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回想②

 マイクのことを思い返す。途中まで魔王討伐に同行していた男だった。



 ───────



「マイク。君さ、僕の正体知ってるだろ?というか僕だけじゃなくて他の仲間も。それが悪いってわけじゃないが、どうにも怪しい」


 僕は、アルに頼まれてマイクがスパイかどうか聞きに行くことにした。確かに怪しい言動も多かったが、僕はいまいち疑いきれずにいた。

 人選に関しては、僕は不死身なので妥当な判断である。


「……『一式王鍵』」


「正気か!?‘剣’、‘羽’、靴は…そんな暇ないか。仕方ないな」


 マイクが僕に対し攻撃行動を取ったので、僕の宝物庫……ってほどでもないがそのような場所から、ここに来てから集めている武器を探す。羽を取り出し装着し、剣を手に持ち構えた。

 マイクがこちらに向かってくる。僕は剣で受けとめた。


「……僕に勝てるわけがないって分かってるかい?僕が何者か分かっているなら君とは素質からして別物だと分かっているはずだけどな」


「お前の言ってることはいつもさっぱりだわ」


「君の言いまわしも僕にはよく分からない。おあいこだね?」


 そう笑いかけると、マイクは渋い顔をした。

 珍しい表情だ。いつもはニンマリ笑っているか大袈裟に不機嫌そうな顔をしているかのどちらかだった。それだけ余裕がないのかもしれない。


「……今くらい前髪をあげてみろよ」


「なんで?いやだよ」


「あのなあ。……はあ、オレより人間性ないやつとかほんと久しぶりだわ。ギリシャのやつらって、力は強大なくせに人間っぽいから厄介なんじゃなかったのかよ」


「力が強大か……」


 僕達は概念そのものだ。強大と言ってしまえばそうなのかもしれない。しかし、抽象的な概念でなければできることは少ない。

 そうして僕はかなり具体的な類の概念だ。


「僕は正直弱い部類だ。そうでなければ人間の作った武器なんて使わないさ」


「んなこと言われてもな。だって俺じゃ勝てないんだろ?」


「そりゃあそうだよ。そこで提案なんだけど、君、今ここで全てを自白するかパーティから離脱するか選んでいいよ」


 銃で打ってきたので、羽でガードする。

 相手の行動をよく観察する。


「……選ばなかったら?」


「?普通に皆と相談するよ」


「ああ……」


「リズもそれでいいって言ってたし、うん。これでいいんだろう」


 北欧だけならバレてもいいということだ。他の国にバレたら不味いかもしれないけどね。


「しょうがねえな、パーティは抜けてやるよ」



 ▫



「マイクがいなくなった理由はだいたいこんな感じだよ」


 ということで僕はパーティメンバーに事情を説明していた。


「……それ野放しにして良かったの?」


 アビーが訝しげに聞く。

 僕もそう思うが、リズの判断だ。それが間違っているとは思えない。


「どうだろう。でもこれ以上情報を取られるよりかは良かったんじゃないかな」


「そういうもんですかね。僕の情報は……まぁ確かにそうかもです」


「しかしどうやって情報を集めていたんだろうね」


 これが1番の謎だった。

 話しかける前に、部屋などくまなく散策していたが、結構情報が集められていた。見つけ次第燃やしはしたが、あれで全部とは思えない。

 どうやって部屋に入ったかって?……僕も一応このパーティの斥候だからね。そのくらいお手の物だ。


「僕は自分で話しちゃいました」


「私もそうね……」


「わたしは、別に話していない。うかつじゃないから」


「は?いやオレが隠してることなんてねえし」


「俺は……今更知られて困るような身分とかないからな」


「僕は……うん。身に覚えはないけど、勘づかれていたかもしれない」


 僕の目をひどく気にしている様子だった。

 僕は隠していることが多いからそういうことも起こる。あとアビーと違って結構迂闊だ。

 解剖させてくれ、って度々言っていたのがアダになったかなぁ。


 称号は円環の巨人だった。円環が何を意味するかは分からないが、僕に対したまに怯えた様子を見せていた。おそらくだが、彼は僕に殺されたことがあるのではないか。とすると、能力は復活か過去改変といったところだろうか。


「マイクに何知られてしまったのか、今話せるだけの情報をとりあえず共有しておいたほうがいいかもしれないわね」


「じゃあ僕から行こう」


 出せる情報の量を僕から決定する。

 それが最初に話す人間の特権だ。


「僕は今家出中の身だ、一応王弟ってやつになるのかな?あと、解剖と解体が好き。そのために人間と交友関係を持っている。そして僕はギルドからの派遣だけど……ギルド長には彼が若いころに1つ大きい貸しがある。命の恩人ってやつだね。だからギルドを動かしたいなら僕に言うといいよ、少しは融通を利かしてくれるさ。さて、この中で皆の知らない情報はあったかな?」


「私が知らなかったのは王の弟ってことくらいね」


「……なるほど、ギルドから派遣されたのはセディスか」


 リズとアビーがそれぞれ言う。

 そうだね、マイクに確実にバレていると言えるのはこのくらいだと思う。


「次は私。そうね、マイクは私のことを聖女様だと思っていたみたいだからつい口を滑らせてしまったけど、私は聖女様じゃないわ。当たり前だけど。宗教関係者だってことは皆知ってると思うけど、私は前の街の投票では枢機卿候補にまで選ばれた。見送られたけどね。権力は持ってるほうよ。口利きが欲しいなら私が頼んでもいいわ」


 ……だいだい知っている。それに1番重要な、魔王討伐を成功させられたら枢機卿になれるということを言っていない。リズもなかなか用心深いらしい。


 こうして各々情報を出し合っていった。

 初めてこの時、仲間達のことを知ろうと意識したのかもしれない。

 しかしそれから、このメンバーで境遇を話す機会は二度と訪れなかった。


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