プロローグ
───────眠い。倒れこみそうだ。
それというのも魔王を倒して、呪いを受けてからずっとこうだ。覚束無い足で何とか足を踏み出す。
僕は運が良かった。魔王討伐のパーティに偶然入れて魔王討伐という名誉を手に入れた。
僕自体は全く強くない。ただ種族の特性上強い装備品の代償を踏み倒せるだけだった。
…………今までがあまりにも運が良すぎたのだ、家出をして約50年、兄にも見つかることはなく、それなりに人間にも馴染めていた。そうして、魔王討伐まで加わることができて……。まずいな、走馬灯のようなものが見え始めている。ここで倒れるわけにはいかない。
……。
昔、ある予言を聞いた。由緒正しき予言者が発した予言だ。その内容はこうだ、
『この時期に起こる災厄は片目が機械の黒髪の半神が打ち倒すのだ』、と。
僕は予言の言う災厄は魔王のことだと思った。しかし、僕達によってそれは倒せてしまった。予言通りにはならなかったのだ。
しかし今の僕の状況は、結局予言通りなのかもしれない。
僕も呪いにより新たな災厄となり得るのかもしれない。そうだとするならば、できるだけ被害を少なくするべきだった。
今僕がいるのはスラム街だ。もちろんスラム街の人間が死んでもいいという話ではない。
…………。
僕の大部分の元となった人間はスラム街を資源の宝だと書いていた。学会にいられないような人材がそこに存在するらしい。昔から少し憧れがあった。だから最後にここに来たかったというのもある。
このまま僕が倒れても、上手く対処をしてくれるかもしれないし、有効活用をしてくれる誰かがいるかもしれない。賭けのようなものかもしれないが、街で倒れるよりは希望がある気がした。
……。ああ、視界が暗く……。
「大丈夫ですか?」
とうとう倒れそうになるその時、持ち抱えられたような浮遊感と、少年特有の高い声が聞こえた気がした。僕はそのまま気を失った。
▫
「ここは……」
「俺の家です」
家?トンネルの中のように思える。そこに少し似つかわしくない清潔そうなベッドに僕は寝かせられていた。
再び目覚められるとは思っていなかったため、少し戸惑う。
「ああ、ありがとう。もういいよ、大丈夫だ」
そう言って僕は起き上がろうとした。これ以上迷惑になるわけにはいかなかった。
……。
「あ、あれ?おかしいな」
指が動かない。いや、動かないわけではない。とても重いのだ。
声も出しにくい。
「解析」
僕はその性質上、ある程度自身の状態を知ることができる。
「……怠惰の『祝福』?」
なんだこれは。
「あの…俺に助けられついでに頼みがあるんですけど…」
「あ、ああ。僕にできることならもちろん聞いてあげよう。…今の僕にできることは限られてしまっているが」
「本当ですか!?」
嬉しそうな声だ。話を聞くと、僕が外から来た人間だと気づき、話を聞きたいということだった。
そういえばスラム街にいる割には学がありそうな話口調だ、と思いながら僕は話し始めた。
▫
「魔王討伐に参加なさっていたんですか!?すごい!…俺の母はあの悪魔共に…」
あんまりにも嬉しそうに聞いてくれるから、億劫なことも忘れてつい話しすぎてしまった。
「うん。すごいのは僕じゃなくて仲間達だけどね…」
「いえそんなことは!…その、すぎたお願いなんですけどぉ…俺を雇ってもらうことってできませんか?お金に余裕あるんですよね?」
「え?」
驚いてついその少年の顔をまじまじと見る。
───────そうして、気づいてしまった。
その黒髪の少年が、災厄を打ち倒す機械の片目を持つ英雄だということに。




