2-5
「やあリズ。昨晩はお楽しみだったかな?」
「つまらない洒落も言えるようになったのね」
リズが皮肉げに笑いながら言った。この反応……アンジーが、昨晩僕が何をしていたかを話したようだ。
うん、人のこと言えないね、そうだね……本当にごめんなさい。
「トリ様、お楽しみってどういうことですか?」
「充足感を得るために時間を使えたかどうかってことだよ」
「へえ、そうなんですね」
「……」
▫
「さて、今から北方に向かうわけだけど…」
馬車の中は暇だ。僕は寝ていればいいが、レイはそういうわけにもいかないだろう。
「……。魔王討伐メンバーについて教えてください」
レイがこちらを見ながら聞いてくる。
珍しいな。
「?いいよ」
「ありがとうございます!」
そういえばレイは英雄譚が好きらしかった。
出会ったばかりの頃は、よく本をねだってきたものだった。
「まずはアビィだけど……彼女はエルフでね?エルフって分かるかなええと、北の方で信仰されている神みたいなもので……」
「精霊」
リズが口を挟む。
そういう一貫しているところ好きだよ。
「……。精霊みたいなものでね」
「ハイ」
レイモンドが憮然とした顔で答える。
「人と同じような大きさ、見た目で空にあるアルフヘイムに住んでいるんだ」
「ついでに言うと混血が進んだエルフは普通に森や湖で見れるわ。神秘はずっと薄いけどね」
「それを言ったらドイツに住んでいるエルフはひどく身長が低い話もしなければならない。どうしてあんなに小さいのだろう?」
「アレはドワーフをエルフって言ってるんじゃないの。そういえば純粋なエルフって女しかいないのよね」
「……そうなの?」
そんな話は聞いたことがない。
でもリズがそう言うということは、少なくともそう書かれている文献があるということで……。いや、でもリズって結構嘘つくからな。
「……え?私が読んだ本にはそう書いてあったように思うんだけど……」
「うーん……」
本が間違っているのか僕が知らないだけか。
「あのー、エルフの話はもういいんで、そのアビー?さんのことを教えてくれません?私も気になってきました」
前の方からアンジーの声が聞こえる。
彼女は御者をずっとやってくれているので、ぜひその期待には答えたいところだ。
▫
「アビーはそのアルフヘイムから降りてきた奇特なエルフだったんだ。年齢は……確か500歳くらいだったかな。それなりの年齢だね」
そして勇敢なエルフだ。
アルフヘイムを狙うと告げた魔王達を冗談だと一蹴せずに、実際に討伐してみせたのだから。
「……そうね。確かに変なヤツだったわね」
リズも感慨深そうにつぶやく。
レイが顔を上げる。
「俺が読んだ本に出てくるエルフは見目が良いと書かれていましたが、どんな見た目でしたか?」
「ああ……確かにエルフは見目麗しいと評判だね。アビィも見た目は悪くなかったな、僕の好みではないが……」
「ああうん。ギリシャギリシャ。とりあえず美女だったから安心しなさい。というかエルフってだいたい顔同じなのよ、崩れる余地もないわね」
相変わらずリズは僕が知らないこともたくさん知っていてすごいなぁ。
「ああ、あえていうならオッドアイだったかな。エルフでああいうのは珍しいよね?」
「確かにそうね。精霊に準ずるもので虹彩異常となると遺伝ではないわけだから、……つまりどういうことなんだ……?」
「僕に聞かれても。アルフヘイムに住んでいるようなエルフの解体記録なんて持ち合わせてないから分からないよ」
「その感じだとその辺に住んでいるようなエルフの解体記録は持っていそうね……ああいいわ聞きたくない!」
僕が期待を込めた目で見ていたのかリズに手を振って拒絶された。
魔王討伐へ向かう旅路でもよくやったやりとりに、少し懐かしくなる。
「ちっ、つれないな」
「トリ様とエリザベータさんはアビゲイルさんのことに詳しくないんですか?」
「ああ……僕も隠していることが多かったしあんまり詮索するわけにもいかないから」
「私も同じ理由ね」
僕は自身の種族、リズは自身の身分を隠していたわけだ。
「……。あれ?じゃあなんでアビゲイルさんがアルフヘイム出身のエルフだって知って……」
レイが何かに気がついたような顔をした。
「ん?……見れば分かったよ。服がまず違う。使う魔法もかなり差がある。そもそも森に住んでいるエルフっていうのは長老のようなものを除いて弓矢が主武器だしね」
「私も似たような理由ね。……あーあと、500歳っていう年齢。その辺に住んでいるようなエルフは500歳もすればさすがに老けるわよ」
「なるほど。……それがアビゲイルさんの隠していることだったんじゃないですか?珍しいんですよね?」
……。……え?




