2-8
「巨人を倒すにあたって方針を考えようと思う」
「……石でも投げとく?」
「ダビデですか」
相変わらずレイはよく勉強してるなぁ。
「1番手っ取り早いのは僕が知り合いの巨人を呼んで踏み潰してもらうことなんだけど……それじゃあ面白くないからね」
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「そう。あれから大学に行っていたのね。……そういえばセディス、貴方は魔王討伐に繰り出すまでは一体何をやっていたの?冒険者をやっていたっていうのは知ってるけど…」
「そうだなぁ。お気に入りの吟遊詩人のパトロンをやったりとか、そんな感じかな」
「王族はやっぱり違うわね……」
「…トリ様は王族なんですか?」
レイの言葉を聞いてリズはしまったという顔をした。
僕がレイにこの話をしていないと思っていなかったのだろう。うん、僕に非があるなこれは。
「いや、別に隠してないよ」
そう言いながらアンジーが聞いていないことを確かめる。レイにいろいろと話しておかないとね。
アンジーは未だに御者をやってくれている。
「僕が神族だっていうのはリズもレイも知っていると思うけど、僕はその神族の国を統治する王様の弟でね」
「トリ様は神族というだけでも恐れ多いのに、その上身分が高い人だったんですか!?」
君はその王様の息子だぞという言葉を飲み込んだ。
「別に大したことじゃない。兄弟はたくさんいるし、彼には子供もたくさんいる。僕はそんなにたいそうな身分ではないよ」
「そうね。王位継承権なんてないも同然。とくに神族だものね、でその吟遊詩人なんだけど」
「もちろん絵画にしてもらったよ!ほらこれ!」
空間を切って取り出す。
僕がお気に入りの画家に描いてもらったものだ。
僕を描きたいとかなんとかよく言っていたが、僕の目を3秒見た時点で発狂しそうになる精神性では難しかっただろう。僕は彼にそう言ったし、きっとそれは彼の感受性の高さを示している。悪いことじゃない。
「おお…確かに美形ね。やはりセディスのセンスは信用できる。……ん?」
「どうかした?」
「このタッチって……いやまさか……」
「分かるかい!?これはだね」
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「着きましたよー。あれ、アシュリーが不機嫌そうじゃありません?なにかあったんですか?」
言われてみると、確かにレイの顔が曇っている。
「いえ別に」
レイはそう言って、天秤を抱きかかえながらそっぽを向いた。
どうやら僕が買ったそれを気に入ったらしい。
そういうつもりではなかったがレイにあげるのも悪くない。
「ふーん……」
と、アンジーもどうでも良さそうな声色で言った。顔色は変わらない。これはいつものことだ。そうして彼女は、僕が道中買ってあげた英語の詩集に目を落とした。
「あれ?その絵画は吟遊詩人ですか。珍しいですねー」
馬車から降りてきたリズが持っていた絵に気がついたアンジーは顔をあげてそう言った。続けて。
「うーん、その服装の年代と地域、顔、絵のタッチから類推するにクルラ・カーステレオですかね?合ってますか?」
「……え!?ああ、うん。合ってるよ。よくわかったね」
少しうろたえて動いてしまった。僕を移動させてくれているレイの顔を見るが、特に気にした様子はなかった。
「私こういうの当てるの得意なんですよ!それはともかく、有名な吟遊詩人ですけど彼を残した絵画は存在しないはずです。売れば相当高値で売れると思いますよー」
そりゃあ、クルラ・カーステレオは2人の吟遊詩人の名前だからだ。顔と声担当と、話作り担当がいたのだった。顔を残すともう1人に悪いとよく言っていた。
器用だけれども真面目で、苦労しがちな彼らしい発言だった。まだ元気にしているだろうか。
「売るつもりはないよ。それが描かせてくれる条件だったからね」
「なるほど」
そんなことを言っていたら、僕を車椅子に運び終えたようだった。
「さて巨人探しから始めようか」
「この絵画は争いの種にしかならないから、しまってね」
そんなまさか。
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「見つからないね……」
「そうね……」
かれこれ3時間は散策しているがまるで見当たらない。車椅子はアンジーが押してくれているが、少し疲れをみせている。
巨人が見つからないなんてそんなことがあるのだろうか。
大きいということは即ち見つけやすいということだと僕は考えていたが、実は違うのだろうか。
「レイー!今日は1回帰ろう」
天秤を見ながら着いてきているレイに呼びかける。
「は…い、……え?」
「どうしたレイ?」
やっと上を向いたレイは何かに気がついたように顔を驚愕に染めた。
「あ、れは…巨、人……?」




