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2-9

「巨人?何も見えませんが」


 アンジーがそう、困惑したように言った。


「僕にも見えないよ。リズは?」


「私にも見えないわね」


 と、いうことは、だ。

 レイの片目を見る。彼の機械でできた目は真実を見通すことができる、彼の王がヘファイストスに作らせた特別な目だ。


 真実を見通す目と言っても種類はある。

 イデア、それを見ることができると僕は解釈した。そう、レイだけがそれを“正しく”見ることができる。


「イデアにのみ存在する巨人…?それっておかしくないか?」


 イデアというのは概念だ。それがそうであるという手本というか支柱だ。どういう仕組みかは知らないが、プラトン哲学として有名なそれが、レイに見えている物に近いのではないかと僕は思っている。

 そしてそれにどれだけ近いかでレイは物事を判断する。物覚えがいいのもこれが理由だ。


 なんというか、“ここにいる”ものを見ているわけでは無いのだった。


「イデア?ねえセディス、貴方今イデアって言ったわね?」


「言ったよ」


「イデアって言うのはね、神の中にあるの?分かる?」


「は?」


 何を言っているんだリズは。いつものとんでもない嘘だろうか。


「……ま、まあそうやって言われてるのよ」


 僕が思わず胡乱げな態度を取ってしまったからか、リズが少し目を逸らしながらそう言った。


「その神の中にあるイデアが…移動してきたとしたら?」


「ああ、なるほど」


 レイによると、彼にはその元となるイデアにどれくらい似ているかがわかるらしい。

 つまり、元がある。そう仮定するのだ。ここでは神の中にあるかは置いておく。

 それを誰かが持ち出した、またはなんらかの理由でここに落ちてきた。リズはそう言いたいのだ。


「そうだとしても1つ疑問点がある。イデアというのは魂に訴えかけてくるものだ。もし巨人のイデアが存在するとして、それを目に入れたら僕達はそれを否応なく“巨人”であると認識するはずだ」


 見えないなんてことはない。


「イデアって普通は認識できないのよ。認識できないから探そうとするの。つまり、それがイデアだとするならば、“探求して見つけなければならない”」


「……」


 神話というものは時に、定説や意思が反映される。

 今回もそうだということか。

 人間は物事を見る時天上界にあったイデアを想起している。地上に降りた人間は忘却の河を渡り、それを思い出せない。つまり認識できない。


「これだから学者は。シンプルに行きましょうよシンプルに」


 今まで黙っていたアンジーが口を開く。


「アシュリー。君は物事の道理が分かるんだろ?それで君にはその巨人は“巨人”とどのくらい一致しているように見えるんだ」


 続けて、真剣な表情でレイに問いかける。素はそんな口調なのか。少しギャップがある。


「え?ああ……ええと。……、100、パー、セント……!?」


「なるほど。なるほど。それで私達は忘れているから分からないってことですね?分かってきましたよ。しかしなんで神であるセディスさんまで忘れているんですか」


「ああ、……一応僕も忘却の河を通ったってことかな」


 宇宙という、ね。


「……?よしアシュレイ。その巨人の特徴を教えてください」



 ▫



「見えた……!」


「へえ。山が巨人に。……これ依頼されていた巨人とは別物じゃないかい?」


 僕達に見えない物をいったい誰が目撃したというのか。

 というかこれを倒した日には酷いことになるんじゃないだろうか。

 この世界から巨人が消えるということだ。


「そうね。でもきっと関係はあるしこれも対処しなくてはいけないと思うわ」


「……」


 やっぱり僕達2人だと戦闘に向いてないよ……。

 お互いに話が長くなるし、どちらも明確な答えが出せない。こういう時は思い切りの良い判断を下せる誰かが欲しくなる。

 他の仲間とも無性に会いたくなっきた。

 リズが今でも1番仲がいいし大好きなのは変わらないけどね。こんなに仲良くなれた人間は、いや人間に限らずともこれが初めてなのだ。


「とりあえず1回帰らないかい?ゼンを連れて来た方が良さそうだ。街の人も気になることを言っていたし」


「そうね。いい考えだと思うわ」



 ▫



 1回行ったところは僕の能力で帰ってこれる。

 アンジーと馬車は元の場所に置いてきた。すぐ帰るつもりだしね。

 そういうことで王様の前に来ていた。


「へ?」


 王様は王様らしくない間抜けな顔で椅子から転げ落ちていた。


 ……近くには艶やかな黒髪と恐ろしいくらい整った顔が特徴的な、背の高い男がいた。


「ゼン!ゼンじゃないか!?久しぶりだね!!」


 久しぶりに見た半悪魔に少しテンションが上がる。


「ちっ」


 彼は僕とリズを見て、それから舌打ちをした。

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