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「ありがとうレイ。君のおかげで無事大学を卒業できたよ」
魔王討伐に参加するために休学していたのだ。
あの呪いのせいで歩くこともままならない僕を助けてくれたのは、あの時助けてくれた黒髪の少年だった。
「俺はもう必要ありませんか…?」
「いやいや、なんでそうなるんだ」
レイは少し早とちりなところが玉に瑕だった。
それとも僕から離れたいのだろうか。それは困る。
とはいえ英雄になるはずだった少年を、運良く魔王討伐に加われただけの愚物が召使いみたいに扱っているのは少し…いや、大きな罪悪感を感じる。
そろそろお別れを言うべき時なのかもしれない。
「今君にいなくなられてしまっては、せっかく身につけた知識も使えずのたれ死んでしまうよ。もう少しだけ付き合ってもらえないだろうか」
「いいんですか!?ぜひ!!」
▫
「卒業旅行に行くことにしたよ」
レイと二人で。
友人達からも誘われたが、迷惑になると僕の心が痛いので断らせてもらった。
「いいですね。どこに行くんですか?」
「ここだよ」
地図を取り出して、指を指す。
「なるほど…遠いですね?でもこれくらいなら大丈夫です!俺が走ってたどり着いてみせます!」
「え!?…いやいや、馬車を使うよ。こんなに遠い距離を君に走らせられない」
「…。俺馬より早いですよ?」
「え……?」
▫
本当にたどり着いてしまった……。
僕を車椅子ごと持ち上げて山を1つ越える時はさすがの僕も慌てた。
そしてそのまま成し遂げてしまったのだ。
英雄ってすごい。
「ごめんなさい。2日もかかってしまって…」
「いや…十分だよ。そもそも旅行なんだ、ゆっくり行くつもりだったしね。それより君、ここ2日不眠不休で水しか飲んでいないだろ?早く宿でも見つけて少し休もう」
「そうですね…トリ様も休ませなくてはいけませんし」
「だから様はやめてくれないかな」
「え!?お父さんって呼んでもいいんですか!?」
「ダメだよ」
なんでだよ。
そもそもレイの父親はまだ健在だ。
敵に回したくもない。
レイはそのことを知らないけど。
……いつかは知らせなくてはならないと思っている。
「そうだね…とにかく僕も疲れたから宿を探そう」
正直僕は一切動いていないし、ほとんど寝ていたから疲れていないけどね……。
こうでも言わないとレイは休まないのだ。
僕の友人達に対してもこの調子だったのだから生来の性質なんだろう。
全く英雄は人格まで奉仕の精神でできているとは恐れ入る。
▫
「今回の目的はただ1つ。昔の仲間に会うことだ」
この辺境の教会に、聖女エリザートは閉じ込められている、らしい。
魔王を討伐し、功績も人気も高い彼女へのこの仕打ちのせいで、教会は多くの避難を浴びることとなった。
もしかすると彼女も僕と同じく何らかの呪いを受けている可能性もあるのかもしれない。
学業が忙しくて確かめにいけなかったがちょうどいい機会だ。パーティメンバーで1番仲の良かった彼女に会いにいこうとそう思ったのだった。
「なるほど…魔王討伐の方に…」
少し考えこんでいる。
真の英雄として思うところがあるのかもしれない。
「そう心配しなくていい、彼女はまぁ少し年が若すぎるが良識のある女性だ」
「年が若いって何歳くらいですか」
少し辟易とした目を向けられる。
しかしなぜそんなことを聞くのか。
「えーと…あれから3年経っているから31くらいかな?」
「…種族は?」
「人間だよ」
「やっぱり!!いいですか?人間は31では若いとは言いません!」
「ええ…?おかしいな。人間もこの前近くの領主が就任した時35は若いって言っていたはずだけど…」
聡明そうな女性だった。
あれなら安心だろう。
「ぐっ…。ってそうじゃなくて。人間はすぐに歳をとるんです。何歳くらいまで生きると思ってるんですか?」
「…。スペックを最大限活かせば150くらい?」
そういえばしっかりと確認したことはなかった。
「ええとですね…人間の平均寿命はだいたい50年くらいと言われています」
「へえ…儚いね」
平均ということは産まれてすぐに死ぬ子供も含まれているんだろう。実際はもうちょっと長いと思われる。70とかかな。
本当に寿命が50年だったら僕は人間換算して人生二週目になるんだろうか。
「俺が言いたいのは、人間の1年を神のそれと同じだと思わないで欲しいということです…貴方が瞬きしているうちに人間なんてすぐ死んでしまうんですよ!」
「僕をいったい何歳だと思ってるの…」
まだ僕は幼いからそこまでではない…はず。
見た目は人間で言う19歳くらいらしいが。
「俺が言いたいのは!1人だけでなく、パーティメンバー全員に会いに行きましょう!ってことです!」




