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「城…ですね」
「そうだね」
「そんなに大きくないですね…」
「…人間の城なんてこんなものじゃないかな?」
「私から言うことはないわね」
▫
「ゼンに会わせてもらえないだろうか?」
「……」
門番に聞くが、答えてくれない。…そもそもこちらを見ていないような気がする。
「うーん…」
仕方ないか。最終手段だ。
「入るよ?いいよね?」
門番の顔を両手で挟んで目を合わせる。
「…はい」
ぼんやりとしたまま門番が頷く。
了承が取れたなら入っても良いだろう。
「‘鍵’…っと」
鍵を手に持ち、門を開ける。
レイが車椅子を持ち上げて中に入れてくれる。
「さすがね、セディス。…本当にチート」
リズがついてくる。
「…。は!?…ってこれ入っていいんですか!?いや、入りますけどぉ」
アンジーが小走りで僕とレイの斜め後ろに来る。
護衛としての仕事を全うしているらしい。
「さて…ゼンはどこにいるかな」
「まあ…この造りだと…王がいるのは2階の奥だろうから…この方角かしら」
「建築まで詳しいのか…さすがリズ」
「……いや、本当にいるかは分からないからね」
レイに車椅子を押してもらう。
「!アンディ!」
レイが声を上げる。なにかを見つけたらしい。
「分かってる!」
アンジーが応戦する。
そちらを見ると巨人がいる。
「…。リズ」
「‘転移’」
巨大な剣が降ってきて、巨人を貫いた。
「…あのぉ、私に刺さりそうだったんですけどぉ」
「刺さらなかったんだからいいじゃない」
リズがどうでもよさそうに言った。
実際避けれると踏んでいたのだろう。
「私じゃなければ死んでいましたよ?私だから!生きてますけど!」
アンジーは相変わらず無表情のままだが、声色で機嫌が良さそうなのが伝わる。
「あはは、アンジーが楽しそうで僕も嬉しいよ。それじゃあリズの言った方向に向かおう」
「楽しくないです!」
「あはははは」
▫
「……ん?こんにちは」
「……。私はどうやら予想を外したみたいね」
そこにいたのはゼンではなく、凡庸な若い男だった。
「おかしいですね。俺には貴方が王様に見えます」
レイが困惑したように口を開いた。
「街で見た肖像画にそっくりだ。…服は心無しか質素ですが」
レイがそう言うということは、肖像画自体は本物ということであり、つまり。
「その通り。私が国王だ」
「…この国の王は随分と庶民派なようね」
リズが疑わしげな顔で言った。
リズは昔から少し無神経なところがある。
「うーん、つまりよく分からないことが分かったということかな?」
「それじゃあ何も分かってないじゃない。…私のことは知っていますか?国王」
「もちろんです枢機卿。ああ、あと君も知っている、ディストリングマン。アルからよく聞いているからね。確かに…少なくとも人間では無さそうだ。他は…残念ながら知らないな」
僕の目を見て一瞬で目を逸らした。鋭いな。もしかすると種族に勘づかれたかもしれない。
「いえ…俺はトリ様のお世話係なので」
「これから有名になってやるんで覚えておいてください!アンドレアです」
二人が答える。
アンジーの言葉は僕が翻訳して伝えておいた。
「それで君たちはどうやってこの城に入ったんだ?魔王討伐の立役者達をこっそり忍ばさせたなんて笑われてしまうな」
「いえ、表から堂々と入りましたよ」
「…え?」
「少し護衛の種類が偏っていますね。遠距離も攻撃できるようにした方がいいかと」
「はははっ!…さすが魔王討伐パーティだな」
今は斥候と支援役しかいないけどね。
洗脳にも強くした方がいいと思うが、それを言うつもりはない。
「…。貴方一応王様の弟なのよね?敬語を使わなくていいんじゃない?そもそも神族が人間に敬語を使ってるところなんて見たことないわ」
リズが小声で言う。
「いや…僕一応家出中だし…幼いし…」
僕も小声で言う。
「それでゼン…アレキサンダー将軍はどこにいますか?僕達は彼に会いに来たんです」
「ああ…それを言う前に君たちに頼みたいことがある…」
▫
「北の方で暴れている巨人を討伐ねえ…これで不法侵入を罪には問わないって少し厚かましいわね。別にいいけど」
「あはは…」
そういうことだった。
僕達は今国の重役揉めているところなのだから、思っていたよりもマシな対応じゃないか、とは思うが言わないことにした。
ちなみにさっき城で襲ってきた巨人は、帰りに確認するときれいさっぱり消えていた。
国王もその存在を知らないらしい。
今回はゼンに会うことはできなかったが、まだしばらく滞在する予定だ。会う機会もあるだろう。




