2-14
「ということで、その巨人はマイクといっしょに帰ってもらって、北方の巨人は様子見ですね。鏡移しで増えていた巨人とは完全に別物です」
レイに思ったような戦いをさせてあげられず少し不満だが、とりあえずはこれで解決と言える。
「……え?マイケルを解放したの君なの?」
国王が焦ったような声を漏らす。
「?なにか問題でも?」
「い、いや、マイケルは犯罪者だ。機密問題を流出させようとした。国際問題になるよ?」
「ああ、それは大丈夫です。持っていた紙は全てここにありますから」
片手に紙の束を取りだし、左右に振る。
捕まったあとも抜け出して集めていたらしい。
「僕の所属ってどこになるんでしょうね…ギルドですかね?」
国際問題とは言うが、僕は国から逃げ、戸籍も満足にない無法者だ。
なら、僕の責任はギルドにあるのか?と考えるが、ギルド長も代替わりしてしまったし、今の僕にギルドとの強いつながりはない。きっと庇ってはくれないだろう。
「でもそうですね国で語るなら……君達に勝ち目はない。ははは、結局強い者は何をしてもいいということだ。本当にアホらしい」
乾いた笑いが出る。そうだ、僕達は強いのだ。強いから何をしてもいいし、人間は弱いから僕達から制限を受ける。僕達はあんなに自由に振る舞っているのにね。
「同盟を組むなんて不可能だよ。あまりにも力の大きさが違いすぎる。でもそうだな……核兵器をもっと強大にできたらその時はきっと」
言っていて、ないなと思った。
人間が強大な力を持ちそうになる時はその芽を潰しにかかる。僕達はそういうものだ。
「アレックス。君バラしたな!?」
「そうだな。言ったらいけないなんて言われてないからな」
ゼンは目を逸らして仏頂面をしている。
ゼンは前とあまり変わりはないが自身の欲望に少しだけ従順になった。おそらくあのカナという少女もそれが理由だろう。僕をぶん殴りたいと言われて仲間にしてしまったのではないか。
本来、他人に懐くのが早いタイプだ。
そして悪魔らしく、気に入った相手にはその意にそぐわないことをして試すのが好きだ。
人間に馴染みにくかったのも頷ける。
「さて王様。いっしょに北方の巨人を倒しに行きませんか?」
▫
問題の北方の巨人は倒せていない。あんまり気にしなくてもいいとは思うけど、一応約束だ。
「ついてきてくれるとはね」
国王も巨人捜索についてきてくれていた。
「……いったいどういうつもりだ」
「王様は賢いから一般人のフリをするのが上手い。でもさ、民草のことは何も知らないんじゃないかい?表面上だけ見てこういうものだって思ってるんじゃないかな」
「それがこれとどう繋がるんだ」
「さあ」
それを知るのは僕ではなく君だ、と言おうか迷って言うのをやめた。
僕はどうやら人によっては悪魔みたいに見えるらしい。悪魔を見た、と思った後にそれを味わうのは少し気の毒かと思ったのだ。
結局僕だってリズがいなければロクに友人はいないことだろう。
90年近く生きてきて友人と呼べそうな人間は3人。それで十分なのかもしれないが、やはり少ない。
「さて巨人はどうやって倒そうか。王様、なにかいい案はありませんか?」
「は?」
「ああ、一騎打ちとかしてみますか?」
僕はこの王様のことを結構気に入っていた。
そうじゃなければゼンに会えた時点でこの案件を投げている。
今は無理でも将来きっと成功できるだろう、その確信があった。僕の加護をあげてもいいくらいだ。
「巨人にそこまでの頭があるとは聞いたことがないが」
「ははは」
「……」
リズが笑いをこらえるような仕草をした。
そして僕が何をしたいのか理解したらしい。微妙な顔になった。否定はしたくないが肯定もしたくないといった顔だ。
「いざという時はリズ、頼むよ」
「そうね……そういうことね……貴方最悪だわ」
「でもリズこういうの好きだろ?」
「……」
片眉をあげたあと、嫌そうな顔をした。
リズが本当に嫌がる時は激昂した“フリ”をするので心の底から嫌がってはいるわけではない。と思う。
「どういうことなんですか?」
レイが聞いてくる。
アンジーは……何を考えているかよく分からない。表情はいつも通り変わらない。
「それはね」
一息つく。
「巨人討伐は最初からリズの独壇場ってことさ」
▫
「決闘を聞き入れないのであればこの国を滅ぼす」
北方の巨人は何やら拗ねた様子で三角座りをしていたが、僕達が近づいて来ることに気がついたのかこちらを向いてそんなようなことを言った。
「うんうん。この王様が決闘するってさ」
「……言ってないが」
「ああ。やろう」
巨人が胡乱げにそう言った。
やる気がないな。
つまらないとは思うが別にそれでも構わない。結局僕が見たいのは英雄譚ではないのだから。
「名乗りは……いらないか。蛮族風情に名乗る名など無い」
「それでいい」




