った。
「どうして?それをしてトリ様になんの得があるのですか」
レイが言う。別に国王を咎めているわけではない。ただ気になっているだけ。レイはいつだってこうだ。理屈っぽく、道理というものに疑問を抱いている。
それが英雄たる彼のアイデンティティなのかもしれない。
やめさせろなんて偉そうなことを言うが、元はと言えばこの人間のせいだ。人1人では扱えない道具を独占し、巨人を捕らえ、冒涜した報いだ。
報いは受けなくてはならない。僕もそうだ。
「願いを聞いて欲しいならば、それ相応の対価が必要だ。だって君は僕よりはるかに弱いのだから」
王の顔が青くなる。
いまさら何を焦っているのか。
ああ、本体が死にそうなのか。王城はよく、巨人が反射するようだから。
思わず笑いながら首を振る。その動作のせいで前髪が目から離れるが、今はどうでもいいことだ。
「お前……!その目、その物言い、神か!?」
「そうかもね」
「なんでこんなことを」
「さあ」
別にそれを知る必要はない。どうやら君は自分がなんだってできると勘違いしているようだから、1回理不尽を味わってみるかとそういう話だ。
これを言うと効果は薄くなるだろう。
もちろん国民に危害を与えるつもりはない。
そして僕の行動が正しいとも思っていない。
……ただ、疲れてしまったのだ。会話だけで説得できるほど僕に余裕はない。これも怠惰だろうか。
「どうやったらこれを止めてくれるんだ」
「ははは。僕には止められないよ」
「な……」
「よく考えてごらん。賢い君なら分かるはずだ」
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「ええ、献金は良いことです。それがなくても私はお助けしますわ。だって私は」
大きい音が鳴った。
投石。
「【石】」
「《ジャイアントキリング》」
リズか大きい石を宙から投じていく。もうそこからは蹂躙だった。
…………。
▫
「そんなこんなで解決したのさ。ハッピーエンドだね!」
「前より雑になってない?」
「理不尽だと思うかい?」
「いいえ。そういうものだもの」
僕は、リズに感謝の意を伝えようと、ジュースを片手にそんなことを言った。リズも嬉しそうだしこれで良いのだろう。
そういうことでゼンに見送ってもらい、僕達は1回帰ることになった。
「そういえばなんだったんだろうねあの吸血鬼」
「普通に親切だったのかもしれませんよ。国があんなことになっていたわけですし」
アンジーが言う。
国があんなこと?忠告される程の問題が何かあったのだろうか。
「?」
「そういえばあの巨人は帰してよかったんですか」
レイが聞く。
「問題ないよ。故郷に同族がいなくなって探しに来てたなんて可愛い話じゃないか」
「結局同族なんて幻だったのだけどね」
「ははは」
機嫌の良いリズと軽口を叩き合い、別れを告げた。
そしてリズはそのままテレポートで帰した。彼女も忙しいからね。
「さて、帰りはせっかくだから違うルートで行こう!」
「いいですね……ベルギーなんてどうですか?」
「いいよ」
ベルギーかー、行ったことがないな。
どんなところかな。
あ、そうだ。
「レイー、次は誰の話を聞きたい?」
「そうですね……さっき会ったアレキサンダーさんの話が聞きたいです」
「おおーゼンか。いいよ」




