2-11
「そこまでです」
よく通る声が僕に届く。
僕の腕を半神が掴んでいるようだ。
動かせない。
……。
「俺と約束しましたよね?俺を解剖するのは俺が死んでから」
「うん、約束した」
▫
「いや……まさか怠惰でここまで何もできなくなるとはね……」
ゼンの方を少し見るが、よく分からない表情をしていた。
共に冒険していた時はあまり表情を変えていなかったので、表情による差異が分かりにくいところはある。
「何も…?」
リズが困惑したような顔をした。
さっきのが怠惰の結果だが。
「それでゼン、僕達は戻ってもいいかな?」
「行けカナ」
「へ?」
一人の少女が僕の目の前に来たと思った瞬間顔を殴られた。
吹っ飛ぶ。……歯が1本抜けた。別に抜けてるように見えるだけだけど。
瞬きすればほらこの通り……いや、しばらくはこのままにしておこう。
車椅子に座っていなくて助かった。あれは壊れたら直らないからね。買い直すお金に関しては問題ないが、特注品だ。壊れたら1回帰って作り直してもらわなければいけない。そうすると、もう遠出する気分じゃなくなってそうだ。
「あれ君」
カナと呼ばれた少女は黄色の目をしていた。
「生き残りがいたんだね、全滅させたと思ったんだけどな」
神に仇なす一族らしく、僕の兄と父に依頼が来ていたのだ、滅ぼしてほしいと。
ちょうど手の空いていた僕が一人で赴き、その一族を全滅させた。
それだけである。
「あはは、間抜けな顔」
笑っている彼女を見ながら思う。僕があの一族を滅ぼしたのは70年くらい前だ。彼女は人間のはずであり、生き残りであるとすれば少女の見た目をしているはずもない。
解析。
「ああ、子孫か。なんだ」
大して気にしなくても良さそうだ。
彼女も僕の歯を抜いて満足がいっているようだからこれでいいだろう。
「セディス、大丈夫?」
「もちろん。ああ、そういえば人間は歯が抜けたら元に戻らないんだっけ?不便だねえ、エリクサーあげようか?」
「え?……い、いやいらないわ」
そう小声で話し合った。
リズはいつだって冷静だ。相手が落ち着いてきたことを確認して、まず僕に話しかけにくるのだから。
問題はレイである。
カナと呼ばれたその少女に、天秤を持って近づいている。
「『審判を行う』」
彼の目を使えば、何もする必要がないとわかりそうなものだが、彼はどうも感情が制御できていないところがある。天秤を使って落ち着くのならそれもいいだろう。
「……」
沈黙したレイの肩に手を置く。
「とりあえずゼン、僕達は結局帰っていいのかい?」
「……」
こちらを睨んでいる。ふむ、心なしか笑っている?
気が済んだなら何よりだ。
「どうです王様」
王様に聞いてみることにした。
「いいんじゃない」
王様はどうでも良さそうにそう言った。
▫
「ただいま」
アンジーの元、つまり巨人のいたところに帰ってきた。
「おかえりなさい。あれ?セディスさん歯が抜けてませんか?」
「ああ、忘れてた。瞬きしてみて」
「はい。……おおー、元通りになってる!!」
さて、巨人はどうやらゼンが理由ではなかったらしい。どうやら彼には悪感情を持たれていて、連れてくることもできなかった。
「だとするとこの巨人はいったいなんなんだ…?」
「王城にいた巨人はおそらくこのイデアを映し出した幻想のようなものだった。と、するとつまり……?」
「うーん?」
何もわからなかった。
「理由はひとまずおいておいて、今回の魔物騒動はこのイデアがここにあるからとかそういう話なんじゃないですか?」
アンジーがそう言った。
「ああ、そうかもね。じゃあそのイデアが元にある場所にどうにか帰ってもらえばいいわけか」
巨人のイデアから魔物ができたと。
複数のイデアからできたとは思いたくない。
違うイデアからだって似たようなものができることもあるさ。
「どうやって?」
「さあ……?」
「……どこにあるべきかなんて誰にも分からないんですから、あって違和感のない場所に移動させるしかないんじゃないですか」
「なるほど」
アンジーが困ったように言う。
彼女は発言するのを少し躊躇っているが、話が進まない僕達に嫌気がさしたのか会話に参加することにしたようだ。
「セディスさん、巨人の知り合いがいると言っていましたよね?」
「言ったね。……でも巨人と言えばやはり北欧だ。そして北欧と言えば」
「マイク」
「ああ、そういうことだ」
マイクに会えさえすれば、彼にこの巨人を連れて行ってもらうことも可能だろう。
「でもマイクがどこにいるのかなんて私知らないわよ」
「もちろん僕もだよ」
「とりあえず北欧に向かいますか?」
「いやあ…そもそもこの巨人をどうやって動かすのかって話だし……」




